第59話 シリアスブレイカー
「ちょっとキョウ!? なんなのこの人!」
「弟子ですが?」
「アンタには聞いてないっ! キョウ!?」
待ってくれ……。俺もいったい何が何だかわからないんだって。
ただでさえ初めての彼女ができたばかりだぞ?
それなのにいきなり幼なじみから好きだと言われて予想もしない方法で迫られてるかと思えば、俺の事を師匠と呼ぶやつから頬にキス?
はっきり言ってキャパオーバーだっての。
そもそも時雨はどういうつもりなんだ? テンプレってなんだよ。弟子から弟子以上? そもそも弟子ってのが一般的じゃないだろうが。
──ダメだ。ホントに頭が回らない。口も開かない。
視線だけを乃々華に向けると、乃々華は時雨をジッ見つめている。その視線を追って俺も時雨を見ると、時雨は俺を見つめていた。そして俺に対して柔らかく微笑むと口を開いた。
「師匠、そんなに気にしないでください。今のは私がしたくてしただけですので。ですから、師匠は『美少女からのキスだぜヒャッハー!』くらいでいいんですよ?」
「い、いや……したくてって……」
「弟子が敬愛する師匠に口づけでその気持ちを伝えるのはよくある事です。今クールのアニメで見ました。それに……乃々華さん?」
「な、なによ」
「乃々華さんは見返りを求めすぎです。好きだから好きになって欲しいというのはわかりますが、それが相手の重荷になることもあるというのがわかっていますか? 自分の気持ちと想いを伝える事だけで相手の事は考えていますか?」
「そ、そんなのわかって──」
「いいえ、わかってません。私もわかりません。……師匠、どうすればいいんでしょうか?」
そこで俺に投げる!?
わからないのにちょっと良い話風に言ってたの!?
もうやだこの弟子!
「いや、その……押してダメなら引いてみるとか?」
そして俺は何を言ってんだ? もう自分でも何言ってるのかわかんない。
ありえない事が起こりすぎて、自分の事だって認識が持てない。まるで他人の事みたいだ。
そしてこの事を俺は海琴さんになんて言えばいいんだよ。
「今までずっと押せなくて、引いてばかりいたらこんな事になっちゃったから、私にはもうこれ以外にどうすればいいのかわからないのよ! それに断言出来るわ。キョウとあの人は続かない。私にはその理由がわかるの」
「そ、それ、どういうことだよ!?」
「言わない。これは私が言うことじゃないもの。キョウが自分で気付いて。だけど覚えてて。私は何があってもキョウの傍にいるから。私はキョウに嘘なんてつかない。それと先輩。先輩がどういうつもりでキョウを師匠って呼んでるのかも知らない。そしてさっきのキスだってどうしてしたのかわからないけれど、そんなのを見せられたんだもの。先輩も私の敵よ」
乃々華はそう言って階段を降りていった。
いったい乃々華は海琴さんの何を知ってるんだ? 明らかに何かを知ってるような言い方だった。まるで海琴さんが俺に嘘をついてるような感じの言い方。なんだってんだよ……。
「師匠……」
すると、時雨が隣から俺の顔を覗き込んでくる。
「なんだよ……」
「今の乃々華さんの言葉、ちゃんと聞きましたか?」
「聞いたよ……」
聞いたから頭痛いんだよ……。
「なんですかあの捨て台詞。カッコよすぎじゃないですか? 敵に寝返るけど最終的には味方になってデレる女魔術師みたいじゃないですか!?」
時雨お前……。
はぁ、変に難しく考えてるのが馬鹿臭くなってきたや。まぁ、なるようになるだろ。その時目の前に来る問題に全力で向かうだけだ。
「ハイハイ、確かにそうだな。ほら、もう予鈴なるから行こうぜ」
俺は適当に返事をして階段を降りる。
「…………たろちゃん。たろちゃんの為ならどんなキャラにでもなるから、ずっと笑ってて。あの日、たろちゃんが色んなヒーローになって私達を笑わせてくれたみたいに」
ん? 時雨なんか言った?
「なんだって?」
「いいえ、何でもありません。フロントホックが外れそうになっただけです」
それ、何でもあると思うんだけどぉ!?
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