ポッキーの日SS
とある日、時雨に呼ばれて書道部の部室に行くと、中に通されてすぐに鍵をかけられた。
「なぜ鍵をかけた」
「師匠、それは誰にも邪魔をされないためです。決して師匠が逃げようとしてもすぐには逃げれない為ではありませんよ?」
「おーおー、全部言っちゃってるなぁコノヤロウ」
「逃げようとしてももう遅い、ですね。それではこちらにどうぞ」
とりあえず言われるがままに靴を脱いで畳の上に上がる。そこには墨や半紙などが綺麗に整頓されて置かれていた。
「なんだ? 俺になんか書けってこと? 言っとくけど俺、書道苦手だぞ?」
「いいえ違いますよ? 師匠が来るまで少し書いていたんです。それをまだ片付けてないだけです。ところで……書道は苦手でも魚拓とかは取ったことありませんか?」
「んー、無いな。釣りに滅多に行かないし」
「そうですか……。それなら今取ってみますか? あ、でもお魚いませんね。しょうがないので私の胸でやってみましょう。パイ拓です」
時雨は頭のおかしい事を言いながらブレザーを脱ぎ、ブラウスのボタンを三個ほど外してブラと谷間をチラつかせた後、シャツの中に手を入れると後ろに回してゴソゴソし始めた。
「おいやめろ。ブレザーを脱ぐな。ボタンを外すな。ホックに手を回すな」
「…………え?」
「え? じゃないが!?」
「私の胸、大きいので拓りがいがありますよ? それに師匠はもう私の産まれたままの姿を全部見たじゃないですか……ぽっ」
「拓りがいってなに!? そんな言葉聞いた事ないんですけど!? それに見たと言っても、生後数時間の本当に産まれたての写真だろうが! あと、擬音を口で言うな 」
「ホントに師匠はコッチのツッコミも上手ですね。さすがに冗談ですよ? はい、というわけで、すでに拓ったものがこちらにあります」
「料理番組かよ。そして拓ったのかよ。あ、拓ったって言っちゃった」
「はい、こちらです。どうぞお納めください」
コッチとかアッチとかよく分からないけど、そこを指摘するのはやめておく。
そして時雨から仰々しく渡された半紙を見ると、そこには達筆で【パイ拓】と書かれていた。
賞を貰う程の腕で何書いてんだよ……。
「師匠、ガッカリしました? ガッカリしましたか?」
「色んな意味でガッカリだよ」
「本当はちゃんとやろうと思ったんですけど、私が筆の刺激に耐えれそうもないので辞めました」
「アー、ハイ。ソーデスカ」
「というわけで本題です。師匠、今日は何の日か知ってますか?」
「今日?」
今日は11月11日か。なんかあったかな?
「教えてあげますね。今日は、ポ……ポッ…………ポッキーの日……なんです……」
なんでそんなに恥ずかしそうに言うんだよ。
「あぁ、【1】が並んでるからか」
「そうです。なので、一緒に食べませんか?」
「あるのか? あるなら食べる。結構好きなんだよ」
「待ってくださいね? 今準備しますから」
何故か後ろを向く時雨。準備? 準備ってなんだ?
そのよく分からない準備を待つこと数十秒。振り返った時雨の姿に俺は頭を抱えた。
「はいどうぞ。根元まで召し上がってくださいな」
「お、お前なぁ……」
「はい?」
なぜなら、さっきボタンを外して開いたままの胸の谷間にポッキーを挟んでいたから。しかも体温で少しチョコが溶けている。
「し、師匠大変です! チョコが胸に垂れてきました。早く食べてください」
「食べるわけないだろうが! ここ、学校、わかる?」
「………………」
「ちょっ!? なんで無言で挟む本数増やした!?」
「師匠が食べるまでどんどん増えていきます」
「あーーーーもうっ!!」
俺は覚悟を決めた。
◇◇◇
「……ご馳走でした」
「はい、お粗末さまでした。…………はふぅ。これはアレですね。学校でやることじゃないですね。いろいろ大変です」
「だから俺言ったよなぁ!?」
まったく。時雨のやることはいつも俺の想定外で困る。まぁ飽きないからいいけどさ。
あ、そういえば……
「なぁ時雨、俺たち付き合ってるのに、なんで学校では俺の呼び方師匠なんだ?」
「校内ではそっちの方が落ち着くんです。それに名前で呼ぶと……」
「呼ぶと?」
「ムラムラします」
なんでだよ。
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