第13話 日野 乃亜
俺の姉さんは原因も病名も不明のまま、十三歳の時から成長せずに五年間眠り続け、約一年前に目を覚ましたばかり。その影響で体はまだ小さいまま。
見た目は、姉というよりは妹に見られるだろう。
中身も十三歳からの再スタート。
姉さんの目が覚めて詳細を説明をした時、「え、魔法少女みたいっ!」って言ったのには母さんも目を丸くしていた。もちろん俺も。
「ふんっ、わかればよろしい。それじゃあ、お姉ちゃんの部屋でゲームしようか!」
家に戻って来てからは、眠る以前と変わらない態度だ。俺の方が大きくなったとしても、姉さん的には俺は弟、ってのは変わらないらしい。
口調とかを少し無理して、お姉さんっぽく振る舞おうとしてるけど……なんだろうな。それが嬉しくてちょっと泣いたのは内緒だ。
が、それと今のは別なんだよ姉さん。
「いや、飯の準備しないと」
「え〜、一人じゃつまらないじゃないか」
「食べたら付き合うから。母さん何作っていったっけ?」
「ケチ。知らない。アホ。見てない」
「ケチじゃないしアホでもないっての。……冷蔵庫見てみるか」
拗ねてる姉さんの頭に軽く手を置き、軽くクシャッとしてから廊下からリビングに入るとそのまま隣のキッチンに向かう。
そして冷蔵庫の中を見る──までもなかった。
冷蔵庫の扉に貼られたマグネットのホワイトボード。そこに書かれていたのは、【ごっめぇ〜ん! ドラマに夢中になってたら作る時間無くなっちゃった! 後はよろしく! (携帯で送ろうと思ったけど、文句言われると思ってやめた)】との事。
はぁ……。ため息しか出ねぇ……。
「ママなんだって?」
「ん? 作ってないから作れってさ」
「なら乃亜、シチューがいい。シチューを所望する」
「どこの姫だよ。シチューか……材料あったかな……ってあったや。わかった。シチューな? 少し時間かかるから姉さんはテレビでも見てて。それか風呂」
「じゃあお風呂入ってくる! 美味しいの頼むぞ!」
「へいへい。かしこまりました〜……ってここで脱ぐな!」
姉さんは来ていたワンピースの肩紐をとめていたボタンを両肩とも外すと、そのまま下に落としてパンツとキャミソール姿になった。ブラ? そんなものはまだ必要ないらしい。
「だってお風呂に入るから──な〜んて、う・そ! お姉ちゃんはもうお風呂おわってるのだ! だけどこっちの方が楽だからこのまま〜!」
「まったく……。風邪引くなよ?」
俺はそう言いながら制服の上だけを脱いでエプロンを付け、リビングのソファーに「とうっ! あふっ!」と、ダイブする姉さんを見届けてから調理に取り掛かる。
人参はハート型や星型に。じゃないと怒るからな。
そのあと、出来た夕飯を二人で食べて洗い物を済ませると、姉さんがいつの間にかリビングに持ってきていた、サイコロを転がして電車を動かすゲームを二人並んでプレイした。
「姉さん。次、姉さんの番だぞ」
「…………」
「姉さん?」
「すぅー……」
「寝たんか〜い」
いや、寝るとは思ったさ。もう夜の十一時だしな。姉さんいつも九時くらいに寝てるし。ちょっと夜更かしするといつもこうだ。慣れてる。
「さて、いつも通り部屋に寝かせてくるか。風呂はその後だな」
起こさないようにそっと立ち上がってゲームの電源を切り、テレビも消してリビングの明かりを常夜灯にすると、俺は姉さんを抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこってやつだ。
それにしても……軽いなぁ。
そのままゆっくりと階段を上がり、二階の奥にある姉さんの部屋の扉を開けて、ぬいぐるみに囲まれたベッドの上にそっと寝かせる。ゆっくり、ゆっくりと──
「んみゃ……きょうちゃん?」
「悪い。起こしたか」
「んにゅ……」
「おやすみ」
「おやにゅみ……」
…………寝たか。
寝息をたてたのを確認すると、近くにあったぬいぐるみを姉さんの腕に抱かせる。俺は部屋を出て、足音を極力立てないように下に降りた。
「さて、俺も風呂入ったら澤盛さんにメッセージでも……あ」
そこで俺は思い出す。
澤盛さんは俺のIDを登録したけど、俺は澤盛さんのIDを聞いてなかったことに。
つまり、相手から何かが来ないと俺には何も連絡手段がない。
「おぉぉぉ……やらかしたぁ……」
また今夜もモヤモヤして寝れなくなるじゃないか……。
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