第64.5話 海の日SS

 青い空。白い砂浜に焼けるような太陽。無駄に長い堤防。そして……なんか「だ、誰か来たっ……ってばぁ♪」って声が途切れ途切れ聞こえるから近づいちゃいけない岩場。


 そう、海だ。俺は海に来た!



「海にきたぞぉぉおおぉぉ!!」


「杏太郎、テンションが上がってるのは分かるが落ち着け。今はまだ着替えに行っててココにはいないが、彼女の澤盛さんに見られたら引かれるぞ」


「わかってらい! いないから言ったんだよ!」



 俺の天井知らずのテンションに水を差して来るのは遥。引き締まった無駄のない体。

 そして俺は平均的な男子高校生ボディ。この差はどこで出来たんだ……。

 いや、考えるのは辞めよう。よそはよそうちはうち。そんなことよりも俺の女神はまだか!?



「蓮川君! お待たせ致しました! この水着どうですか? 蓮川君が無言で【カートに入れる】を押したのをそのまま買いましたの!」


「最高だ音原。お前にはそれが一番良く似合う」


「ありがとうございます! ですがこの水着、少し激しく動くと零れてしまいそうですわ」


「それがいいんじゃないか。後で堤防の影か岩場の裏に行こう」


「はいっ!」



 俺が海琴さんの水着姿を楽しみにしながら更衣室の方を向くと、そこに現れたのはほぼ紐の黒のビキニを着た音原。

 遥はそんな音原にたいして見事なサムズアップを決めながら訳分からないことを言う。そして、音原も「はいっ!」じゃねぇよ。ホントにそっちに消えたら気を使うから辞めてくれ。

 と、そこで音原が勢いをつけて恥ずかしげも無く俺の方を向く。そして、その反動で胸をタプンタプンに揺らしながらこう言った。



「あ、他のみなさんもそろそろ来ますわ。みなさん、とても恥ずかしがっておられましたの。一人を覗いては」



 そう。ここには俺と海琴さん、そして遥達だけで来たわけではないのだ。直前になって、他に二人追加されたのだ。

 その二人というのが……



「キョウお待た♪ どう? 可愛いでしょ?」


「おう。可愛い可愛い。お年玉あげたくなるぞ」


「それ可愛いのベクトルが違うっ!」



 あざといポーズをとりながらプンスコ怒るのは乃々華。黄色いワンピースタイプの水着がより幼さを強調している。実にあざとい。



「師匠。私はどうですか? 一応ほかにも白スク水も用意してありますが、どっちが性癖に刺さりますか? 余談ですが、白スク水の方が良いと言われても着れません。間違えて少々サイズが小さいのを購入してしまいましたので、着ても水着が胸の間に挟まってしまいます。丸出しです」


「白スク水は辞めろ。性癖とか言うな。俺の人格が疑われる。そして状況の説明するな。丸出しとか言うな」



 ちょっとどうかしてるセリフを言うのは時雨。銀髪はポニーテールに。身に付けてるのは水色のビキニで腰にはパレオ。音原以上の二つの山を隠すことなく主張している。隣で乃々華が白目剥きそうになってるし、こんなん凶器じゃん。

 海琴さんもいるんだから、なるべく見ないように気をつけないと……。



「お、お待たせ。杏太郎くん……」



 俺の女神キター!! って……あれ?



「T…………シャツ?」



 目の前に現れた海琴さんの姿は、珍しくツインテール。そしてロゴの入った白いTシャツ姿。それを目いっぱい下に引っ張っているけど、少しだけピンク色が見え、そこから白い脚が伸びている。それはそれで、中々そそるものはあるけど……やっぱり全部見たいっ!



