もし固定スキルが『転生』だったら。

青緑

勇者召喚されました

 俺はアキラ、緋野アキラ。ある日、突然異世界へとクラスごと召喚されてしまい、ミリアナという世界の女神からひとつだけ何でも固定スキルを貰えると言われた。クラスメイト達は簡単に戦士やら、魔法使いやらと決める中、迷った末に女神に『普段使えず、簡単には使えないスキルって有りますか?』と聞く。すると有るわけがないと馬鹿にされたが、女神はいくつかあると言った。そして出されたスキルの中から「転生」という不思議なスキルを見つけ、固定スキルは決まった!女神は俺がスキルを決め終えてから顔を歪めていた。そして時が来て、気付くと俺達は鎧を着た複数の前に立たされていた。因みに「転生」スキルの詳細は…。


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・固定スキル『転生』

 使用者は生まれ変わっても、このスキルを所持する。また死んだ際のスキルや経験値・レベルは転生後に受け継がれる。及び、記憶も受け継がれる。このスキルは、たとえ神であろうとも授けた時点で取り除く事は不可能である。また固定スキルを他人に使う事も可能である。

 このスキルを授けられた者はステータスが大幅に上昇し、カンストするまで続けられる。このスキル所持者には転生後から様々な武器や道具を扱える。ただし始めはレベル1からである。


※このスキルはユニークスキルではないため、鑑定では分かりづらい。※


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 さて俺達は先程の場所から移され、半ば混乱状態である。そこへ鎧を着た人達の奥から1人進んできた。

「貴公らを召喚したのは、私達である。我がミラン山脈中心のミラン王国である。私はこの国の王を務めている、アレクだ。以後よろしく!」

 アレクと名乗る国王に対し、クラスメイトの動揺する中で委員長のケイジが1人前に出ると跪く国王に手を差し出し、挨拶を返す。

「…ケイジと言います、此方こそよろしくお願いします!」

「うむ、ところで召喚して早々に申し訳ないのだが。『ステータスオープン』と呟いて貰えるかな?」

「はい。『ステータスオープン』!」

「では、そこにある羊皮紙に職業を書いてくれるか?一応、職によって訓練場が変わるのでな。」

「えぇ。みんなも書いてくれ」

「「「はい!」」」

 そうしてクラスメイトの殆どが羊皮紙に名前と職業を書いていく。ある者はスキルまで書いてるのも居た。そんな中、俺はというと…。


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 アキラ=ヒノ 男 職:農民/未達人

・体力:30 ・魔力:10

・固定スキル:転生(隠匿)

・ユニークスキル:なし

・スキル:なし

・称号:なし


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 …と表示されており、そのまま名前と職業・農民を書き写した。幸い、女神から貰った転生スキルは隠匿されて隠れているようだ。




 その後、俺達は4人グループを作って用意された部屋へ移動し、ケイジの部屋に全員が集まっている。始めは『今後の方針と方向性について』というテーマでテンションが上がっていたが、アヤノという普段真面目な女子が『もう帰れないのか』と泣き始めると大半のクラスメイトが泣いた。

 そうして今は泣き止み、お互いに現状を整理し始めていた。現状はクラスメイトにとって最悪の状況であった。お金は地球の小銭しかなく、国王や建物の装飾を察する限り、コンビニもない。その日の夕食は豪華であったが、クラスメイトの顔色は暗い。俺も食べてみたが、味が薄くて湯のようで地球での食事が俺達にとって裕福であったと知った。アレク国王は食事をしながら、声を掛けようと動いているが言葉に詰まり、暗く静かな食事は終わった。食事後は重い足取りで用意された部屋へと各自で戻って行った。

 俺のグループは俺、サノ、リョウスケ、二トンである。だが部屋にはリョウスケだけが戻っていなかった。この時、俺達はケイジに伝えるだけに留めた。だが、リョウスケは戻らなかった。


   ◆◆◆


「団長。この羊皮紙に書かれた者をグループ分けにするのだが、どうすれば良い?」

 そう言葉を吐いたのは執務室の椅子に座り、唸っている男・アレク国王は、その傍らに控える騎士に問いかけていた。なにせ召喚した勇者一行の中に非戦闘要員が複数おり、その中には"農民"と書いた者が1人居た。その事に頭を悩まされて団長と呼ばれる騎士に行ったのだった。

「まず下働きとして、勇者一行の中に入れます。また無理であるなら降格とし、他のグループへ入れて役に立つ事を探させては如何でしょうか?もし納得がいかないなどと言われれば、武器を渡し狩りに連れ出せば現実を受け入れる事でしょう。」

「随分と現実的な回答であるな。しかし彼は…」

「『彼は勇者一行の同郷の者であり、そんな事は出来ない』というのでしょうか。しかしながら、もし邪魔になるようなら早いうちに切り捨てるのも勇者の為でございます。それに下手に外へ出して、悪用されても困りましょう?」

