第78話 呼び出された乃々華
乃々華がケラケラと笑いながら階段を上がって行ったあと、俺はキッチンに入って姉さんの朝食の準備を始めた。
「杏太郎! 乃亜、今日はパンがいい!」
「…………」
このまま姉さんと遊ばせていいのか? 今度は姉さんにあることないこと吹き込むんじゃないのか?
「杏太郎? おーい」
「…………」
だけど乃々華は姉さんの事情をある程度は知ってるんだよな。ならさすがにそこまではしないか? アイツが執着してるのは俺だけっぽいし、さすがに姉さんまでには……
「きょうちゃんっ!」
「っ! あ、あぁゴメン。パンだったな。今焼くから少し待っててくれ」
「も〜う! ノノちゃん待ってるんだから早く早く!」
「わかったって」
俺は一度考えるのをやめてパンをトースターに入れ、冷蔵庫に向かうとハムとレタス、トマトを出してスライスする。焼けたパンにマーガリンを塗るとスライスしたやつを挟み、耳を切り落として皿に乗せて姉さんの前に牛乳と一緒に置いた。
「やった! いっただきまぁ〜す♪」
苦手なトマトに嫌な顔になりつつも食べてる姉さんを見ていると、上から物音がした。だけどこの感じは姉さんの部屋じゃない。俺の部屋だ。
「ちっ!」
しまった。姉さんが絡んだことで変に信用しすぎちまった。俺は急いで階段をあがって自分の部屋のドアを開ける。するとそこでは乃々華が俺のベッドに座りながら漫画本を読んでいた。
「姉さんの部屋に行くんじゃなかったのか?」
「ん〜? ちゃんと行ったよ? 行ったんだけど……」
「なんだよ」
「座る場所がなかったんだよね〜」
「……ちょっと待ってろ」
俺は廊下に出て姉さん部屋に入る。
「うわぁ……」
そして愕然とした。床には着たのか着てないのか分からない服が散らばり、少女漫画がそこかしこに置いてあり、フローリングがほんの僅かにしか見えなかった。
「こ、この前片付け手伝ったばかりなのに……」
とりあえず集めれる物は集めて部屋の隅に。本は本棚に入れてある程度のスペースを作ると自分の部屋に戻った。
「片付けてきたからそっちで待ってろ」
「え〜? なんかノノへの対応つめたぁ〜い」
「どの口が言ってんだ。それに今の乃々華は俺の部屋で何するかわかんないしな」
「今のって? ノノはずーっとノノだよ? それにノノが何すると思ってるのかな〜? 何もしないよ? 盗聴器も隠しカメラも付けたりしてないよ?」
「っ! お前まさか……」
と、そこで朝食を食べ終わった姉さんが俺の部屋に入ってきた。
「あ〜! 杏太郎! ノノちゃんのことイジメないのっ!」
「い、いや、これは……」
「ほらノノちゃん、乃亜の部屋いこ!」
「はぁ〜い。じゃね、キョウ」
そして姉さんの部屋に向かう乃々華。それからしばらく隣からは楽しそうな声が聞こえ、俺はその間に念の為部屋に何か変わった事が無いかを調べたけど、特に何も無かった。
やがて昼を少し過ぎた頃、一応三人分の昼食を準備しているとちょうど二階から二人が降りてきた。
「杏太郎、ノノちゃん、帰るって!」
「そうなのか? 飯作ったんだが……」
「キョウごめんね〜? ちょっと呼び出されちゃって。キョウの手作りご飯食べたかったんだけどなぁ〜」
「いや、別に」
「じゃあね。乃亜さんもまた遊びましょうね〜」
「うんっ!」
そしてどこか焦ったように帰っていく乃々華。
「そんなに遊ばないで帰っていったけど、なんだったんだ」
「でも楽しかったよ?」
「まぁ、姉さんがそう言うなら……」
それから俺は玄関の鍵をしめて姉さんと一緒にキッチンに行き、昼食を食べてからソファーで一緒に映画を見て過ごした。
◇◇◇
━━ここは駅前の細道を進んだ先にある喫茶店。乃々華は店内に入ると自分を呼び出した相手を見つけるて声をかけた。
「こんにちは澤盛さん。どうしたんですか? わざわざ先輩に聞いてまで連絡してくるなんて。ノノ達ってほとんど接点なかったですよね? あ、でも確かノノの幼馴染のキョウと付き合ってるんでしたね」
乃々華の視線の先でその言葉に肩をビクつかせたのは、目を赤く晴らした海琴。
「あ、あのね……この前の試合で初めて前に杏太郎君と一緒に会ったのが華原さんだって事に気付いたの。ごめんね? この前は初めましてなんて言っちゃって。それで……えっと……実はお願いがあって、華原さんの高校の知り合いにお願いして連絡先を教えて貰ったんだ」
「別にいいですよ〜。テニス部人数多いですからね。それでお願い……ですか? あ、もしかしてキョウの好きな物を知りたいとか? いいですよ〜! ラブラブな二人の為ならなんでも教えちゃいます」
「……っ! ち、ちがっ……そうじゃ……なくて……うぅぅ……」
突然泣き出し、両手で顔を覆う海琴に乃々華は優しく声をかけた。
「どうしたんですか? 何かあったんですか? なんでも話してください。相談にのりますよ?」
「うっ……ヒック……うん。うん……ありがと……。実は私、杏太郎くんに嫌われちゃったみたいで……」
「それは…………悲しいですねぇ」
そう言う乃々華の表情は、自分でも気付かない内に微笑みが浮かんでいた──
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