第16話 舞い落ちる葉を一閃する者
デート? いや、デートじゃないだろ。学校帰りに遊びに行ったりするのはよくあるし、それと一緒だろ? なんでわざわざあんな言い方するんだ?
「キョウ?」
……はっ! なるほど。わかった。そういうことか!
「キョウってば!」
「乃々華、お前、嘘でもいいからデートしたっていう実績が欲しいんだな? 遥達に自慢したいんだろ?」
「にゃははははははっ! ……ばーか。絶対勝ってやるから」
どうやら違うみたいだ。だけどさっきよりやる気が増したようで、結果オーライ。多分。
その後、何故か眉を吊り上げながらラケットをブンブン振り回す乃々華を見ていると、コートの入口からテニスウェアを着た上級生らしき男女二人が声をかけながら入ってきた。うむ。一人は背も高くて綺麗な人だ。そしてもう一人のイケメン、お前はどっかいけ。
「ノンちゃん早いね! おっはよー!」
「おはようございます、
名前に蝶だと!? 夫人か! 夫人なのか!? いや、縦ロールじゃないから違うか。ちぇっ。
そんなバカバカしい事を考えながら夫人もどきをチラチラ見ている(腰ほっそ!)と、サラサラヘアーイケメンが乃々華に近付いて目の前に立つ。
「華原、ウェア似合ってるね。可愛いよ」
「せ、
おぉ? なんだこいつ。歯輝きすぎだろ。ワックスでも塗ってんのか? しかも息するように可愛いとか言いやがって。おぉう? イケメンだからか? イケメンだからなのか!? 今日の試合、こいつ負けねーかな。
「で、隣の彼は? もしかして彼氏かな?」
ちょっと男子〜! 一緒に居るだけで彼氏とか言うのやめてくれるぅ〜?
って言うのは辞めといた。
「ち、違いますよ! 全然違います! 幼なじみですってば! ねっ?」
「お、おう」
「そうなんだね。それは良かった」
いきなり俺に話を振るなよ。キョドっちゃうだろうが。にしても凄い全力否定だな。ん? もしかして乃々華の奴、このイケメンに惚れてるのか? それなら納得。そして『良かった』って言うって事は、このイケメンも満更ではないと? ほほう? 青春の匂いがするな。
「へぇ〜、そうなんだ! ねぇ君、名前は?」
そこで蝶野先輩と呼ばれた人が俺のすぐ近くまで来ると、胸元に白く細い指先を当てながら名前を聞いてくる。
ちょっと辞めてください。好きになっちゃう。あ、やめて。グリグリしないで。
「日野……杏太郎です」
「ならキョウ君ね。ねぇキョウくん?」
「はい?」
「楽しいことに興味ない?」
なんですと!? まさかのお誘い!? こんな人前で!? 俺まださくらんぼなんだけど!
「た、楽しいこと!?」
「そう。楽しいこと。それは……」
「それは!?」
「汗よ! 汗を流すの! シャツを濡らし、髪を振り乱し、駆けずり回って滴り落ちるほどに!」
「結構です」
ダメだ。ただの脳筋だ。こういうのは放っておくに限る。
「じゃあ乃々華、俺は試合まで適当に時間潰しでもしてるわ」
「うん、絶対見に来てよ!」
「わーかってるって」
俺は軽く手を振ってコートを出る。一応脳筋とイケ歯にも会釈はしといた。ほら、人と人との付き合いには礼儀って大切だろ? 脳内でなんて呼んでるかはともかく。
「さぁて、時間までどうしますかねぇ〜」
飲みかけのコーヒー片手に校舎の周りをブラブラ。あちらこちらでカップルがラブラブ。石投げたろか。
そして、一度は拾って握りしめた石を、鋼の意志で捨てて再びブラブラしているうちに、いつの間にかここは体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下の下。
そこで俺はとある人を見つけた。
「何してんだあの人」
そこに居たのは、前に朝礼でみた包容力半端なさそうな先輩。
その先輩が何をしているかと言うと、近くにある枝を揺らして葉っぱを落とし、目を閉じ、手にした三十センチ定規で──
「すぅ───ふっ!」
一閃。
切れてない。
いや、本当になにしてんのこの人!?
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