第12話 呼び出し
さて、聞いてみよう。彼氏がいるのかどうかをそれとなく。
「澤盛さんはどうなんですか? 大学でモテてるんじゃないですか? 俺の友達も可愛いって言ってましたよ」
必殺、【俺の友達】作戦。この俺の友達とは俺の事である。友達というワンクッションを入れることによって、いかにも自分のことじゃないですよ感を出すのだ。
「か、彼氏なんて今まで出来たことないよっ! それに可愛いって……。その……あ、ありがと……。でもでも、もってことは、日野くんもそう思ってくれてたり……するの?」
「え、あ、まあ……はい」
「ふぇっ!?」
なんてこった。詰めが甘かったようだ。
そしてモテてるのは否定しないけど彼氏がいないってことは、理想が高いのか? それとも、ガードが固いのか? でも、今は俺とこうしてるしな。う〜ん、わからん。
それと、フラッペの入ったカップで顔を隠しながら言ってくるの、可愛すぎるから勘弁してください。
あと、そっちから聞いておいて、答えたら照れるとかズルくないですかね!?
あ〜もう! こういう経験無いから、どうすればいいのかわからないっての!
あ、そういえば充電どうなったかな。
俺は誤魔化すように目の前のグラスを持って、少し乾いた喉を潤すついでにスマホの画面を見ると、既に十五パーセント程たまっていた。
うん。これだけあれば十分だな。
「あ、澤盛さん、充電少し溜まったみたいです。今電源入れますね。コレ、ありがとうございました」
「え? あ、うん……」
確認を取った後で借りていたモバイルバッテリーを返し、電源を入れる。
少し長めのスタンバイ画面が消え、いつもの待ち受け画面になる。
そして自分のIDを表示させる為に操作をしようとした時、大量の着信通知とメッセージが俺のスマホをしばらく震わせた。
その相手は俺の姉からのもの。内容はおつかい。それと感情の吐露。電話は多分、催促なんだろうな。
やれやれ。
「これが俺のIDです」
「あ、ちょっと待って…………うん。登録したよ」
「あとすいません。ちょっと家から連絡が来てて、直ぐに帰らないといけなくなりました。これ、二人分のです」
俺は財布から千円札をだしてテーブルに置くと、席から立ち上がる。
どこか入ることを提案したのは俺なのに、急に帰ることで嫌な顔をされるかと思ったけどそんなことは無く、澤盛さんは柔らかく微笑んでくれた。
「いいよいいよ! お家からだったらしょうがないよね……ってこれじゃ多いよ!?」
「細かいのが無かったんです。多い分は……今度店に行った時に、ポテトでも多くサービスしてください」
「えっ……あ、うん! それは任せて!」
「期待してます。それじゃ、また」
「うん、バイバイ」
その言葉にもう一度だけ頭を下げて店を出る。何気なく上を見ると、ちょうど澤盛さんと目が合った。手を振ってくれたから、俺も振り返すかどうかを悩んだ結果、軽く手を挙げてその場を後にした。
◇◇◇
スマホを片手に姉から届いたおつかいのリストを見ながら歩く。家に向かう速度は少し早足気味に。
頼まれた物を買い、機嫌取り用にコンビニのデザートコーナーから適当に見繕ってカゴに入れて会計を済ますとまっすぐ家に向かう。
「ただいま〜」
玄関を開け、帰ってきたことを告げながら家に入ると、すぐに階段の上から声をかけられた
「杏太郎! おそい! 後、電話に出ろ!」
「充電なくなったんだよ」
「黙れ小僧」
「…………」
「ほんとに黙るなっ!」
「なんて理不尽な……」
文句を言いながら下に降りてくるその姿は、どこか頼りない。身長は百四十センチも無く、肌や腰まで届く長い髪は真っ白。瞳の色は黒よりは灰色に近い。体は細く、右手には体を支えるための杖を持っている。
「だって……今日はママが夜勤だから一人で家に居たくなかったんだ……」
あぁ、そうだった。そういえば昨日言ってたんだよな……。失敗した。
「悪かったよ。
彼女の名前は日野 乃亜。今年で本当なら十九歳になる俺の姉だ。
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