第17話 失敗日記

 ○月○日


 またやってしまった。しかも二日連続で。

 だから、もうしないように失敗リストをここに残しておこう。


 失敗その一。

【連れ去ってください】【セットで付いてきた】


 ほんっとありえない。昨日誤魔化した意味がないじゃない。おかげで、えっと……なんだっけ? そうそう! 美人局! それだと思われそうになったし!

 友達になりたいって事をアピールして、なんとかなったとは思うけど……。それに歳上って事も強調したし、友達にもなってくれるって言ってくれたから、きっと大丈夫! だよね?

 うん、ここからここから! 前向きに行かないと!



 失敗その二。

【服のサイズ】


 これは……ね? ほんとにもうね? サイズも違ううえに着たことが無い服なんだから、もっと気を付けなきゃいけなかったと思うの。

 確かにね? 充電器出す為にしゃがんだ時、違和感はあったの。あ、なんか引っ張られてるかな〜? って。けど、ボタン付けれなかったのは一番上だけだったから、そんなに見えてないと思ってたのに……まさかブラまで見えてるとは思わなかったの!


 しゃがんだままで充電器を手渡しした時、彼の目線は私の手のひらじゃなかった。それよりももっと先。目線を追って辿り着いたのは私の胸元。

 ビックリした。確かに胸元はちょっとキツかったけど、こんなに開いてるなんて思わなかったから。二個目のボタンも外れそうになってたし。

 ホント恥ずかしい。

 学校で男子にチラチラ見られる事はあるから普段は気を付けてるけど、今は日野君と二人だけだから油断してた。にしても……やっぱり日野君もこういう所見るんだなぁ〜。


 いや、うん。好きな人になら見られるのはそんなに嫌じゃないんだけど……けど! さすがにそこまで見つめるのはよくないと思う。他の人の胸も見るの? ってなっちゃうし。私より大きい胸の聖美ちゃんには会わせれないなぁ。もし、聖美ちゃんの胸もジッと見てたら絶対妬いちゃう。恋人でもないのに何言ってんの? って言われそうだけど、しょうがないじゃない。好きなんだもん。だから、


「日野君、私だけのなら……いいよ?」


 なんちゃってなんちゃって! うん。こういうのは口に出して言うものじゃありませんね! あ〜顔熱い!


 失敗その三。

【通話の切り忘れ】


 これが一番の失敗だったと思うの。

 自分で言うのもアレだけど、こんないきなり話しかけてきた人と、日野君がエムエヌに行くのを提案してくるなんて全然思ってなかった。だけどそれだけはダメ。

 だから別の場所にしようとしたのに、まさかイヤホンマイクが繋がりっぱなしになってたなんて……。私達の会話はほとんど千歌ちゃんと聖美ちゃんに筒抜け。おかげて二人がいるコーヒーショップに来るようにメッセも来るし……。日野君が断ってくれれば良かったけど、おっけーしちゃうし……。

 せめて席は離れた所に──って思ったけど、それもダメだった。せめて日野君とこの二人に変なところ見せないようにしないと!


 ──ダメでした。

 名乗って貰ってないのに名前で呼んじゃった。でも、咄嗟にした言い訳が通じて良かった。


 そしてなによりも私をダメにしたのがあの笑顔。なに? なんなの!? いきなりニコッ! って!

 可愛くて心臓止まるかと思ったんだから! 卑怯! ずるい! でももっと見たい……出来れば私だけに。


 歳上らしさを見せるために、ニヤニヤしちゃうのを頑張って堪えてたら、日野君の後ろに座ってた千歌ちゃんがスマホを振りながら口パクで何か言ってる。スマホを見ろってこと? なんだろ?


『彼女いるか聞きなさい!』


 無理無理! これでもし、いるって言われたら立ち直れないよぉ! ……でも、そこが気になるのは私も一緒。どうしよう? うん、それとな〜く何気な〜く聞いてみよう。


 ──うん、いないみたい! 良かった! それにしてもがUMA扱いなのは面白かったなぁ。ほら、千歌ちゃんなんて笑うのを我慢しすぎて涙目になりながら震えてるし。聖美ちゃんは顔見えないけど……あ、小刻みに震えてる。


 でも、そんな扱いって事は、それって今までも彼女いなかったってことでしょ? 私が最初の彼女になれたら……そして最後の彼女にも……って気が早いよ私! 付き合ってもないのに!


 そんな事を考えてたら、日野君から想像もしてない事を言われた。

 可愛いだって! 可愛いって言ってくれたの!

 あ〜どうしよう! 嬉しすぎるぅ〜! な、なんか顔隠すやつ……ってカップしかないじゃん! あ〜もうこれでいいや! ……えへへ〜♪


 やっと落ち着いて、もう少し色々話せるかな? って思った時、私に充電器を返してスマホを見た日野君が、突然少し驚いた様な顔をした。

 するとなんだか焦ったようにメッセIDを見せてきて、私はそれをすぐに登録。

 日野君はそれを確認すると、テーブルにお金を起きながら、御家族からの連絡ですぐに帰る事を告げてきた。

 そっか。うん。淋しいけど、それならしょうがないよね。ポテト大盛りは任せて! なんなら特盛にしちゃうから♪


 そのあと、軽く頭を下げて店を出ていく日野君。

 気づくかな〜? って思いながら窓から下を見てると、店から出て顔をあげた日野君と目が合う。

 聞こえないのに「バイバイ」って小さく呟きながら手を振ると、日野君も手を上げ返してくれた後、少し早歩きで立ち去っていった。


「ふぅ……声かける時に失敗した時はどうなるかと思ったけど……良かったぁ〜……」


 肩の力が抜けて、そのままテーブルに突っ伏しながらそう言った時──


「おつかれ、美琴」

「みこちゃん頑張ったねぇ〜」

「二人とも……ありがと♪」

「「と、いうわけで……」」


 え?


「ここからは」

「反省会のぉ〜」

「「時間だよ!」」


 うん。色々聞かれて怒られました。ほんとに色々。

 でもこれ以上は書ききれないからまた今度。

 

 それに明日はテニスの試合あるし♪ って言っても、私はマネージャーだから試合には出ないんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る