第45話 弟子は見ていた

 店を出たあとは適当にモール内をブラブラと。

 知り合いに会うかと思ったけど、今日に限って誰とも会わなかった。

 会ったら自慢してやろうかと思ったのに。


「次、どうします?」


 モールから出て俺は海琴さんに声をかける。時刻は夕方。まだ帰るには早いと思ってそう言ったんだけど、海琴さんは時計を見ると少し焦ったような顔になった。


「えっ!? もうこんな時間!?」

「どうしたんですか?」

「あ……えっとね? 言ってなかったんだけど、実は今日バイト入っちゃってて、後一時間も無いの」

「え、バイトだったんですか!?」

「うん……。店長から人足りないからってお願いされてね? 初めてのデートだったからまさか付き合えるとも思わなかったし、こんなに長く一緒にいれるとも思わなくて、ついおっけー出しちゃったの。うぅ〜! 行きたくないぃ〜! もっと一緒にいたいぃ〜」

「それは俺もですけど、引き受けたのならちゃんと出ないとですよ!」


 本当はちょっと残念だけど。


「だよねぇ〜……」

「それに、行かないでもしクビにでもなったら、またあの店で海琴さんに会えないじゃないですか」

「うん。行く。絶対行く。だから……また来てくれる?」

「当たり前です」

「へへへ♪ じゃあ急がないと!」

「一度帰るんですか? そのまま?」

「そのまま行くよ〜。ユニフォームとかはロッカーに入れてあるから直接行っても大丈夫なの」

「なら、店の近くまで送って行きますよ。それならもう少し一緒にいれますし」

「ホント? やったっ! ふふっ、バイト先に恋人に送ってもらうなんて夢みたい♪」


 さっきまで凹んでいた表情からすっかり笑顔になると、俺達は手を繋いだままで海琴さんのバイト先に向かって歩き出した。


 ◇◇◇


「あ〜あ、もう着いちゃった」


 歩いていると見えてきたエムドエヌド。海琴さんのアルバイト先だ。あと五十メートルもないだろう。

 そしてそのまま歩き続けてもう少しってところで海琴さんが周りをキョロキョロし始めた。

 なんだ?


「どうしました?」


 ちゅっ


 そんな俺の質問にたいして返ってきた返事は頬へのキス。

 ………………は? キス?


「えへへ、道路なのにちゅうしちゃった♪ じゃあ、行ってきま〜す♪」

「え、お? あ、はい……行ってらっしゃい……」


 海琴さん耳まで赤くしながら店に向かっていく。その途中で何度か振り返っては、小さく俺に手を振ってくれる。

 俺はその姿を見届けると、自分の家に向かって歩き始めた。


 いや〜、それにしてもやばいな。付き合った初日から可愛すぎて、これからどうなるんだ? 可愛すぎて爆発するんじゃないのか? 俺が。

 だってまだ数時間しか経ってないんだぜ? そして恋人ってことは、これから付き合っていく中で、海琴さんとあんなことやこんなことが出来るかもしれないんだぞ? あの可愛さとあのスタイルを持った彼女と!

 しかも、海琴さんも俺もお互い様に初めての彼氏と彼女だ。つまり初めて同士。

 こんな幸せな事があっていいのか!

 あーやばい。まーじでやばい。

 けど、あんまりそういう事ばかり考えてて嫌われたら泣くしな……。

 なんとか自制しよう。うん。いずれ来る時の為に!


 そう決意した時だ。


「師匠」


 ……なんか聞こえたな。いや、気の所為だな。


「師匠。頬にキスをされていましたね? 師匠」

「見てたのかっ!?」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにいたのは時雨。いや、俺の事を師匠って呼ぶ奴なんか時雨しかいないけどさ。


「はい。エムドエヌドのキッズセットのオマケをフルコンプして出て来たら、神々しい師匠のお姿が見えたので、師匠の視界を計算してギリギリ入らない場所から見ておりました」

「それなんの極意だよ……。つーかその格好……」

「…………? この服がどうかしましたか? ただの普段着ですけども」

「普段着っ!?」


 俺が驚いた時雨の格好。

 それは、俺が全年齢版になってから買ったエロゲーの制服。そして両手には大量のエムドエヌドの袋をぶら下げていた。


 濃いよ。濃すぎるよ……。

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