第67話 制服
鞄をゴソゴソしていた海琴さんが一言。
「むぅ……やっぱりアンスコ無いや。でも……う〜〜ん」
「いや、そんな無理しなくても……」
「だって杏太郎くん見たいんでしょ? それに……」
「それに?」
「か、可愛いって言って欲しいし……」
いや、もうそのセリフが可愛いんで、胸がいっぱいなんですけど。
見たいとは言ったけど、ウェアを胸に抱いて照れながらそんな事を言ってる姿がとんでもなく可愛いんですけど!?
「ん! 決めたっ! 杏太郎くんちょっと後ろ向いてて! ぜっっっったい振り向かないで!」
「へ?」
「アンスコは無いけど、見えるような動きをしなきゃ良いだけだもんね! だから今から着替えて見せてあげる! だからほらほら! 早く後ろ向いて!」
「え、あ、はい」
そして俺は海琴さんに背中を向けた。
背後から聞こえる衣擦れの音。残念ながら窓やら鏡に映って見えたりするようなラッキーイベントはないけど、それでもドキドキはする。
俺が廊下に出てれば良かったんじゃね? とも思ったけど、敢えてそれは言わないのが男。もしかしたらを期待するのだ。
「き、着替えたからこっち向いても……いいよ?」
だがしかし! そんなもしかしたらは、起きなかった!
いいよと言われて振り返ると、そこには白と青を基調としたテニスウェア姿の海琴さん。
アンスコを穿いてないせいで落ち着かないのか、スカートの裾を押さえている。
その姿がなんかこう……可愛すぎて意地悪したくなる。だけど我慢。
そして自分の語彙力の無さに呆れてくるな。
こんなことしか言えない。
「…………可愛い」
「〜〜〜〜っ! こ、これ……思ったより恥ずかしいよ? 彼氏の部屋でテニスウェアとかって、なんかエッチ……」
いや、そういう事思ってても言わないで!?
変に期待しちゃうから!
……ってちょっと待って? なんで無言でまっすぐこっち来る? なんで俺の前に立つ? ……なんで隣に座った?
「えっと……海琴さん?」
「今日……まだちょっとしかくっついてない……から……」
待って。待て待て待て! さっきの流れからこれはダメだ。絶対理性がもたない。しかも場所が場所だ。ベッドの上だ。さっきだって我慢したのにこれ以上はだめだって!
いやね? 俺だって期待しなかった訳じゃないんだよ? だけどさっきエッチなのはダメだって釘刺されてるからね? それにまだ付き合ってそんなに経ってないからね? ほら、こういうのはコスプレみたいなこと事してもらったついでとかじゃなくて、もうちょっと順序を踏んで、もう少しムード的なのもいい感じの時に……って、こんなん夢見がちな事を言うから童貞って言われるのか!?
……いいのか? これは攻めてもいいのか? ちょっとくらいおっぱいとか触ってもいいのか? いや、ダメだ。それはダメだ。
くそぅ! こんな時どうすればいいんだよ!
そんな事を頭の中で考えている時、海琴さんが俺の方を向いて目を閉じる。
さすがに俺でもわかる。これはキスを待ってるんだってことは。
だけど、それに応えようとした時、とある物が目に入った。
それは海琴さんの大きなカバンからはみ出た服。というか制服。
海琴さんが着てるはずの無い、見覚えのある制服。
「……あれ? 海琴さん、あれって久鳴谷学園の制服? 俺の高校の姉妹校の」
俺がそう言った瞬間、海琴さんは閉じていた目を大きく開き、すぐに鞄の所に行くとその制服を押し込む。
そして俺の方を向いて一言。
「ち、違うのっ!」
違うって何がだ?
いったいどういうことなんだ? なんで海琴さんがあの制服を持ってるんだ?
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