第265話 致命的な問題勃発
マガポケにて連載(今は休載中)だった「劣等人の魔剣使い」が
12月19日に連載再開が決定!
大変長らくお待たせいたしました。
今暫くお待ちくださいませ!
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何度も同じ試作型を作っているため、1つあたりの製作時間がかなり短縮出来てきた。
こうして製作に慣れを生むことで、本番製作で迷いが生まれず、ひたすら最高のものを目指せるようになるというわけである。
「畜生! 誰だミスリルの釜に鉄ぶっこんだ奴ぁ!?」
「お、俺の槌が……めちゃくちゃに折れてやがる……」
「この金床凹ませたやつぁ誰だ!?」
「てめぇか!? この野郎!!」
「おおおお、オレは悪くない。悪くないからな!?」
「ぶん殴るぞ! クソッタレが!!」
「殴ってから言うなクソヒゲ!! ちょ、まっ、袋叩きはやめ――」
「誰が、クソヒゲだって?」「ふんっ他愛もない!」「ドワーフ舐めんな」
「…………ずびばぜんでじだッ!!」
試作品を作り、【刻印】を刻み、テストを重ねて2週間。
かなりの時間がかかってしまったが、ようやく本番に挑戦できるクオリティの試作品が完成した。
設計図のない、この世に1つとしてない、自分だけの武器。
だからこそ、試作品完成だけで膨大な時間がかかってしまった。
試作品が完成し、アルトは1日たっぷり休息を取る。
その翌日に、確保したオリハルコンの半分を熱し、打ち据え、形成していく。
熱して叩き、叩いては熱する。
その行程を5時間ほど続け、油に沈める。
十分に冷えたら細かく研磨していく。
研磨を終えると今度はヒヒイロカネで彩飾を行う。
このヒヒイロカネは他の素材よりもマナへの抵抗性が高い。その性質を生かして【刻印】箇所のコーティングに用いる。
こうすることで、マナの異常な発散は防げるだろう。
ヒヒイロカネは全部で2キロ。アルトが確保した量は200グラムと少量のため、無駄に多く被覆すればすぐに材料が足りなくなってしまう。
慎重に槌とヘラを用いて彩飾していく。
1つが完成し、すぐにアルトは2つ目に取りかかる。
今度はさらに上をいくように。1つ目で得た感覚をフルに生かし、2つ目を仕上げる。
あとは磨いてチェックをするだけ。
もうすぐ、完成する。
そのとき――、
スパァァァン!!
後頭部で破裂音が響き渡った。
「はい今日はそこで終わり。続きはまた明日」
「いや――」
「いや、じゃない! 師匠、もう24時間ぶっ続けで作業してんだぞ? そんだけやれば感覚が鈍るだろ。だから続きは明日な」
……仕方ない。
しぶしぶ、アルトはリオンの言葉に従うことにした。
むしろここで従わなければ仕事のない日の目覚まし時計のように、ここに彼女がいる意味が全くない。
試作品を鞄に詰め込み、アルトは家に戻る。
「アルト! 夜には戻ってきなさいって言ったでしょ!? それにリオン、あんたもだよ! まったく……」
そう2人を叱りつけながらも、昨晩作ったのだろうスープを温め直してくれるリベットにはつくづく頭が下がる。
食事を取り、湯浴みをしてぐっすり眠った翌朝。
工房で武器を完成させようとしていたアルトの目論見は潰えることになった。
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「アルト。大変」
家を出たアルトの前に、突然マギカが現れた。
「あ、マギカ久しぶり。おはよう?」
「ん。おは……じゃなくて、大変。戦争が起きた」
「…………は? どこで? どの国が?」
「アヌトリアとミストル」
「アヌトリアが仕掛けたの?」
「んん。ミストルが来た」
「え?」
ミストルはアヌトリアとユステルの西に位置するエアルガルドで最も広大な連邦国である。
大国であるアヌトリアとユステルに面し、それらに対抗するために設立された小さな国の連合体。
あくまで防衛同盟であり、ミストルから攻撃を行う力はない。それはエアルガルド全土の認識だった。
故に、もたらされた情報に、アルトはかなり驚いた。
「規模はどれくらい?」
「わからない。でも、ミストル兵が宣戦布告した」
ミストルが兵を挙げて国境に進攻し、アヌトリアの国境を越えた。
そして超えた先で兵が衝突。
本体がぶつかっていないのであれば、まだ小競り合いで済むだろう。だがそれだけで終わるだろうか?
