第69話 交わされない約束

 海琴さんが制服に着替えたあと、俺達はそのままひたすらにイチャイチャした。

 ちなみに十八禁な事はしていない。


 俺の卒アルを見ながら、



「ねぇ、この中に杏太郎くんの好きだった子とかいるの?」


「いませんよ」


「うそだぁ! いないはずないよぉ〜!」


「嘘です。でも教えません」


「じゃあもうチュウしないもん」


「この子ですね」


「あはっ! 早いよぉ〜! でもそれってチュウ出来なくなるのがイヤってことかな? もうしょうがないなぁ〜♪ …………ちゅっ」


「……もう一回」


「えぇ〜? しょうがないなぁ〜。ちゅっちゅっちゅ〜♪」



 こんな感じである。

 決して人には見せれない。見せるわけにはいかない。

 暇さえあればさっきからずっと、ちゅっちゅっしてる。

 アルバムを見てる時なんか、俺の方に身を乗り出してくるから俺の腕に海琴さんの胸やら二の腕やCuteらがぷにぷに当たる。

 更に個室という空間のせいなのか、警戒心が薄れてスカートが揺れる揺れる捲れる。

 だから二度ほど僅かに白いパンツが見えた。つまりパンチラだ。チラッチラだった。

 しかも海琴さんはそれに気づいていない。

 俺の部屋にそこまで居心地の良さを感じてくれているのは嬉しいが、もう少しくらい緊張して欲しいとも思ったりして……。


 まぁいい。

 さっきから止まることなく動き続けている海琴さんもそろそろ疲れただろう。なんかお菓子と飲み物でも持ってくるか。ちょっと遅いけど。

 ラブコメによくある母親が差し入れを持って、「お菓子とジュース持ってきたわよ〜……ってあらあらうふふ」的なのも、二人きりだと起きないからな。



「海琴さん、俺ちょっと飲み物とか持ってきますね」


「え? あ、うん。ありがとう! ごめんね?」


「いいですって」



 俺は部屋から出るとキッチンに向かう。

 冷蔵庫から買っておいたペットボトルのカフェラテを二本……カフェラテを……カフェラテが無い。

 その代わりに置いてあったのは手のひらサイズの乳酸菌飲料。ヨコルト二本。そしてメモ。

[コーヒーぎゅーにゅーはもらった! かいとう乃亜 百二十三せい!]


 おのれ……姉さんか。


 しょうがないからこれを持っていこう。乳酸菌飲料でさらに大きくなるかも知れないけどそれはそれで。

 俺はヨコルトとポテチとチョコを持って階段をのぼり、自室のドアノブに手をかけた。

 その時──



『ど、どうしよう!? 動いてないと変なこと考えちゃって止まんないの! 回遊魚みたい! あ、名前に海は入ってるけどもぉ〜! どうしようどうしよう……お菓子とかジュース飲んでまったりなんかしちゃったらヤバいよね!? もし杏太郎くんに押し倒されちゃったりしたらどうしたらいいの!? もう思いっきって受け入れちゃう? でもでもまだ早いよね? うぅ〜〜!』



 み、海琴さん……。大丈夫です。俺、頑張って耐えますからっ!

 いざ! 入室! 何とか話題を逸らさないと!

 って確かに乃々華が前に変なこと言ってたな。来週は海琴さんと約束出来ないとかなんとか……。

 いや、まさかな。けど……



「持ってきましたよ。食べながら来週の予定でも立てます?」


「あ、ありがと〜♪ って来週?」


「はい。来週の休みはどこに行きます?」


「え……あ、あ〜〜えっとね? 来週の日曜日はちょっと無理なんだぁ。ちょっと試……じゃなくて大学で用事があって……ね?」


「そうですか。ならしょうがないですね」


「うん。ごめんね?」


「大丈夫ですから気にしないで下さい」




 …………いや、ただの偶然だろ。常に予定が合うなんてあるわけないもんな。

 うん。きっとそうだ。だから、なんかモヤモヤするのもきっと気の所為だ……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る