「だ、だって恥ずかしくって!」



 恥ずかしがってる姿も良いけど……全部見たいっ!(二回目)

 その時、俺の後ろから一筋の水の煌めきが海琴さんに襲いかかる。

 何かと思って後ろを振り向くと、乃々華が水鉄砲で海琴さんを狙い撃ちしていた。



「ひゃう!」


「何恥ずかしがってるのよ。なんでしょ? ! まったく……二人の間に挟まれると惨めになってくるのよっ!」


「ち、違っ……くないけど……。歳上だけどぉ……」


「っ!?」



 乃々華……お前なんて事を……。胸囲格差の八つ当たりなんて……。けど良くやった。海琴さんはまだ気付いていないが、濡れた所だけ透けて水着が見えているから。



「なら早くシャツ脱いじゃいなさいよ。みんな水着なんだから。えいっ! えいっ!」


「ひゃっ! 冷たっ!」



 なっ! またしても!? さっきは右胸。今度は左。そして肩。

 ど、どんどんTシャツの中の肢体があらわになっていくぅ!? うん。これはこれで……良き。



「わ、わかったってば! 脱ぐよう……。うぅ、恥ずかしいなぁもう……」



 海琴さんはブツブツと言いながらTシャツを脱いでいく。そして脱いだTシャツを畳んで手持ちのバックに入れると俺の方を向いた。



「ど、どう…かな?」



 薄いピンク色のチューブトップタイプの水着を着た海琴さんはまさに女神。目が離せない。

 後ろで時雨と乃々華が、「乃々華さんお願いします」「え、先輩いつの間にこんなに深く掘ったの!?」なんて会話をしているが、全然気にならない程に海琴さんに夢中だ。



「杏太郎くん?」


「……めちゃくちゃ可愛いです」


「えへ、えへへへへへ〜〜♪ ホント? ホントに可愛い? もう一回言って?」


「何回でも言いますよ。海琴さんは……俺の彼女は一番可愛いです」


「うにゅ〜♪ えへへ、一番だってぇ〜♪ き、杏太郎くんも一番カッコイイ……よ?」


「あ……えっと……なんか照れますね」


「だってホントだもんっ! うん! 杏太郎くんに可愛いって言って貰えたから、恥ずかしさどっか飛んでっちゃった♪ ほら、遊ぼっ♪」



 海琴さんはそう言って俺の腕に抱きつく。いつもは洋服越しなのに、今は水着という薄い布一枚しか遮る物がない。

 つまり……がっつり俺の腕が海琴さんの胸に埋まってめちゃくちゃ柔らかい!

 ……ヤバいな。これは気をつけないと海から出れなくなりそうだ。



「師匠〜」



 そしてそのまま海に入ろうとした時、背後から時雨の気の抜けた声がした為、振り向くとそこには──



「……なにしてんの」


「私はヤドカリになりたい」



 髪の毛を貝のように巻いて、砂に埋まって顔だけ出している時雨がいた。真顔で。



「いや、なにしてんの……」



「あ、そうですね。ヤドカリだと師匠がたまに入ってくる家で愛人みたいですからだめですね。それでは……コホンっ! 選ばれし勇者ならこの名剣【柳】を抜けるはずです。あなたは勇者? それとも……。次はナレーションです。……この剣を抜いた瞬間、伝説が始まった。てーてれてってってってー♪ 師匠、ここが抜くタイミングです」


「………………台無しだよ」


「師匠? 海ですよ? 自分で言うのもなんですが、私、中々の水着姿ですよ? どうして目が死んでるんですか? あ、待ってください。どこ行くのですか? 一人では出れないのです。あ、師匠、ヤドカリが……本物のヤドカリが私の頭を貝だと勘違いして近くに来てます。師匠? 助けてください師匠。澤盛さんに内緒でおっぱい触っていいですから。あ、登ってきました。……師匠? あっ、あっ、あっ……」




 …………ほんとなにしてんだよ、この弟子は。




 ※この話は本編とは関係ありません。本編でも水着シーンのお話は書く予定ですので、これはこれで別物として楽しんで頂けたら嬉しいです。

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