第15話 ご褒美デートの約束
「お待たせ! さっ、ラリーでもやろっか!」
「お、おう?」
再び戻ってきた乃々華は、立ち去る前みたいなしおらしい態度はどこに行ったのかもわからないくらいに、いつも通りだった。
「ほらほら、ちゃんとアンスコ履いてきたもんね〜」
「いちいち見せんでいいっ!」
スカートを捲るな。
ん〜? い、いつも通りか? なんかいつもよりテンション高いような……。
少し顔が赤いから、パンツ見られた恥ずかしさを勢いで誤魔化してるのかもな。なら、その話題には触れないでおくか。
俺は乃々華からラケットを受け取ってコートに入る。ちなみに格好は制服のまま。まぁ、転んだりしない限りは大丈夫だろ。軽く流す程度って言ってたから、飛んで来た球を返すだけで充分だろうしな。
俺が靴の紐を少しキツく結び直して正面を見ると、乃々華はラケットのあらゆる場所を使ってテニスボールをポンポンポンポンしている。
……器用だなぁ。
乃々華の小柄な体に対してラケットが大きく見えるけど、本人は使いずらそうな様子すら無く、手足の様に使っている。さすが中学から続けているだけあるな。
っと。あんま待たせるのもマズイな。
「おっしゃ準備おっけ! いつでもこいっ!」
「それじゃぁいっくよぉ〜! ……シッ!」
バシュンっ!
ひぇっ…
「よ、よっしゃこぉぉ〜い」
「もう打ったよ!」
し、知ってらい! 俺の真横を通り過ぎて行ったのくらいわかるわ!
えぇ〜……軽くじゃないのぉ〜? めっちゃ早いんですけど。
「じゃあ、今度はもう少しゆっくりにするから」
「俺は別にこのままでもいいけど、乃々華がそう言うならしょうがないな」
「はいはい」
次に飛んできた球は、さっきとは比べ物にならないくらいゆっくりだった。うん、これなら返せるな。
それからしばらくラリーを続け、俺も少しずつ速度に慣れていく。
「おーい! もう少し早くてもいいぞ!」
「え、もう慣れたの!?」
「カモォーン!」
「くぅ〜! じゃあ行くよっ! ……シッ!」
「おりゃっ!」
「うそっ!?」
俺が返した球は乃々華の横を抜けて後ろのフェンスに当たる。
「うはははは! どんなもんだい!」
「今打ったの、最初のと同じくらいの力で打ったんだよ!?」
「さすが俺。略してさすおれ!」
「一文字しか減ってなくない!? はぁ、でもまぁキョウなら、って納得しちゃうけどさ。ってそろそろ終わろっか。あんまり疲れすぎても試合に響いちゃうし」
「だな。あ、なんか飲むか? 買ってくるけど」
「ん〜? ノノはいいかな。自分で用意してあるし」
乃々華はそう言ってカバンから水筒を出して見せてくる。その時、開いた隙間から替えの着替えらしきものが見えて、俺はすぐに目を逸らした。
ん? 逸らした? なんでだ?
「あ〜、まぁ、うん。そうか? じゃあ俺はコーヒーでも買ってくるか」
「うん」
俺はその返事を聞くと、財布を持って自販機に向かう。う〜ん、なんだこの違和感。わからん。
分からないままコーヒーを買って戻ってくると、乃々華はベンチでタオルをウェアの中に入れながら汗を拭いていた為、チラッとお腹が見えた。
…………っておい俺、見すぎだ。相手は乃々華だぞ。
「うい、戻ったぞ。試合は何時からなんだ?」
「んとね、九時集合で試合は十時くらいかな?」
「ほぉ〜ん。今八時半だからあと三十分くらいか」
うん、そろそろ帰るかね。邪魔してもアレだし。
「あ、あのさ、キョウ?」
「なんだ?」
「暇なら見ていかない?」
「え、なんで?」
「なんでって……ほら、ノノのこと応援するとか?」
「え、俺の応援いる?」
「それは…………欲しいよ……」
いや、なんでそこで目線を逸らす? お前誰だよ!
あーもう! わかった。わかったって!
「わかったよ。応援はちょっとアレだから、少し離れた所で見てるわ」
「ホント!?」
「ホントホント」
「やったっ! じゃあさ、ノノが勝ったら帰りにどっかデート行こっ!」
「わかったわかった。……は?」
「やったぁ〜! ノノ、絶対勝つから!」
は? デート?
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