第58話 これなんてギャルゲー?

 翌日の乃々華は、昨日の様子が嘘みたいにいつも通りだった。表面上は。


 朝はいつも通りに俺に絡んできて、ケラケラと笑ってるかと思えばいきなり耳元で、「今日は水色よ」って言ってきた。

 教室でも俺たち以外の友達と騒いでいたかと思えば、授業中にいきなりメッセが送られてくる。それは胸元を開いて上から撮った谷間と下着の写真。


 だから俺は昼に、昨日と同じ場所へと乃々華を呼び出した。



「乃々華、どういうつもりだ?」


「どういうつもりって?」


「わかるだろ? 朝のあれとか写真のことだ。あと昨夜の写真もな。あんなの送られて俺にどうしろって言うんだよ」



 そこまで言うと、目の前に立っていた乃々華はクスッと笑いながら一歩進み、俺の胸に手を当てながら俺を見上げてくる。

 普段の無邪気で猫みたいな姿が嘘みたいに、しなやかで妖艶な表情で。



「ふふっ。ねぇ、どうだった? ドキドキした? 興奮した? 私の事、女の子だって意識してくれたかしら? 私考えたの。今までみたいな男女の友情みたいな関係のままじゃダメだって。もっと女の子として意識してもらわないとダメなんだって」


「そ、それにしたって……」


「だってそうしないとキョウは私の事見てくれないでしょう? 今まで通りではダメ。そんなんだから他の人に盗られたんだもの」


「盗らっ!?」


「だから私は、これからもっとキョウに可愛いって思って貰えるように頑張るのよ。だって……」


「だって……なんだよ」


「いつ別れるか、わからないでしょう? もし別れた時、私はずっと近くにいてあげられるからね? 今までみたいに」



 そう言って顔を近付けてくるが、俺を肩を押して遠ざける。

 それに俺でも気にしてることをそんなはっきり言わなくても……。

 けど別れたからってそんなすぐに他に行くわけないだろうが!



「べつにキスぐらい良いじゃない。バレなきゃ浮気じゃないわよ?」


「そういう問題じゃないんだよ!」



 俺は乃々華のあんまりな言葉に声を荒らげる。そしてこんな事はもうやめるように言おうとした時、昨日と同じように後ろのドアが開いた。



「そうです。そういう問題じゃありません。ですよね? 師匠」


「時雨!?」


「……なんですか? 先輩」



 突然現れた時雨に対して視線を向ける乃々華。その目はまるで睨むかのように細くなっていた。

 だけどそんな視線を向けられた時雨は、そんなことも気にせずに俺のすぐ隣に立つ。



「はじめまして。乃々華さん……ですよね。師匠がそう呼んでいたので──ってあら? 確か以前師匠と一緒に見たテニスの試合の?」


「そうですけど? で、なんですか? なんでキョウの隣に立ってるんですか?」


「それは弟子だからです。そして用件ですが、さっきも言いましたよ? と。バレなきゃ浮気じゃないというのは違います。それは邪道中の邪道。どちらも追放ざまぁされても仕方がない程にです。なぜなら、バレなきゃ……と、お互いに考えている時点で浮気なのです」



 し、時雨? お前何を言いたいんだ?



「弟子とか師匠とか意味がわからないですけど。結局何が言いたいんですか?」


「それはですね?」



 時雨はそう言うと俺の腕を引っ張る。


 そして──


 ちゅっ


「なっ! ちょっと先輩なにしているの!?」


「…………は? なっ!? 時雨お前何を!」



 時雨がした行動。それは俺の頬へのキス。

 想像すらしてなかった行動に避ける事も、すぐに離れる事も出来なかった。



「いいですか? 乃々華さん。浮気はいけませんが、勝手にするのはいいんです。同意ではないので浮気じゃありません。必須イベントです。そして弟子から弟子以上になるのも……よくあるパターンです。こういうのをなんて言うかわかりますか?」


「ちょっと待って。この人私より凄いこと言ってない!? い、一体なんて言うのよ!」



 そして時雨は小さく息を吸うとこう言った。



「テンプレです」



 と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る