第66話 テニスウェア
今日は日曜日。俺はこの前のデートの時と同じように、大学の前で海琴さんを待っている。
本当は九時の待ち合わせだったんだけど、なんか急用が出来たみたいで十一時に変更された。
海琴さんは部活の集まりがあって──って言ってたけど、多分サークルの事だろうな。まだ一年だから高校の時の習慣が抜けないんだろう。可愛い。
それにしても……やっとだ。やっと癒しの時間だ……。
海の家弁当の次の日に乃々華が持ってきたのは凄かった。祭りの夜店弁当だった。
なんで二人ともでかい一品もの持ってくるんだよ。
昼にケバブとお好み焼きってなんだよ。教室に屋台出して提灯でも飾る気か?
クラスの奴らの俺を見る眼差しが、軽蔑から憐れみに変化していくのが目に見えてわかったわ。
まぁいいさ。俺は今日大人の階段を登る……かもしれない。一応例の装備品もドラッグストアで買ってきた。
何回も何度も周囲を見渡して、誰もいないのを確認して買ってきた。
特に時雨なんかは、いつどこに現れるかわかったもんじゃないからな。見られたら最後。「水風船ですか? 私の家にもあります。全部屋に」とか言いかねない。
そして買ってきたソレは、ベッドの下の引き出しの奥に隠してある。
更に母さんと姉さんは、婆ちゃんの家に遊びに行った。というか行くように仕向けた。
ふっふっふっ、これで完璧だ……。
「あ、杏太郎くん♪ おはよ〜。ごめんね? 急に時間変更しちゃって」
「おはようございます、海琴さん。ってあれ? そっちから? てっきり大学の中から出てくるのかと思ってました」
「あ、あああああのね? ちょっと買うものがあって外に出てたの! だ、だからちゃんと大学内にいたよ!」
「わかってますって」
そんなのは見ればわかるさ。
今日の海琴さんはひざ丈のプリーツスカートにTシャツ、その上にサマーカーディガン。
そして手には大きな鞄を持っている。
最近はレジ袋が有料化したから、その鞄に買ったものが入ってくるんだろう。
「えっと……それじゃあ行きますか?」
「あ、う、うん……。お願いします」
そして俺達は手を繋いで歩き出した。
◇◇◇
「ここです。まぁその……どうぞ」
「お邪魔しま〜す。な、なんか緊張するね」
と、とうとう俺の家に家族以外の女の子が入ったぁぁ! 緊張するのはこっちもですよぉ! だって初めてなんだもの! え、どうしよう? どうすればいいんだ? とりあえずもう俺の部屋に連れて行っていいんだよな? 連れていくぞ?
「じゃあ……俺の部屋二階なんで、こっちでしゅ」
「え?」
か、噛んだ……。しかもでしゅってなんだよでしゅって。赤ちゃんかよ。
「だ、大丈夫だよ! 噛むくらい普通だよ! 私なんて自分で何言ってるのかわかんない時だってあるから!」
「で、ですよね! 普通ですよね! あ、俺先に上がりますね」
俺は早口でそう言って階段をあがる。海琴さんが先だと色々まずいからだ。スカートの長さ的に。
俺は海琴さんを自分の部屋に招き入れると、昨日のうちに買っておいた新しい座布団の上に座ってもらう。そして俺はベッドの上に腰掛けた。それは何故か。理由は簡単。昨日の俺は完全に浮かれていて、座布団を一枚しか買ってないから。
「とくに何の面白みもない部屋ですけど……」
「……え!? あ、んと、そんなことない、と思うよ? って言っても私、男の子部屋とか入るの初めてだからよくわかんないんだけど……。あっ! そうだ! お土産持ってきたんだけど、この前会ったお母さんとお姉さんはいるかな? お菓子なんだけど、気に入ってくれるかな?」
「ありがとうございます。きっと喜びますよ。ただ、二人とも祖母の家に遊びに行ってて、今は家に誰もいないんです」
「そっかぁ。じゃあこれどうしよ……」
「後で俺が渡しておきますよ。海琴さんからだって」
「そう? 直接渡さなくてもいいのかな?」
「そんな細かいこと気にしない親なんで大丈夫です」
「じゃあ……お願いします」
海琴さんはそう言うと、鞄の中から箱菓子を出して渡してくれた。
俺はそれを受け取ると机の上に乗せて、再びベッドの上に座る。
すると海琴さんが立ち上がり、俺のすぐ隣に座った。
「み、海琴さん!?」
「さ、さっき誰もいないって言ったから……。あ、でもでも! エッチな事はまだだめだからね!」
「え? まだって……」
「こ、心の準備が……。それにまだ付き合ったばっかりだもん! でも……くっつくだけなら……うん……」
海琴さんはそう言うと俺の腕を抱きしめる。ベッドの上でそんな事をされて爆発しそうな理性を押さえつけ、俺は気になってたことを聞いた。
「そ、そう言えば……なんで今日は俺の部屋に?」
「えっと……ほら、前に杏太郎くんがテニスウェア姿見たいって言ってたから……。だからウェア持ってきたの」
「……もしかして、目の前で着てくれる為に?」
「だ、だってそうじゃないと着てるとこ見れないでしょ?」
「ウェアを着て写真を撮れば良かったのでは?」
「…………」
あ、そこまで考えてなかったっぽい顔だ。そして顔がだんだん赤くなってきた。
「や、やっぱり今のなしっ! そうだよね! 普通そうだよね! わざわざお家に来て着替えて見せようとするなんて何してるの私!?」
「え、無しですか?」
「無しだよっ! よく考えたらウェアだけ持ってきてアンスコ持ってきてないからダメっ! 動いたら下着見えちゃうもん!」
「それは……残念ですね。海琴さんのテニスウェア姿、きっと可愛いんだろうなぁ……」
俺はわざとらしく悲しそうな顔を作ってみる。まぁ無駄だろうけどな。
「うぅっ……。わかったよぅ……。アンスコどこかに入ってたかなぁ?」
そう言って俺の腕から離れると、四つん這いで持ってきた大きめな鞄の所に海琴さん。ちなみにパンツは見えない。
……え、まじで着てくれるの!?
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