第70話 遭遇

 結局、来週の約束が出来ないまま昼になった。

 一緒にリビングに降りて、俺ん家に来る途中のコンビニで買ってきた弁当を二人で食べると、再び俺の部屋に戻って少しまったり。

 ちなみに海琴さんは俺の腕を組んで座り、くっついて離れない。だから俺の腕は常に海琴さんの胸にフニョンフニョン。

 それなのに触ったり押し倒したりしない耐えてる俺は偉いと思う。

 ヘタレじゃないんだ。まだその時じゃないのだ。


 で、そんな誘惑に耐えながらスマホで色んな服を見て、似合う似合わないを言い合ったりすると、時々目が合う。……そしてキス。

 少し照れながら目を逸らしてスマホに視線を戻すけど、また同じことの繰り返し。

 それが雑誌になっても、漫画になっても同じ。

 ちなみにちょっとエッチな表紙の漫画は隠した。だんだんさらけ出して行く予定ではあるけど。


 まぁ本当は、ある程度俺の部屋で過ごしたらどこかに行こうと思ってたんだよな。だけど海琴さんの荷物を見て、大きな鞄を持って歩くのは大変だなって事でやめた。


 とまぁ、そんな事をしているうちにいつの間にか結構な時間が経っていた。



「海琴さん、そろそろ行きます?」


「……ぅん? あれ? もうこんな時間? そうだね、そろそろおいとましよっかな。初めて来たのになんかすごい安心しちゃった♪ それに……一緒にいるとあっという間だね?」


「ですね。安心してくれたなら良かった。てっきり警戒されるかと思ってましたし」


「警戒は……ちょっとしてたかな? けど実はちょっとだけ期待も……してたかも?」


「え?」


「じ、冗談だよ冗談! さ、さすがにそういうのはまだ早すぎるよぉ〜! で、でも……いやいやいやいやいや」



 あ、始まった。海琴さんの一人テンパリ。見てて可愛いし面白いからいいんだけどね。

 だけど今は我慢してスルーだ。それはなぜか。

 今の時間だと、母さんと姉さんがいつ帰ってきてもおかしくないからな。

 さすがに付き合ってそんなに経ってない状態で部屋に入れてるのを見られたら何を言われるのかわかったもんじゃない。

 姉さんは確実に騒ぐし、母さんはSNSのマンガのネタにしそうだ。それだけは回避しなくては。



「海琴さん、鞄は俺が持ちますね」


「──確かにエッチなのはダメって言ったけど、ちょっと触るくらいなら許しちゃったりなんかしちゃったり? でもでも! もしそれで止まんなくなっちゃったりしたらどうしよう!? 胸くらいなら……やっぱりダメ! 変な声出たら恥ずかしいもん!」



 ……まだ続いてた。胸くらいとか聞こえる声で言うのやめて? 次から期待しちゃうから。胸ばっかり見ちゃうから。



「海琴さ〜〜ん」


「へっ!? あ、うん、今行くね」



 そう言って立ち上がり、扉に向かう海琴さん。

 何故か制服のままで。

 ちなみになぜ今までずっと制服姿でいたのかというと、俺が制服姿の海琴さんを可愛い可愛いべた褒めしたら、「え、え〜? そんなに? じゃあこのままでいよっかなぁ〜?」って言ってくれたからだ。



「待って待って待って! 服! そのままで行くんですか!?」


「え? あっ! 危ない危ない……。じゃあ着替えるね。後ろ……向いてて?」


「りょうかいです」



 危ない危ないじゃないって。大学生が高校の制服着たらもはやそれはコスプレじゃん? なんか妙に似合ってたけども。


 それから私服に着替えた海琴さんと一緒に家を出ると、俺達は駅に向かって歩き出す。大きな鞄はもちろん俺が持っている。


 そして駅までもう少しというところだ。

 駅の方から歩いてくる乃々華。髪は下ろしていて、いつものサイドテールじゃないうえに大人っぽい化粧。それと七分丈のレギンスとカットソーというほとんど見たことがない格好をしていて、最初は気づけなかった。


まさかここで会うとは……。





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