第65話 お家に行きたい

「どうしてこうなった……のかは自分でも分かっているんだ」



 昼休み、俺は自分の机で頭を抱える。

 今、校内で広まりつつある噂。それは、サッカー部や野球部のイケメンを振る一途な美少女幼馴染を付かず離れずの位置でキープしつつ、これまた美少女で凶悪なボディを持った少し変わった先輩に手を出して、更に授業をサボって保健室で初めてを奪ったそんなにカッコイイ訳じゃない男が一年生にいるらしい。

 おいおい、随分とクソ男だなぁ!? 誰だよそれ。


 ……俺だよっ! あぁ、クラスメイトの興味と軽蔑の視線が痛いっ! 海琴さんが歳上で良かった。もしこれで同世代の同じ学校だったりしたら完全にアウトだ。アウトオブ杏太郎だった。

 それに弁解しようにも、【初めて奪った】って部分しか否定できない。キープとか手を出したって所も否定したいが、状況がそれを許さない。

 なぜなら──



「ちょっとキョウ! どういうことなの!? 初めてって何!? シたいならノノがいつでもさせてあげるのにっ! ノノの初めても奪ってよ!」


「やめろ……そんな事を教室で大声で言うな……。俺は何もしてない。彼女いるんだからする訳が無いだろうが……。だからやめろ。女子の視線が痛い」



 頭を抱えた俺の前で乃々華が頭おかしい事を叫んでいるから。それにそれだけじゃない。



「そうですよ、乃々華さん。あの初めては経験しない方がいいです。息も苦しい上に喉が苦しくて体中が熱くて熱くて……。それにフラフラしてしばらく立てなかったのですから」


「ど、どんだけハードなプレイを初めてでしたのよ……。そしてなんで先輩もここにいるの!?」



 時雨まで一年の教室に来て、俺のすぐ隣に佇んでいるのだ。まるで従者の如く。一歩後ろをついてくる良妻の如く。いや、弟子だけども。その弟子ってのも普通じゃないけどねぇ!?


 それにしてもその言い方よ。なんでそんな含みのある遠回しな言い方なんだよ……。熱中症の一言で済む話じゃん。文句言いたいけど、こういう時って何言ってもみんな女子の味方なんだよな。

 ほら、クラスの男子の羨望の眼差しも酷い。俺は何もしてないのに。

 乃々華も信じるなよ……。そして時雨はなんでここにいるんだよ。



「私が来た理由ですか? それは私を師匠に食べてもらうためです」


「は、はぁ!?」


「お、お前何言って……」


 ザワザワザワ……



 ほらぁぁぁぁ! また教室がザワついたァ!!

 もうなんなの!?



「すいません。間違えました。私の作ったお弁当を食べてもらうためです。弟子ですから尽くすのは当然です。はい、師匠。どうぞお召し上がりください」



 どんな間違え方だよ。ワザとだろ。絶対ワザとだろ。そしてそのでかい袋なんだよ。弁当って言ったよな? なんでそんなにでかいんだよ。不安しかねぇよ。



「冷めても美味しく食べれるように、すこし味を濃くしてきました」



 そう言って時雨が俺の机に置いた袋から出したもの。それは、焼きとうもろこしとイカの姿焼き。


 ……ここは海の家なのかな?



「ず、ずるい! 卑怯! ノノも明日作ってくるから!」



 そして乃々華もそんな事を言ってくる。

 やめろ。食べるなら海琴さん料理が食べたい。

 それに彼女がいるのに他の女の子の手作り弁当とか受け取れるかよ。

 今日の時雨のコレはいきなりだったから食べるけどさ。弁当って感じじゃないし。

 だけどここはハッキリ言っておかないと。



「なぁ、乃々華に時雨。いいか? よく聞けよ? よく聞かなくても前から何回も言ってるよな? 俺は彼女がいるんだ。だからこういうのは辞めてくれ」


「やめない。絶対やめない。キョウがノノの事だけを見てくれるまではやめない」


「師匠、私のは気にしないでください。これはそんな下心の産物ではありません。そう、言うなればお供え物。私が崇める師匠への貢物なのです」



 二人がまたおかしな事を言い始める。俺は溜息をついて更に文句を言おうとした時、こんな声が耳に入ってきた。



『え、日野くん彼女いるのに二人を?』


『ちょっと待て。彼女いるくせに柳先輩のあの体を堪能したのか!? うらやまけしからん』


『あんな美少女に貢がせてるとか……処す』


『今、断罪の時』


『ねぇ、もしかしなくてもこれって三股かけてるってこと? うわ、サイッテー』


『もしかして日野くんってベッドだとすっごいとか? ……ジュルリ。あ、ヨダレが』



 …………俺、もう引き篭ろうかな。



 ◇◇◇



 精神的にも疲れ果てたその夜、俺は海琴さんとビデオ通話をしていた。

 海琴さんはショートパンツにTシャツだけというラフな格好。もしかしてノーブラ? いやいやまさかそんな……。でも動くと揺れが凄い。

 って違う。会話に集中しないと。



『杏太郎くん? どうしたの? なんか疲れてる?』


「え? あぁ、ちょっと学校で色々ありまして……」


『大丈夫? 相談のるよ?』



 相談出来る事じゃないんだよなぁ……。



「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。それで今度の日曜日なんですけど、どこに行きます?」


『あ! それそれ! 私行きたいところあったの! あのね? 杏太郎くんのお家に行きたいなぁ〜って……ダメ?』



 ──え? それってもしかして……もしかしちゃうのか!?

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