二章 デートラブル
第10話 警戒レベル 0
デパートの婦人服売場。そこの試着室。
その狭い空間の中で俺は──
「ねぇ……ここでシちゃおっか?」
「っ……!」
下着姿の乃々華に背中から抱きつかれていた。
◇◇◇
──俺は今、エムドエヌドを出て帰り道の途中。そして目の前には澤盛さん。いつものバイト先の制服姿と違い、大人っぽい格好だ。綺麗でいて更に可愛い。天使。
だけど言ってることがおかしい。
今日は確かにしっかりと聞いた。『私を連れ去ってください』って言った。絶対そう言った。
なんだ? これはもしかして逆ナンか!? とうとう来たか! 俺にもモテ期が!
バレンタインで貰った義理チョコをちょっとオシャレな袋に入れ替えて家に帰ったり、クリスマスに朝からオシャレしてネカフェで夕方まで過ごさなくていいんだな! ひゃっほぉ〜い!
「あ、今のは違くて……」
違うんかぁ〜い! じゃあなんだ? なんで呼び止められたんだ? 客と店員ってこと以外に特に何か繋がりとかあるわけないから、こんな風に呼び止められると嫌でも期待してしまうんだが?
「……どうしました? 何か用事でも? 俺、店に忘れ物でもしたかな……?」
とりあえず当たり障りのない感じで聞いてみる。聞いてはみたが、用事や忘れ物に心当たりはないんだけども。
「え? あ、そうそう! うん、ちょっと……」
「はぁ。それでその用事っていうのはなんでしょうか?」
俺は自分の中の警戒レベルを上げる。知ってるんだ。世の中にそんな都合のいい事なんてないって事は。
「え? あ、あ〜……用事っていうか……あ! えっとほら! 昨日セットで私はいかがですか? って言った時に君は[じゃあそれも]って言ったでしよ? だからその……そう! セットで私が付いてきたの!」
「へ?」
理解が追いつかない。いや、追いついた後にさらに全速力で追い越して行った感じだ。
どういうことだ? いや、言おうとしてることはわかる。俺が昨日エムエヌで買ったやつにセットで澤盛さんが付いてきたんだろ? なるほど。なるほど? なるほどじゃねぇよ!
店員がセットで付いてくるなんて聞いた事ないぞ!? せいぜい母さんがでかい家電を買った時に、運搬と接続の為に業者の兄ちゃんが来るくらいだろ。
なんだこれは。新手の美人局か? 俺ん家は金なんて無いぞ? この前母さんが『そろそろアンタの部屋にもエアコン買わなきゃ〜』って言いながらやっすいエアコンとお高い美顔器買ってたくらいだからな!
「俺、お金持ってないです」
「ち、ちがっ! そういうのじゃなくて……えっとほら! 君ってお得意様だし顔も覚えたし仲良くなれたらって、ちょっと思ってたし! だから……そう、友達! 友達になって! ほら私、歳上だし女子大生だし大人っぽい感じの歳上だから恋愛相談とかも聞いてあげるよ?」
歳上って二回言った。そしてやっぱり女子大生だったのか。うん、俺の予想通り。それにしても友達か……。ぶっちゃけ、話に脈絡も何も無いし怪しさ満点なんだよな(けど可愛い)。それを抜きにしてもこの人とお近付きになれるのはいいな(可愛いし)。もしかしたらがあるかもしれないもんな(可愛いし)。よし。
なんか目の前で【やっちまったぁ〜】みたいな感じで頭抱えてるけど、よし。
警戒レベルは一番下まで下がりました。
「良いですよ、友達。よろしくお願いします」
「え? え、ホント? ホントにホント? えっと……じゃあ、その……連絡先とか交換とかするとかどう……かな?」
「いいですよ」
なんだその日本語。にしても連絡先か。メッセージアプリのIDでいいよな。
あ、でも待てよ?
「俺のスマホ、充電無いんだった」
「えっ?」
そうだ。さっきゲームやって使い果たしたんだった。なんて間の悪い。俺は昔からこうだ。好きな子と日直になれた日に限って風邪ひいたりするんだ俺は。くそぅ。
「わ、私、モバイルバッテリー持ってるから!」
澤盛さんはそう言いながらしゃがむと、肩から下げているパイスラバックからキャラクター物の可愛らしいモバイルバッテリーを取り出して俺に向かって渡してくる。おぉ、さすが大学生。充実したキャンパスライフを送るにはスマホの充電は切らしてはいけないとか聞いた事は……無い。
「ありがとうございます。コレ、可愛いっすね」
「だ、大学生だから!」
大学生関係ないんじゃね? とは思っても言わない。大人っぽいのに可愛いのが好きとか最高。ギャップ萌えとはこういう事だったのか……。
まぁ、それはそれとして──
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ……」
ずっとしゃがんでないで早く立ってくれないかな。
今の位置関係だと、澤盛さんの着てるデニムワンピースの上のボタンが一個外れてるせいで、谷間と少しだけ白いフリルが見えるんだよ。これ、多分ブラのだよな?
う〜ん。このままガン見していいものが否か……。
俺がそんな事を悩みながらガン見していると、澤盛さんは少しだけ頬を染めながら胸元を手で隠してそっと横を向いた。
……あ。
面白いな、もっと読みたいな。などと思ってくれたら執筆の力になります。
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