第76話 言葉足らず

『ごめんなさい……』



 その短い一文は海琴さんから届いたメッセージ。



 公園で時雨と別れたあと、言われた事を思い返しながら海琴さんにちゃんと話したいって内容のメッセージを送った。その為の時間も合わせることを伝えた。すぐに既読は付いたけど返事は来ないままで時間が経ち、風呂も晩飯も終わってから部屋に行ってスマホを見ると新着のメッセージが一つ。

 それがこれだ。



「ごめん……か。そうか。それだけか」



 話を聞くことも、もう一度会う事も拒否されたってことか。つまりこれで俺たちの関係はもう終わりって事なんだろう。

 ショックにはショックだけど、思った程ではないかな。きっと、付き合ってた期間が短いのと、さっき時雨と話した事がそれを和らげている気がする。

 そうじゃなかったら泣きはしないにしても、もっと凹んでいたはず。



「あぁ〜! 短い春だったなぁ〜。せめて童貞くらい捨てたかったわ。つーかこの事母さんと姉さんになんて言おう? 『早すぎっ!』って笑われそうだな。っとその前に……」



 俺は再びスマホに視線を落とすと、海琴さんの番号とIDを消す。履歴も削除。俺のスマホは登録外拒否に設定してあるから、これでもう何も来ない。

 そしてスマホを枕元の棚に置いてベッドに寝転んだ。



「くそっ!!」



 俺はそれだけ呟いて目を瞑る。これぐらいは言ってもいいだろ。

 さて、明日は休みだ。何をしようか? 何もすることが無いな……。




「……んん……」



 翌朝、目が覚めると部屋はまだ暗かった。手探りでスマホを手に取って時間を見るとまだ四時半。昨夜は何もする気が起きなくて十時前に寝たから、そのせいだろう。

 あまりにも早く起きたから、もう一度寝ようと思っても全然眠気が来ない。



「起きて録り溜めしてたアニメでも見るか」



 そう決めて部屋から出ると、階段の下から僅かに明かりが見えた。誰か起きてるのかと思って下に降りると、着替えて化粧もした母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよ」


「あ、おはよー。早いわね」


「ん? あぁ、まぁね。なんか目が覚めた」


「また寝る?」


「いや、寝ようと思ったけどダメだったから降りてきただけ」


「そう? ならちょうど良かったわ。お母さん今日早番なのよ。だから続きお願いしていい?」


「わかった」


「頼んだわね。じゃ、いってきまーす」


「気をつけてな」



 俺はレコーダーの電源を入れて適当なアニメを流すと、仕事に行った母さんの代わりに台所に立って朝食作りの続きを作る。

 そして出来たものを皿に乗せ、ラップをかけてテーブルに置くと、俺は自分で煎れたコーヒーを持ってソファーに座った。


 ボーッとテレビを見ているうちに寝ぼけた姉さん降りてきた。それから一緒に朝食を食べ、今度は二人でボケーッとテレビを見ていると、突然インターホンが鳴る。


 そして玄関に行ってモニターを見ると、そこには──



『遊びにきたよんっ♪』



 乃々華の姿があった。


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