第31話 勘違い

 デート当日。早く起きすぎた私はすぐに着替えて家を出る。この前教えてもらったやり方で化粧もした。

 待ち合わせ場所として決めたのは大学の前。いかにも大学生っぽいよね? そして待ち合わせ場所に付いたところで時計を見ると、針が示すのは八時十分。


「さ、さすがに早く来すぎた……かな?」


 日野くんがいつ頃来るのかは分からないけど、少なくとも一時間は待たなきゃいけないハズ。

 だから私は、その時間で大人っぽい女性からのデートリードの仕方を調べて待ってることにした。


「ふんふん……。さり気ないボディタッチと相手が言うことに同意しながら【さしすせそ】で返事かぁ……。私にできるかな?」


 そこでこの大学に通ってるらしき女の人達が三人組で歩いてるのが見える。


「そうだ! 今の私ならちょっとくらい入り込んでもバレないよね? 休みだから人も少ないだろうし!」


 自分で言ってて少し悲しくなったけど、せっかくのチャンス! 潜入開始〜♪


「うん。見ててもよくわかんないや。ってあれ? 門の所にいるのって……」


 私が構内をキョロキョロしながら歩いていると、門に寄りかかってスマホをいじってる日野くんの姿がみえた。


「あれ? まだ時間じゃないよね?」


 そう思って腕時計を見ると、約束の時間まではまだまだある。

 そっか。日野くんも早く来ちゃったんだ。なら私も急いで行かないと! そのぶん一緒にいれる時間が増えるもんね!


 ◇◇◇


 う〜ん……。どうしようかな? とりあえず歩いてはいるんだけど、デートってことに浮かれててどこに行くかなんて考えてなかった。

 そして会話も無い。私はもちろん緊張してるから。日野くんは……日野くんも同じなのかな?


 って思ったら日野くんから話しかけてきてくれた。昨日覚えた【さしすせそ】の出番だよ!


 …………んん? なんか変? あっれぇ〜?


 なんかおかしいなぁ〜? って考えながら歩いてると、あっという間に駅に着いちゃった。

 行く場所行く場所……あっ!

 そういえば昨日千歌ちゃん達二人に今日のデートの相談した時、聖美ちゃんが水族館にイルカが来てるって言ってた! 【さしすせそ】も【ボディタッチ】も元々は二人から聞いてたテクニックだし。

 うん、いかにもデートって感じでいいかも♪


 ブブッ


 ん? 千歌ちゃんからメッセ? なんだろ?


[ちゃんと会話して、手を繋ぐくらいやっちゃいなさいよ。アタシ達は絶対絶対絶対見に行ったりしないけど、頑張りなさい!]


 うぅ〜〜! 私は良い友達を持ったなぁ。

 よし、がんばろっ!


 私達は目的地を水族館に決めて、その為に電車に乗る。車内はそんなに混んでないけど、敢えて私は日野くんのすぐ隣に座る。頑張った! 勇気だした! 逆側に全然余裕あるけど、そんなのは知りません! 近くにいたいんです!


 だけど日野くんは別に気にしてなさそう。私は結構いっぱいいっぱいなのに。 ちょっと悔しい。


 そう思ってたら、空いていた隣に誰かが座ってきた事でさらに近づくことになっちゃった。

 そこで私の頭の中に一つの言葉が浮かんでくる。[ボディタッチ]が。


 ……今がチャンスなのかも!


 私は謝りながら、これはしょうがないって事をアピールしつつ日野くんにくっつく。

 胸に日野くんの腕が当たってるのが恥ずかしいけど、これで少しでも意識してくれたらと思って我慢する。ちょっとだけ押し付けたりもしてみる。


 うぅ……ボディタッチってこんな恥ずかしいものなの!? ほんとにみんなこんな事やってるのぉ!?


 ──電車から降りた後、ちょっとお手洗に行くついでにスマホを見ると、そこにはまたしても千歌ちゃんからのメッセージ。

 なんだろ?


[ちなみに、ボディタッチはボディでタッチじゃなくて、さりげなく相手の腕に触ったりとかの、ボディタッチする事だから間違えないよーに!]


 …………へ?

 ええっ!? 違うのぉ!?

 は……恥ずかしいの我慢して胸くっつけたのにぃ!


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