第11話 取り乱し

 おっと……。もしかして胸元を見てるのを気付かれたのか? 女の人はそういう視線に敏感だって言うもんな。いや、もしかしたら自分で色々見えてるのに気付いただけかもしれない。よし、その方向でいこう! レッツポジティブ!


「じゃあ……」


 さすがに道端で充電するのも何だから、場所の移動を提案する為に口を開いた時、澤森さんが頬を染めたままスっと立ち上がって顔を少し伏せながら俺の目を見た。


「あ、えっと……見えた……よね? ごめんね? この服ちょっとキツくて、上までボタン締まらないんだ……へへ」


 そう言って首元を上に引っ張りながら小さく笑う。


 ──な、なななななっ! なんだその可愛い仕草! そしてその言葉! なんですか!? 胸がキツいんですか!? そうなんですね!? 見れば分かりますとも! 胸元の生地がパツンパツンに張ってますものねっ! ……いかん。取り乱すとこだった。落ち着け俺。そしてさっきのセリフをもう一度思い出すんだ。

 ……うん。よし。見てたのガッツリばれてんのな。

 自重しないと。極めて冷静に返事を返そう。


「いえ、大丈夫です」

「う、うん。……うん?」


 おい俺、何に対しての大丈夫なんだよ。澤盛さん首傾げてんじゃんか。はやく誤魔化さないと。


「そ、それよりもここだと邪魔になるし人目にも付くのでエムエヌにでも……行きますか?」

「それはダメっ!」


 それとなく場所の移動を提案すると物凄く必死な顔をして拒否られた。それにびっくりして言葉がでないでいると、突然澤盛さんのスマホが鳴り、その画面を見た澤盛さんが目を泳がせ、更に声を震わせながら近くのビルの二階にあるコーヒーショップに向かって指を指した。


「あ、えっと……あそこに行かない? い、嫌だったらいいの! うん。他にも場所はあるし! 嫌だったら全然いいの! うん!」

「いいですよ」

「うぇ!? え、あ、はい……」


 自分から提案してきたのに、なんでそんなシュンとしてんだ?


 そして俺は、なぜか俯き気味になりながらその店に向かって歩き出す澤盛さんの後についていった。



 カランと入り口の鐘を鳴らしながらアンティークなドアを開け、オシャレな店内に入る。

 俺はこの店に入ったことなかったけど、澤盛さんは慣れているのか、入口付近の店員に人数を告げるとすぐ後ろにいた俺の方を振り向いた。


「えっと……じゃあこっちに行こっか」


 そう言って店内の奥の方を指差した。その時──


「「ゴホンっ! ゴホンっ!」」


 なんだ!? 誰だ!? 今のわざとらしすぎる咳は! ……まぁいいか。


「はい」


 俺はそう返事をして後ろをついて行こうとすると、突然澤盛さんの足が止まった。そして少し困ったような顔をして窓の方に体を向き直すと、


「や、やっぱりあっちの窓際の席になりました……」


 って言ってくる。ん? なりました? どゆこと? まぁ別に場所なんてどこでもいいけどさ。

 特に反対する理由も無い為、言われるままに窓際のテーブル席に向かい合って座る。

 その途中で、俺達が座った席のうしろにギャルっぽい子とロリ巨乳がいたんだけど、なんかめっちゃ見られて怖かった。どっちも可愛いかったけど、俺的にはやっぱ澤盛さんだな。うん。


「あ、日野くんは何飲む?」

「そうですね。カフェラテで」

「じゃあ……私は新発売のフラッペにしよっと」


 澤盛さんはそう言って呼び出しボタンを押した。

 あれ? 俺、名前言ったっけ?


「……っ! そ、そうそう! な、名前はね? 友達が呼んでるのを聞いたの! ほら、日野くんよく来るから! それで!」

「あぁ、なるほど」


 納得。まさか名前を覚えてくれてたなんて……。やはり継続は力なり、だな!


「お待たせしましたぁ〜。ご注文はお決まりですか〜?」


 あ、店員が来た。

 ちなみに注文は澤盛さんがしてくれて、あとは品物が届くのを待つだけ。待つだけなんだが……。


「…………」

「…………」


 会話がない。ヘタレボーイの俺には、こういう時どんな話をすればいいかわからないの。とりあえず笑っておくか。ニヘッ。


「!?」


 失敗した。笑うところじゃなかったらしい。もういい。ひたすら充電のマーク眺めてやる。

 そして俺がスマホとにらめっこをして少し経ち、頼んでた飲み物が目の前に置かれると、それと同時に澤盛さんが話しかけてくれた。


「あ、えっと……ね? 日野くんはこういう所に来たりするのかな? ほら、彼女と一緒に……とか?」

「彼女? その言葉は知ってますけど、存在を確認したことは生まれてから今まで無いですね。なんですかね? UMAとかですかね?」

「「ぶふっ!」」



 おぉぉぉい! 誰だ笑ったの! 後ろから聞こえたぞ! って後ろは例のギャル&ロリ巨乳じゃん! 聞こえてたのか? 恥ずかしい……。二人ともモテそうだもんな。そりゃ可笑しいよな。けっ。


「そ、そうなんだ! そっかそっか♪」


 澤盛さんは澤盛さんで凄いニコニコしてるし……。

 あ、ちょっと待てよ? 今の話の流れなら、前に遥が言ってた澤盛さんに彼氏いるのかどうか聞けるんじゃないか!?


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