「あ…あぁ、そう…だな。」

「では、翌朝にでも報せに向かいます。念のために王命書を頼みます。」

「了解した!少し待て、今から書く。」

 騎士団長は国王を気の毒そうに眺めていたが、言い出しっぺが自分である為、押し殺した。国王はこの日に決断したことで後に後悔するのだが、今はまだ少し先のこと。


   ◆◆◆


 翌朝、アキラは共同部屋で寝ていたサノと二トンに起こされ、部屋の扉を開けると騎士が3人おり、先導してくれた。そして広場に出されると、他のクラスメイトが集まっていた。どうやら最後だったようだが、騎士は特に気にしていないらしく、淡々とクラスメイトの部屋のグループで所属する場所を告げていく。その中でアキラの居るグループだけ何も告げられなかった。それはアキラの他のメンバーも分かっていたのか、特に口を出すことはなかった。しかしアキラへ豪華な装飾の入ったマントを着た騎士が向かってきた。そして目の前で王命を言い渡された。

「アキラ=ヒノ殿。貴公の職業は希少で滅多にない為、同郷という事もあり、勇者一行の下働きとして使えるように王命が下った。また勇者召喚に巻き込んだという事もあって、王命に従わなくとも良いと言質は取ってある。そのため、強制ではない事だけは伝えよう!国王は寛大である、ある程度の条件なら飲んで貰えようぞ。」

 騎士団長は王命を言い渡しながら、内心ではアキラの言葉を待っている間、他の同郷の者からの視線に冷や汗をかいていた。しかし騎士団長の想いは杞憂に終わるのであるが。

「…分かりました、その王命に従います。また条件はあります。」

「何かね?王城から出ること、この国を出ること、など以外ならば叶えられるぞ!」

 アキラは自身のグループを一目見てから、胸を張って騎士団長へ言う。

「俺以外の非戦闘要員となってる彼らも同じように扱ってくれるなら了承します。」

「む?その"以外"と言うことは、貴公は入るのか?入っておるならば、そう国王に伝えよう。」

「入ってます。何より役割はどうあれ、みんな平等というのが一番だと思うので!」

「「「お…おお…おおお!!」」」

 アキラの言葉でクラスメイト一同が活気に満ちた。それに騎士が動揺して、腰を抜かす者、目を見開く者と様々であった。アキラのグループメンバーはアキラの言葉で喜んではいたが、リョウスケがいないため、クラスメイト達のように騒げなかった。




「上手くいって良かったな、団長。」

「えぇ。ですが、まさか王命以前に仲間を思いやるとは…な。私には想像できなんだ」

「私もですよ、それと陛下。」

「なんだ?」

「アキラ殿のグループに居た"リョウスケ"というメンバーが戻って来ないという申し出が数日前より出ていたようです。早急に当たらせていますが、未だに…」

「そうか。このままでは拉致があかん、城を出ていても国を出ることは難しい筈だ。街に似顔絵を出し、捜索範囲をもっと広げ…」

  …ガシャガシャガシャ…

 アレク国王が言い終わる所で扉の向こうから騒がしい音が聞こえて口を閉ざした。音から複数と察知した騎士団長は腰の剣に手をやり、扉の横で待機する。

「こ…国王陛下、緊急です。」

「入れ」

「はっ!

(…ガチャ…)

 ひっ!?ほ…報告します、アキラ殿のグループより申し出のあったリョウスケ殿の件なのですが、発見しました。」

「なに、どこだ!見つけた…ではなく、発見なのか?早く答えぬか!」

「はっはい。その…城壁から離れた場所で怪我を負った男がおり、それを…その…王妃様が。」

「王妃がどうした!」

「はっ。刺客かと誤認したらしく、治療薬で治療しつつ、軟禁中とのこと。未だに目を覚まさないようで」

「王妃には後で儂から話す、騎士団長は後程アキラ殿のグループへ療養中であるとだけ伝えよ。」

「はっ!」

「で…では、失礼します!」

 腰の剣に手を付けていた騎士団長に怯えて、騎士は慌てたように退室していった。騎士の退室を見送るなり、騎士団長は剣から手を放した。国王はその態度に溜息を吐きながら執務室の窓から外を眺めだした。




 アキラの居るグループへ騎士団長がリョウスケの安否を伝えると、みんな喜び合って笑いこけた。この日はホッとして、ぐっすりと眠った。翌日から早速、下働きとしての体力づくりを行った。まずは盗賊に遭う、魔物に遭うといった事に対処できるように自分がどの武器と相性が良いのか調べ始めた。しかし他のクラスメイト達は相性が分かったのに対して、アキラは一向に相性の良い武器・防具が判明しない為、難航していた。

 そこで騎士団の中で会議が開かれ、数多の賛成と批判が挙がった所で、騎士団長が"様々な武器・防具を扱わせて探す"しかないという事が決定された。

「アキラ=ヒノ殿…」

「アキラで良いですよ、ここは正式な場ではありませんから。」

「え!? わ…分かりました、では改めてアキラ殿。実は先程、会議にて手当たり次第に武器を扱わせるということに決まりまして。念の為に聞きたいのだが、異論はあるかな?」

「いえ、大丈夫ですよ。むしろ迷惑を掛けていないかという方が俺からは心配ですよ。」

 そうアキラが話せば首を横に振りながら、騎士団長は謝罪をしてきた。団長からしてみれば、勝手に呼ばれた上に弱い者を優遇してまで取り組む事に対して罪悪感が半端なかったからだった。そうと知らないアキラは様々な武器の中から1つずつ手に取りながら教え込まれた。


 それから数日間、剣から始まって槍術、盾術、格闘術、斧術と基礎訓練が始まった。

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もし固定スキルが『転生』だったら。 青緑 @1998-hirahira

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