第28話 勇気をくれるあの日のパーカー
絶望。
これはもう絶望って言うしかないと思うの。
それは何故か。だって……だってだって!
彼女いないって言ってたのにっ!!
◇◇◇
練習試合の朝、変装した私は、同じ部活の友達や先輩から変な目で見られたり、「どうしたの? 大丈夫?」って言われても気にすることなく日野くんの通ってる学校に行った。
コートに着いて挨拶をした後、ベンチに座ってスコアシートを出して必要な事を書いてる時、いつも私の胸ばっかり見てくる先輩二人が話しかけてくる。ホントヤダ。
「澤盛ちゃん、今日のその格好どうしたの? 可愛いのに勿体ないなぁ」
「そうそう。ツインテールは可愛いけど、そのサングラスと帽子は取ったら? あ、ついでにジャージも脱いでもいいけど?」
「あは、大丈夫ですよー。今日はこの格好の気分なんですー」
ホント最悪。
男の人だから分からないでもないけど、せめて胸の中だけにしてくれないかなぁ? 口には出さないでよ。早く試合始まらないかな。そうすればこの人達もどこか行くのに。
そんな事を思いながらスコアシートに出場選手の名前を書いていると、頭の上からこんな声が聞こえた。
「おい
「あ? なんだよ
「だろ? けど彼氏もちかよ。つまんね」
「まぁな。けどいいよなぁ。俺にあんな美人の彼女とかいたら自慢しまくりだわ」
「それな」
耳に入ってきた言葉に、何となく顔を上げて先輩達が向いてる方を見てみる。
「──っ!?」
そこに見えた光景に理解が追いつかなくて、私は思わず立ち上がる。
「澤盛ちゃんどしたん?」
「え? あ、いえ……」
……え? ちょっと待って? 確かに先輩が見てた子は、顔も小さくて綺麗な銀髪でスタイルもいい美人さんだよ? だけど……だけど! その隣にいるの日野くんじゃん! え、どういう事なの!? 彼女いないって言ってたのに! しかも距離近いよぉ!
って私がどうこう言える立場じゃないのはわかってるよ? けどね? なんかヤダ。モヤモヤする。
う〜〜っ! あ、そうだ! まだ送れてなかったメッセでそれとなく聞いてみよっかな? 初めてのメッセが何だか探りを入れてるみたいになるのはなんかビミョーだけど、これはしょうがない! うん、しょうがない。恋する乙女だから許されるハズ!
や〜ん! テニスウェア姿がきっと可愛いって! 似合いそうだって! どうしよっ!? 着て見せたら日野くんどんな顔するかな?
ごめんなさい。浮かれてしまいました……。
次のメッセでまた沈みました。
幼なじみの女の子ってどの子かな? あの髪長い子かな? ん〜ん、違う。きっとあの小柄で可愛い子。その子だけさっきから何回も日野くんの事見てるもん。そして一緒にいる人はただの先輩って言ってるけど……。
あれ? もしかして……日野くんってモテてるの!? 自分でそれに気付いてないとか!?
──ってやっぱり気付いてない! それになんか落ち込んじゃったんですけどぉ〜! すぐに訂正したけど……返事来ないや。
うん。まだ来ない。試合終わって帰る間にも来ない。怒ったのかな? なんて返せば良かったのかな? モテるかどうかとかって聞いたのがダメだったのかな?
焦り過ぎたのかな? でも気になったんだもん。はぁ……。
結局、その日は夜まで待っても返事は来なかった。何回も何回もスマホを見るけど、届いたメッセに日野くんの名前は無い。
私は自分の部屋でベッドの上に座りながら、スマホを持ちながら壁に掛かってるパーカーを見る。
クリーニングにだしてビニールに包まれたままの状態の、私の体にはちょっと大きいパーカー。
あの日、日野くんが私に着せてくれた、まだ返せていないパーカー。それを見て自分の中で勇気を出す。
……よしっ! 落ち込んでても仕方ないよね!
来ないならこっちから行かなきゃ! せっかく連絡先も交換出来たんだし、もっと私を見てくれるように頑張らなきゃダメだよね。
そして私はメッセ作成画面を開く。
作った文章を何回も見て、いつもみたいに暴走した文になってないかを確認。
いつもの私ならこんなデートの誘いみたいな事言わないし言ったこともないけど、後で後悔しない為にも……頑張る。
うん。大丈夫。
お願い……いい結果になりますように! 送信!
………。
………。
……ブブッ
返事きた!
[明日ですか? もちろん何も予定無いので大丈夫ですよ]
やったぁ〜! あ、明日着ていく服決めないと!
でもでも、その前に待ち合わせ場所とかも決めないと!
ふふっ、明日が楽しみだなぁ〜♪
──待って。デートって何するの? した事ないからわかんないよ!? しかも私は女子大生設定。大人っぽいところを見せないといけないの。
ど、どうしよぉ……。
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