第63話 したいですか?

 結局その日は、最終下校時刻まで起きなかった時雨を起こしたあと、保健医を呼んで帰ろうとすると、車で送って行ってくれるみたいでそのまま乗せてもらった。


 時雨は何度も「大丈夫です。送って頂けるので。お構いなく。車ですか? いいえ、結構です」と言っていた。

 だが俺は、起きたばかりの時雨の体調と歩く体力を考えて、素直に保健医に頼むことにした。

 決して保健医の車に乗りたいからじゃない。スカイラインR32だからじゃない。

 ……ちょっとはそれもあるけど。



 で、俺達は後部座席に乗ったんだけど、時雨は家に着くまでの間ずっと窓の外を眺めて一切口を開かない。

 少し声をかけても、じっと俺を見つめ、そして運転席にいる保健医を見つめたあと、また俺を見つめるとニコッと笑い、また外を眺める。

 なんなんだよ。


 と、そこで車がとまる。



「さ、柳さんの家に着いたわよ。それにしても……聞いてはいたけどホントにここなのね……」


「ありがとうございます。はい。ここが私の家です。ちなみに私の部屋は二階の奥になります」


「そうなの? じゃああの部屋かしら。昔、彼氏と全部屋制覇〜! とか馬鹿な事やってたのよね……」



 おいやめろ。生々しい。



「そんなことをしてるうちに日野くんのお母さんに先を越されちゃったのよ……」


「……はい? 俺の母さん?」


「そうよ? 歳は離れてるけどね。日野くんのお母さんは私と同じ高校の先輩なの。うんうん……昔良く遊んだわぁ〜。この車もその影響ね。だけど私はこの歳でまだ独身……。歳の割には若く見えるし可愛いのになんで私は結婚出来ないの!? あ、日野くん、十八歳になったら先生と結婚しようか?」


「お断りします」


「駄目です」



 何故か時雨が俺と先生の間に入って拒絶する。

 てか母さんと知り合いかよ。それなのに結婚とか言うなし。歳上は好きだけど歳上すぎるっての。



「フ、フラれた……。しかも柳さんまで……。いいわよいいわよ。私にはビールとゲームがあればそれでいいのよ。ふんっ! じゃあ先生は帰るから。せいぜいイチャイチャすればいいじゃないのよ。……あ、避妊はしっかりね? あと日野くん。今日見たことは絶対内緒にしてね? ばいば〜い」



 保健医は教師が言うような事じゃないことを俺たちに言うと、マフラー音を響かせて走り去って行った。

 そもそも勘違いしてる。俺と時雨はそういう関係じゃない。だから避妊とか以前にそういうことをする間柄ですらないんだよな。はぁ、後で保健医の誤解解いておかないと。

 ……保健医の名前なんだっけ?



「時雨、あの保健医の名前わかる?」



 先輩だからな。さすがに知ってるだろ。そう思って聞いたのに返事が無い。

 何かを考え込んでるみたいだが……。

 おっ、やっとこっち見た。



「……師匠。師匠は私としたいですか?」



 ……は?



「何を?」


「エッチです。師匠はちゃんと避妊するんですか?」



 いや、避妊するもなにも……童貞ですがなにか?


 つーかなんでそんな話になるんだ!?


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