第29話 目的地は水族館
待ち合わせ場所である大学の前を離れ、俺は澤盛さんと並んで歩く。
目的地は特に決まってないからどこに向かっているのかわからないけど、歩く。
ちなみに澤盛さんの今日の服装は、七分丈のレギンスにノースリーブの白いカットソー。その上に薄いカーディガンを羽織っている。長い髪は結ったりせずにそのまま風に揺れていて、凄く綺麗だ。
つり合って……ないよなぁ。
けど、そんなの気にしてたら何も出来ないもんな。頑張ってみますか。とりあえずは会話から!
「今日はそんなに暑くないですね」
「さすが! 私もそう思ってたの」
さすが? 何が?
「ですよね。もうそろそろ七月だから結構暑くなると思ったんだけどなぁ」
「知らなかったぁ〜!」
知らなかったの!? カレンダーは!?
スマホの画面に日付け出ますよねっ!?
「そういえば、昨日のメッセでモテるとか言ってましたけど、俺、ほんとにモテませんからね?」
「すご〜い!」
すごい!? モテなさすぎてすごいって事!?
「ところで……これからどこに行きますか? 俺、こういうの初めてでよくわからなくて。とりあえず駅にでも行きますか?」
「駅とかセンスいいね!」
なんと!! 最近の女子大生のトレンドは駅だったのか!?
そして駅に向かう途中で家電店の前を通ると、店頭に置かれたテレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。その内容は、近くの山で山菜取りに行った人達の中に遭難者が出たとの事。危ないなぁ。
「あそこの山で遭難者出たみたいですね。早く見つかるといいですけど」
「そうなんだ!」
…………。
これは突っ込んだらダメなんだろうか。
そう思って澤盛さんの方を向くと、何故か首を傾げながらブツブツと何かを言っている。
「……あれ? なんか違うような? さしすせそ合ってるよね? 微妙に会話が噛み合ってないような……あれ?」
なんでこの人は調味料の基本を呟いてるんだ?
とまあ、そんな感じで俺も澤盛さんも首を傾げながら歩き、やがて駅に着いた。
「えっと……これからどうします?」
「へ? あ、あ〜そうだね。んっと……そうだ! 水族館行こっか? ちょうど今イルカが来てるんだって♪」
「お、いいですね! 水族館なんて小学生以来かも」
「ならちょうどいいね! 行こ行こ!」
「はい!」
そうして俺達は電車に乗り込み、四駅隣の街にある水族館へと向かった。
車内は特別混んではなく、二人並んで座ることが出来た。出来たんだけど……
「…………」
「…………」
会話が無い。いや、無いというか出来ない。
だって澤盛さん近いんだもの。腕が触れてるんだよ。服越しだけど柔らかさがわかるんだよ。プニップニするんだよ。澤盛さんも顔赤くなってるんだよ。こんなん緊張してしまって喋るかぁぁいっ! って状況だ。
ほら、反対側に全然スペースあるでしょ!? 隣の人との距離結構あるじゃないですかぁ!
って思ったらそこに誰か座りやがった。くそぅ!
「え……っと、日野くんごめんね? 隣、人来たから……」
「え、あ、え?」
「ご、ごめんね?」
澤盛さんはそう言いながら更に俺の方に寄ってくる。もう腕どころじゃない。
足も触れている。変なところを触らないように腕を内側に入れてなるぺく細くなろうとするけど、二の腕辺りに腕でも肩でもないもっと柔らかいものが当たっている。
え、これって……
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