第44話 ペア

 俺たちはすぐに店内に入ると、パーツ別に置いてある場所に向かう。

 もう既に完成している物で、あとは文字を彫るだけのもあるんだけど、ここはやっぱり一から全部作りたいもんな。


「どれにします? ってより、何にしますか?」

「う〜ん……。悩むなぁ〜。学校につけていっても大丈夫なのがいいよね?」


 海琴さんは前屈みになって、素材の並んでいるテーブルを見る。ちょっと胸元が開いてしまっているから、俺は他の男に見られないように目の前に立ってガード。

 け、決して俺が見たい訳じゃないからな? ……ちょっとは見たけど。


「学校に? なんでですか?」

「だってほら、せっかくなんだもん。ずっと身につけていたいし……」

「っ! えっと……確かに。あれ? でも大学なら特に何か言われる事もないんじゃないですか?」

「へ? ……あ! えっとほら! それは杏太郎くんがね! 私だけ付けてても寂しいでしょ? 杏太郎くんもずっと付けれたら、『あ、今も同じの付けてるんだな〜♪』って思えて嬉しいし!」


 ……トキメいた。なんてこった。まさかそんな事を考えていたとは。確かにそれは嬉しい。なんならずっと眺めてしまいそうだ。


「じゃあペアリングとかは無理ですね……」

「えぇ〜〜」


 えぇ〜って。ついさっき学校に付けれるやつって言ったばかりでしょうが。


「ネックレスかブレスレットはどうです?」

「ブレスレット良いかも! すぐにパッと見れるもん! ネックレスだとそうもいかないもんね?」


 ネックレスだとパッと見れない? なるほど。谷間に挟まっちゃうからですね? うん。違いますね。

 ……いや、ホントはわかってるよ? 女の人だもんな。そう何回も胸元開くわけにはいかないもんな。


「確かに。なら……ブレスレットのパーツだとこの辺ですね」

「うわぁ。結構たくさんあるんだ。迷うぅ〜」


 その後、二人で色々組み合わせたりして話し合って決めた物に、二人のイニシャルと今日の日付を彫って貰った。

 完成するまで少し時間がかかるって事で、その間に近くの店をうろついたり、海琴さんの化粧直しを待ってたりした。


「はいどうぞ」

「うん、ありがとー♪ えへへ♪ 初めてのお揃いだね! カッコよくて可愛いなぁ〜」


 海琴さんは左腕に付けたブレスレットを眺めながらそう言う。

 もちろん俺が付けてあげた。


 完成した物は、二センチ程の楕円の形をしたシルバーの板に、少し細めなダークブラウンの革のバンドを付けたもの。刻印はその板の裏側にしてある。

 完成したばかりだからなのか、モールの照明で光り輝いて見える。

 そしてもちろん俺の左腕にも同じものがついている。

 最初はバンドの色は変えようかと思ってたけど、海琴さんが同じがいいって言ったことで全て一緒にした。


「無くさないでくださいよ?」

「無くすわけないよ!? だって杏太郎くんからのプレゼントなんだもん!」

「喜んで貰えて良かったです」

「喜ばないハズがないよぉ〜。そうだ。えっと……ね? これは私から」


 海琴さんはそう言ってブレスレットを買った店と同じ紙袋を俺に渡してきた。


「なんですか? これ」

「開けてみて?」


 そう言われて袋から出した物は、流線型の模様が付いたシンプルなシルバーリング。それが二つ。

 え、まさか……。


「これ……は……」

「あの……ね? 私、やっぱりペアリングに憧れがあって……。それで、さっき待ってる間にこっそり買ってきちゃったの。時間なかったから特に何も彫ってもらったりはしてないシンプルな物なんだけどね。学校とかでは付けるの無理かもだけど、デートの時は一緒に付けよ?」


 海琴さんは顔を真っ赤にしてそんな事言ってくる。

 わざわざ聞かなくても、俺がYES以外の返事をするわけないのに。


「もちろん付けますよ。デートの時だけじゃなくて、学校にいる時以外はずっと。寝る時だって」

「う、うん……私もそうするね。そうだ! 今度は私が付けてあげる!」

「えぇっ!?」


 海琴さんはそう言ってケースの中から指輪を掴むと、俺の右手の薬指に指輪を嵌めてくれた。


「だったらこっちは俺が」


 さすがに自分で付けさせるのもな。


「あ、え、へ? これ、なんだか凄く恥ずかしいよ!?」

「それはお互い様ですよ……っと。はい、付けました。にしても俺の指のサイズにピッタリですね」

「うん。ほら、待ち時間に色々見てる時に杏太郎くん指輪付けてたでしょ? その時にコッソリサイズ見たんだぁ。へへっ」


 そう言いながらブレスレットとペアリングを交互に見ながら微笑む海琴さんは、ほんとに嬉しそうだった。

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