「なに戦争? もしかして、オレの出番じゃないか?」
「行きます?」
「もちろん! オレってほら、勇者だからさ。戦争を止める使命があんだよ!」
「なら、どうぞ。ボクらは行きませんので」
「おっけ。オレ平和主義だから戦争には行かないわ!」
素早い変わり身。まるで忍者だ。
「どうするアルト?」
「どうしましょうか」
「何を悩んでんだよ? 別に参加しないなら構わないだろ。戦禍がここまで迫ってきたら、戦うなり逃げるなりすればいいだけだし」
深刻なアルトとマギカとは打って変わって、リオンには緊張感の欠片もない。
「モブ男さんはボクらがどこを通ってセレネに向かう予定か、覚えてます?」
「それは…………あっ」
やっとリオンも事の重大さに気付いたのだろう。
武具が完成し次第、アルトたちはアヌトリアを西に向かってセレネに入る予定だった。
セレネはレアティス山脈の一番西の端。国境がアヌトリアとミストルに面している。
つまり、戦争が起こってしまえばその経路でのセレネ入りはかなり難しくなるのだ。
「……どうすんだ?」
「どうしましょうか?」
「んん」
お互いがお互いの顔を見合わせる。
だがそれぞれ良い案が浮かばないのだろう。難しい顔をしたまま黙りこくってしまった。
そのとき、アルトの頭に大声が響き渡った。
『おう! 起きてるか!?』
「おわ!」
あまりに唐突だったため、危うく口から朝食が舞い戻ってくるところだった。
飛び上がった心臓を宥め、アルトは宝具に思念を伝える。
『おはようございます皇帝』
『戦争が起こった』
『はい、いまその情報が入りました』
『そうか。なら話は早いな。テメェはどうする? たしか、セレネに行きたかったんだよな? たぶん、うちからじゃ無理だぜ?』
『長期化しそうなんですか?』
『半年じゃ厳しいかもしれんな。1年か2年か。さっぱりわからん。一切身に覚えがねぇのに、テメェの国は邪神の傀儡だ、フォルセルスの名の下に誅を下すって宣戦布告してきやがった。奴等相当イカレてるぜ』
だが、邪神とはこれまた物騒な文言を用いたものだ。
『ミストル連邦国っていつからセレネの十字軍になったんですか?』
『知るか。だが、まあテメェの言う通りだな。ちなみにフォルセルス教総本山は知らぬ存ぜぬでのらりくらりだ。チッ、だから坊主は嫌ぇなんだよ……』
文字通りレアティス山脈にある総本山から高みの見物というわけか。
しかし何故、このタイミングでミストルがアヌトリアに攻め入ってきたのだろう?
『国はどうにかなるが、テメェはどうよ? かなりヤバイだろ?』
『ええ。正直、予定してたルートが潰れましたね』
西経由でセレネに入れないのだとすれば、エアルガルドをぐるっと1周してこっそりミストルに入国。そこからセレネに行くしかない。
ただ、そうすると半年か、最悪1年ほど移動に時間がかかってしまう。それではハンナを救うタイムリミットをオーバーしてしまうかもしれない。
『…………戦争が終わる条件ってなんでしょう?』
『そら降伏だろ。相手の国を屈服させる。だが、上が絶対に折れなけりゃ、どこまでも続く。しかも相手が相手だ。マジでめんどくせぇ』
国の決定機関が王や枢密院、国会であれば、そこを掌握してしまえば戦争は終わる。だが連邦国であるミストルは、抑えるべき司令塔がいくつも存在している。
もっとも簡単な手法の『斬首作戦』でさえ、時間がかなりかかってしまう。
『相手軍を一時的に撤退させることは出来ますか?』
『出来るが、それだけじゃセレネにゃ入れないぜ』
『どうしてです?』
『そらおめぇ。目の前で戦争が起こってて、近くに教会があるってなったら、民衆が逃げる先は決まって来るだろ?』
『ああ……』
難民流入を防ぐために、国境が封鎖されるのか。
難民が流入すればその分、食料の消費量が増える。消費量が増えればいずれ食料が足りなくなり、自国民さえ飢える可能性がある。
普段はまったく意識しないが、食も金も無限ではない。
いくら神の国だとはいえ、国家は国民の生活を保障する義務がある。
それが脅かされる可能性がある以上、難民の流入を国は黙って見過ごせない。
限界を超えての奉仕は善でも偽善でもなく愚行であり、悪であり、自殺行為なのだ。
しかし、となると完全に八方塞がりだ。
一体どうすればセレネにたどり着けるのか。
日那を出た頃は、こんなことが起こるなど全く予想していなかっただけに、アルトにとってかなりの痛打だった。
『たとえばこちらは1兵も失わず、相手の部隊を全消滅させたら、戦いは終わりますか?』
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