偉大なる沈黙者
「お。お姫様のお目醒ですか?」
ビスマルクがクスコたちのいる部屋に戻ってくる。
「おかえりなさいビスマルクさん。どこへ行ってらしたんですか。」
「君たちの種族が用いる軍事技術を見てきた。まあさすが人外といった所だな。」
「それは光栄です。でどのあたりがさすがなんですか。」
「そりゃあ君たちの用いる弓だろう。軽く2mほどある弓を軽々と射れるようだった。あの威力ならレートアーマーでも軽く貫通するだろ。」
「よく見てますね。まあ練度の高い兵しか使えませんが私達の種族は人種よりは力が強いですから。」
「あと、やはり全体的に軍の練度が高いように思えた。部族政治なんてやってるもんだからろくな兵士はいないと思ったが...正規軍でも揃えているのか?」
「この一体は大型の魔獣がよく出ますから。正規軍でなくとも十分戦える戦闘集団は生まれるんですよ。」
「そうだ。そんな話をしに来たんじゃない。お姫様の調子を確認しに来たんだ。
調子はどうだい?」
「えっ。はい大丈夫です!」
「いやクスコさん、大丈夫じゃないですよね。右耳聞こえてませんよね?」
「あっ それは...」
「そうかそれは本当にすまねえな。」
「えいえい気にしないでください。」
クスコが申し訳無さそうにしている。
―――「それよりクスコ。敬語はやめてくれ。一様召喚されたんだから君の方が立場は上なんだ。俺だけラフに話したら示しがつかん。」
「えっ わかったよ。ビスマルク。」
「その呼び方も呼び捨じゃ違和感だ。オットーでいい。」
「わかったよ...オットー。」
「それよりクスコ、君の魔法もう一度使えそうか?」
「えっ わからないよ。使い方も良くわかってないし。」
その言葉にビスマルクは軽く頭をかいていた。
「あっ私が調べてみましょうか。おそらく今の魔法残量の割合を確認すればわかるはずです。それぐらいならできますから。」
すると
ミネルバが懐から木製の杖を取り出した。
「コニアシアン。......えっと残り6割くらいでしょうか。自然に回復した分の割合も考えてもあと1回くらいなら魔法を行使できそうですね。」
「ならクスコ、どうしても呼び出してほしいヤツがいる。」
「それはいいんだけど、私もやり方がわからなくて...」
「クスコさん。この杖を持ってください。そして杖に向かって魔法を行使するという意思を示してください。古代の詠唱不要な魔法はこのタイプの発動だと思います。」
するとミネルバは懐からもう一本杖を取り出した。コルダイテス製の例のサムハイン古代遺跡で発掘されたあの杖である。
「意思をしめすってどうやれば...」
「杖に願うんですよ。誰がいいとか、何がしたいとか。」
クスコはミネルバから杖を受け取るとそれを構えて口に出して魔法を行使した。
「オットーの呼び出して欲しい人を呼び出してください!」
――――「いやさすがにこれじゃだm...」
と言いかけた時、また再び杖が紫色に光りだしあたりを包み込んだ。
「おいクスコ。俺は誰がいいとも一言も発してないが正しく召喚できるのか?」
ビスマルクが思わずクスコを問いただす。が
―「できてますよ。後ろを見なさいオットー。」
ビスマルクの後ろに見慣れない男がひとり椅子に腰掛けていた。
白髪で色白なその男は、黒いプロイセン軍服に身を包み赤いマントを羽織っていた。
「久しぶりだな!ヘルムート。相変わらず挨拶がいやらしい。」
「呼び出しておいて、失礼な人です。そんなんだから2世に嫌われるのですよ。」
「余計なお世話だ!馬鹿野郎。はははっ」
ビスマルクとそのヘルムートと呼ばれる男はお互い楽しそうに罵り合っている。
「ねぇ、オットー。であなたが呼びたかったその人は誰なの?」
「別に呼びたかったわけじゃねえよ。役に立つから呼んだだけだ。」
するとヘルムートと呼ばれる男は立ち上がってクスコの座るベッドの隣に座り込んだ。
「オットーにはもったいないくらいの美人ですね。私はヘルムート・カール・ベルンハルト・グラーフ・フォン・モルトケ。元プロイセン参謀総長です。こいつの同僚だと思ってください。私もヘルムートと軽く呼んでくださって構いません。」
クスコは褒められて顔を赤くしている。
「ふんキザなやつだ。」
「あなたも大分ですよ、オットー。」
まったくお互い中が良いのか悪いのか分からぬ二人だ。だが中が悪い二人でも絶対に相手の分野には立ち入らない。モルトケはビスマルクの外交政策に口を出さないし、ビスマルクは軍事に関してはモルトケにすべて任せる。お互い性格も間逆な二人だがだからこそ互いに強く信頼しあっている仲なのだろう。
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