第269話 国王ボティウス2

 先日より、マガポケにて拙作「劣等人の魔剣使い」が連載を再開しております!

 さらに再開記念として漫画1巻分無料イベントも開催!!

 皆様是非マガポケで、「劣等人の魔剣使い」をお読みください!




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 昨晩は最低の祝賀会だった。

 ボティウスはクマが浮かんだ目を擦り、大きなあくびをする。


 祝賀会途中で現れた不審人物、あるいは軍隊は結局、野営地にいるアドリアニ全軍を持ってしても本隊を見つけられなかった。


 各所で食料庫が破壊工作に遭うわ、部隊間で情報が錯綜するわ、出した偵察隊がものの見事に戻ってこないわ、散々である。


 食料庫を守っていた兵士は全員死亡。

 もちろんそれは、襲撃され死亡したわけではない。大切な食料庫を守れなかった罪でボティウスが直々に首を切断してやった。


 食料庫の襲撃もそうだが、兵数の情報錯綜も酷い。


『1万の兵がすぐそこに迫ってきている』

『1000の遊撃兵だって聞いたぜ?』

『食料庫に火を放った変態がいるらしい』

『一体どこに本隊がいるんだよ!? ちっとも見えねぇぞ!!』

『出した偵察隊が戻ってこねぇぞ!? 絶対森の中に誰かいる!!』

『誰だ!? 俺の耳元で変態じゃない!彼は変態じゃない!って呟く奴は!?』


 まるでドラゴンに遭ったかのように、朝までその混乱は収まらなかった。

 もう、散々である。


「……いかがでしょうか?」


 朝一から将校を含めた会議を執り行っているが、昨晩の情報を整理しようとしても、それはもうボティウスの能力の範疇を超えていた。


「もう良い」


 あまりに馬鹿馬鹿しくなって、ボティウスは考えることを辞めた。


「俺の国にアヌトリア兵が攻め入ったのは事実。すぐに各国へ通達。防衛動員を要請しろ!!」

「はっ!」


 指示を下した兵がすぐさま天幕を出て行く。

 これでアヌトリアはこちらに手を出せまい。


 また1歩、アヌトリアの財産をむさぼり尽くす夢に近づいたというわけだ。


「さて諸君。昨晩の失態の責任をどう取るおつもりかな?」


 ボティウスはあえて低く落ち着いた声で訊ねた。

 途端に、将校達の顔が青ざめる。


 実に良い気味だ。

 ボティウスは僅かに溜飲を下げる。


「相手国はまだ態勢が整っておりません。いますぐにでも仕掛け、西部分隊を撃破した方が良いかと!」

「その戦陣は是非私に切らせていただきたい!!」

「いえ、俺が――」

「静まれ!」


 我先にと失態を取り戻そうとする部下達を見てにやけが止まらない。

 だがここでにやけていては、国王としての威厳を失ってしまう。


 国王として大切なのは、誰にも舐められてはいけないことである。

 そして実行力や強制力など、王の力を弱めるような因子が存在するのであれば、迷わず排除する冷徹さも大切である。


 昨晩の出来事は明らかにボティウスの失態であったが、それを口にするようなものは誰1人としてこの場にはいなかった。


 ボティウスは厳かな雰囲気を纏い、一同を眺める。


「権力の強さとは、使う道具の強さと比例する。権力が強ければ強いほど、強力な部下を扱えるようになる。

 国王である俺の道具は、最高品質でなければいけない。俺はお前達を最高品質だと信じていた。

 ただ……手にした道具が最高品質であれば、昨晩のような事態は決して起らない。つまり、この中に低品質の道具が混じっているということに他ならない。この意味が理解できるな?」


 ゆっくりと丁寧に口にした理論が、将校達の表情に染み渡っていく。

 その反応に満足したボティウスは、ゆったりとした動作で立ち上がる。


「王命である。己が最高品質であることを証明せよ」

「「「「はっ!!」」」」


 ボティウスが嗾けた将校たちが、一斉に動き出した。



 ある者は部隊の再編に駆けずり回り、またある者は兵站の確保に走る。


 一晩中見えない相手に格闘を続けた兵士達はみな眠りこけていたが、それをたたき起こされ、のっそりと動き始める。

 それを見てある将校ががなり立て、ただ目に付いただけの兵をばっさり切り捨ててしまった。

 慌てた兵達は皆一様に、まるで蜘蛛の子を散らすかのように一気に動き出した。


 2週間後に戻ってくるだろう、11万の兵を待というと言う者は、誰一人としていなかった。

 もしそのようなことを口にすれば、「軟弱者め」と直ちに切って捨てられただろう。


 誰しもが反撃の狼煙を消せないまま、午後にはアヌトリアへの再侵攻の準備が整った。


 少ない時間で再編したため、部隊の構成はかなり稚拙。情報すら正確に行き届いていない。

 それでも彼らの奮闘は賞賛されるべきだろう。

 圧倒的に少ない時間で1万を超える部隊を、ゼロから整えてみせたのだから。


 部隊の先頭がアヌトリアの国境を越えたのは午後1時。

 昨晩蓄積された疲労はピークを迎えていたが、それでも不満を口にするものは誰も居ない。

 もし口にしてしまえば、一生不満を言えなくなってしまう。

 それが理解出来ているだけに、兵達はみな黙々と前へ進んでいく。


 先頭の兵が三つの人影に気付いたのは、国境を越えてすぐ。シュルトへはまだ1時間ほどの場所だった。


 先日戦争があったばかりで、何故このような場所に人がいるのだろう?

 先頭の兵士達は皆首を傾げるが、彼らが背負う紋章を見て理解する。


 奴等は、アヌトリアの兵だ!


 理解すると同時に、さらに大きな疑問が現れる。


 彼らはたった3名で、一体なにをしているのだろう?

 こちらを見て立ち止まっていることから、彼らが逃げ遅れたアヌトリア兵だという線は消える。

 大部隊が隠れられるような地形でもないため、敵をおびき寄せる案山子ですらないだろう。


 では……一体なんだ?


 兵士達の間で疑問が連鎖していくそんな中、3名の男女がこちらに向けて歩みよってきた。

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