第3話 たまたまが重なった幸せ
おじさんのテリトリーは駅のロータリーだ。
いつもバス停の横の植え込みのそばで、胸のところに雑誌を掲げてただぼんやりと立っている。
ぼぉっと寂しそうに、表情も変えずに。
かなり遠くからおじさんめがけて歩いてくるのに、とても近くに来るまで気が付かない。
そして本当に目と鼻の先まで来てこちらに気づくとパッと明るい表情になる。
そのあと顔をくしゃくしゃにして慌てて野球帽をとりながら「ありがとうございます!」と何度も頭を下げる。
おつりなしでぴったり渡すと「あっ、とっても助かります!」とまた喜ばれる(なのでひさこは必ずおつりがないように準備することにしている)。
お天気だとか最新号の内容だとかちょこっとおしゃべりをして、別れ際に元気に「おつかれさまでしたぁ!」である。
おじさんはいつもいるとは限らない。
なのでひさこがたまたま北口に用事があるとき、たまたま2週間に一度の最新号をまだ買っていないとき、たまたまおじさんがいるとき、のたまたまが重なったときに「あ!」と思って慌てて小銭入れをごそごそする。
そして「おつかれさまでしたぁ!」のあとはなんだかとっても得したような幸せな気分になるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます