第20話 その頃カノジョ達は……
◇澤盛 海琴◇
「ねもい……」
私は一度布団の中から顔を出して目を擦ったあと、カーテンの隙間から見える朝日が眩しくてまた布団の中に潜る。
昨日、日野君が帰った後の反省会が終わってからすぐに千歌ちゃんちで制服に着替えて家に帰った。
ご飯を食べてる間も、お風呂にも入ってる間も考えてたことは一つだけ。
日野君に私のIDを教えてないから、メッセージの交換をするにはまずは私から最初のメッセージを送らないといけないってこと。
な、なんて送ればいいのっ!? 私からなんてハードル高すぎるよぉ!
そんな事をずっと考えながら布団に入って、それでもまだ送れなくて気が付いたら目覚ましのアラームが鳴ってたの。
「ほんとどうしよう……。こういうの最初が肝心だよね? うぅ〜〜! よし、今日の試合が終わったらもっとちゃんと考えて送ろう! 一日くらい時間空いても大丈夫だよね。すぐに送ったら軽いって思われるかもしれないし!」
私は自分にそう言い聞かせたら、布団をポイッとして起き上がる。
その後すぐにパジャマを脱いでベッドの上にポイポイ。ブラトップも脱いでクローゼットの中のタンスから下着とクラブジャージを出す。
ブラを付けながらふと昨日の日野君の視線を思い出した。
「日野君、昨日すごい見てたよね。やっぱり胸、好きなのかな?」
そう呟きながら自分で持ってみる。
うん。自分で言うのもなんだけど形は悪くないと思う。大きい方だと思うし。
もし、いつか付き合うことになって彼氏彼女の関係になる事が出来たら……って朝から何考えてるの私! 着替え着替えっと。
「そういえば今日の練習試合って確か久鳴岳学園……久鳴岳学園!?」
思わず着替えの手が止まる。誰かが見たらきっとマヌケな格好になってるかも。だけどそれどころじゃないよぉ!
え、ちょっと待って。日野君の高校じゃん! どうしよう!? あ、でも確か……まえに【排球部】って書かれたジャージ着てたはず。
……よし、大丈夫! なわけないっ!
もし部活だったら会うかもしれないじゃん! どうしよう……そうだっ!
「お父さ〜ん! サングラス貸してぇ〜!」
「お、おまっ! 服くらいちゃんと着ないかっ!」
「ひやぁぁぁぁぁっ! お父さんの変態っ!」
ちょっと朝から恥ずかしかったけど、これで変装の準備はおっけ。あとは髪型もいつもは絶対しないようなのにして……うん、完璧! さ、行こ〜う!
────え? 女の子と一緒?
◇華原 乃々華◇
「きょ〜うはしっあい〜♪ ノノちゃんサーブが炸裂だぁ〜♪ 相手のラケット穴だらけぇ〜♪ セリフ。どう? これがあなたと私の差よ。セリフ終わり。ワケワカメ〜♪」
はぁ……なによこの歌。頭おかしい人みたいじゃない。自分で歌っておいてなんだけど、誰かに聞かれたらどうするつもりなのかしら。
まぁ、私の事を知ってる人ならたとえ聞いたとしても、違和感なんてないのかもしれないけど。
[小さくて元気な華原さん]
それがいつもの私だもの。
あの人が昔、ボソッといった好きな人のタイプがこんな感じだったから。まぁ、今は違うみたいだけど?
そりゃそうよね。聞いたのはまだ、私達が小学三年生の時だもの。けど、いまさら素になんて戻れるわけないじゃない。今の[ノノ]で作ってきた人間関係だってあるんだもの。
諦めるにしても、好きだった期間が長すぎてどうしていいかもわからないし……。
ダメもとで告白? 無理。拒否られたら立ち直れなそう。それに、もし告白したとしても今の私達の関係じゃ冗談だと思われて終わりそうだもの……。
って凹んでる場合じゃないわね。今から試合なんだもの。集中しないと……ってあれ? キョウ? 土曜日なのになんで学校にいるの? もしかして平日と勘違いしたとか?
もしそうなら面白いわね。からかってあげないと。
そして、いつもみたいにじゃれ合って、ワザと押し付けた胸の事でからかわれて私もからかい返す。そんな感じになるハズだったのに──
私の小さい体はキョウの腕の中に包まれた。
抱きしめられた。
いえ、これだと意味合いが変わってくるわね。
正確には、転んだ私を抱き支えてくれただけ。だけど私からしてみれば抱きしめられたのと一緒。
試合前なのにどうしてくれるのよ……。集中してたのがどっかいっちゃったじゃない。
って帰るの? ま、待って。……あっ、そうだ。せっかくのチャンスだし、キョウの失敗をネタに朝練に付き合ってもらおう。そのついでに応援もお願いしてみようかしら? キョウが見ていてくれたら……いつもより頑張れる気がする。
──え? その人、前に雰囲気が好きって言ってた人よね? どうしてその人と一緒にいるの?
◇柳 時雨◇
気分が晴れません。
まるで漆黒の深淵に
いつもならば、この姿になることによって色々なアイデアがでるんですが……。
もう一度鏡を見ます。
私が身につけているのは、金の十字架が刺繍された闇色の眼帯。胸元とスカートにフリルが付けられた太もも丈の紅きショートドレス。肩と胸元が開いているので、ブラは付けません。それと膝まであるレザーブーツ。指ぬきグローブとシルバーのガントレット。その上に羽織るのは、銀の弾丸の軌跡のような模様のついた常闇のロングコート。
私史上最高のコーディネートだと思います。
ですが、お父様もお母様もこの格好で外出することを許してくれません。まるで鳥籠から出ることの出来ずに折りたたまれた翼のよう。
こんな時は……そうですね。部室の鍵も持っていることですし、学校に行きましょう。何か書けばスッキリするかもしれませんし。
それに、こんな時こそあの技が成功するかもしれませんし。
そうと決まれば急ぎましょう。
装備を全てはずし、ブラウスを着てスカートを履き、ベストに腕を通します。何か忘れてるような気もしますが、思い出せないので大したことではないのでしょう。
お気に入りのアニメの手提げ鞄に秘伝の書と竹で出来た三十センチ定規を入れて家を出ます。
……出れませんでした。せめて鞄は変えてくれとお母様に懇願され、無地の物に変えてリ・スタートです。
さて、部室に行く前に試したい事を済ましてしまいます。場所は渡り廊下。私の手には家から持ってきた定規。それを持ったままで枝を揺らして葉っぱを落とし、目を瞑ります。──ダメでした。
やはり、現在書き記してあるもの以外に、何か特別な技名を付けないといけないのでしょうか? ブラをつけ忘れたのも原因でしょう。思い切り腕を振ると、揺れる反動で想像以上に体がブレてしまうので。
そんな事を考えながら歩いていると、先程の場所に忘れ物をしたのを思い出しました。秘伝書です。大事です。取りに行かなくては。
あら? どなたか読んでますね?
…………っ!?
な、なんて素晴らしいアイデアを持ってるのでしょう。今まで見たことがありません。これは弟子入りするしかありません。あ、逃げないで下さい。捕まえた腕を引き抜こうとしないで下さい。なんか胸がムズムズします。
そんなに嫌なんですか? 初めて出会えたんです。涙が出ます。
一ヶ月の試練を頂きました。必ず認めさせてみせます。そして正式な弟子になれたその時には、何か技を教えて下さい。頑張りますから。
あら? 師匠どこ行くんですか? 私、どこにでもついて行きますよ?
だから……あっ、待って下さい。そんなに早く歩かれると……胸が……擦れて……ムズムズします。
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