第79話 復縁計画

 海琴はゆっくりと語り出す。自分がついた嘘の事を。それを乃々華は頷き、時に相槌を打ちながら聞いた。そして、聞きながら二人の認識の違いに気付いた。


(へぇ……この人、嫌われたって自分で言ってるくせに、まだ付き合ってるって思ってる。キョウの中じゃもう彼女じゃないのに)


 そして海琴が全てをあと、乃々華が問いかけた。


「それで、澤盛さんはどうしたいんですか?」

「ちゃんと話して仲直りしたいの……」

「ちゃんとその事を言いましたか?」

「杏太郎君からちゃんと話が聞きたいって連絡きたけど、まずはちゃんと謝らないといけないと思ってごめんなさいって送ったけどそこから何も返事来なくて……」


(あぁ。それが決定的だったのね。そこでその一言だけなんて相手を拒否ってるようなものじゃない。ほんとバカ。だけどバカでありがとう。おかげでキョウの縋る相手がいなくなったんだもの。これであとはキョウが私に溺れるように仕向けるだけね。その為にはもっともっともっともっと傷付いてもらわないと。私のことしか信じられなくなるくらいに……)


「わかりました。私が協力してあげます。なんてたってキョウの幼馴染ですからね! なんでも知ってるので任せてください!」

「ありがとう華原さん」

「私の事は乃々華でいいですよ。友達になりたいんです」

「なら私のことも海琴でいいよ」

「じゃあ海琴ちゃんで。それで作戦なんですけど……」

「うん」


 そのまま海琴と乃々華は日が暮れるまで話し続けていた。そして、表面上はすっかり仲良くなった二人が店を出てから数分後、一人の客が二人の座っていた席を少し離れた場所から眺めている。氷が溶けて薄くなったカフェオレの入ったカップを手も使わずにその豊満な胸に乗せ、ストローでちゅうちゅう吸っている透き通るような銀髪を持った少女が。


「あ、水滴が谷間に。流れ落ちる瞬間を写真に撮って師匠に送らなきゃ」


 ◇◇◇


「いってきます」


 そう言って玄関を出た俺の目の前には乃々華の姿があった。


「おっはよん♪」

「…………」


 だけど俺は無視をして横を通り過ぎる。少し前までじゃ考えられないけど、今の俺は乃々華と話す事に恐怖すら覚えていた。


「ねぇねぇキョウ? なんでノノのこと無視するのかなぁ〜?」

「…………」

「あ、見て見て? 今日ね? ノーブラなの♪」

「…………」

「うっそ〜! ホントだと思った? 学校行くのにそんなわけないじゃ〜ん! でもでも、キョウが望むならしてあげてもいいかな〜? なんちゃって!」

「…………」

「昨日、海琴ちゃんと会ったわ」

「っ!?」

「やっとこっち向いてくれた♪」

「お前、これ以上何をしようとしてるんだ」

「ノノがすることはぜーんぶキョウの為の事だよ? それに先に連絡してきたのは海琴ちゃんからなの。わざわざ私の連絡先を先輩から聞いてまでね。キョウと仲直りがしたいって泣きながら言ってたんだから」

「そ、そんなわけ……。それにお前の言うことなんか信じられるかよ」

「ほら見てこれ。一緒に写真撮ったのよ?」


 乃々華が俺の眼前に突き出してきたスマホの画面。そこには乃々華と海琴の二人が顔を寄せあって写っていた。


「お、お前っ! お前が今の状況を作っておいてどういうつもりなんだよ!」

「それは違うわよ? 全ては海琴ちゃんが嘘をついたことから始まったの。それをどうして私のせいにするの? なに? 自分が好きだった人は何も悪くないとでも言いたいの?」

「それは……」

「いいの。それでも私はキョウが好き。好きな人には幸せになってもらいたい。だから……」

「……なんだよ」


 乃々華は俺が見たこともないような顔で笑う。そして──


「私が二人の仲を取り持ってあげるわ」


 こんな事を言ってきたんだ。

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