3章 大いなる助走
第262話 今は懐かし第二の故郷
なんじゃこりゃ?
……なんじゃこりゃあ!!
アルトはステータスウインドウを眺めながら、吐血するように呟いた。
【称号】 神々が恐れる変態
おい待て神々。
なんで勝手に怖がってるんだ!?
どうやらいつかボクは、神々が居る場所に殴り込みに行かねばいけないらしい……。
アルトは自らのステータスを眺めながら、ルゥのようにプルプル小刻みに震え出す。
「師匠なに笑って……あ」
「え?」
物思いに耽っていたせいで、背後に立つリオンの発見が遅れた。
結果――、
「…………うん、師匠が変態だっていうのは、知ってたぜ」
ステータスを覗き見されて、リオンにドン引きされてしまった。
彼の顔は引きつり、なにもしてないのに数歩後ろに下がる。
「大丈夫。オレは師匠が変態でも尊敬してるからな!」
「何が大丈夫なんですかね!?」
「そういや師匠って、ステータス画面の防御が弱いよな」
「強引に話をねじ曲げましたね。――って、ステータス画面に防御力?」
「セキュリティだよセキュリティ。ステ隠ししとけよ」
「へ? なんですかそれ?」
「……なんで知らないんだよ? 時々師匠ってすっごい基礎的なこと知らないよな」
自分ではそんなことないと思うが、自己判断が完璧ならば灯台もと暗しなんて言葉は生まれない。
ただ普通の人であっても興味を持たなければ、どれほど基礎的な知識であっても知らないはずである。
「そのステ隠しはどうやるんですか?」
「上上下下右左右左BA」
「カカロット?」
「おっ、さっすが師匠よくわかって――アダッ!! なにすんだよ!!」
「早くステ隠しの話をしてください」
「いま話したろ! これがステ隠しのコマンドだっての!」
そんな基礎知識があるか!
完全に裏技じゃないか。
「上上下下……っていうのは、スワイプだからわかりますけど……ABってなんですかそれ」
「ほら、ここにあるだろ」
そういってリオンはブレスレットに刻まれている“STATUS BRACELET”の文字を指さした。
「なるほど。Bは判りますが、Aはどちらを?」
「右のほう。それでステ隠しの画面が出てくるぞ」
「なるほどなるほど」
アルトはうんうんと頷き口を開く。
なるほどぉ。
「これが基礎知識わなけないじゃないですか!!」
「嘘は言ってないだろ! カカカカカカカカカロットォ!! は常識だって!」
「いやそれ、どこの世界の常識ですか……」
言いたいことはわかるが。
しかも特定のゲームユーザーのみの基礎知識。
……というか、もう知っている若者はいないんじゃないだろうか?
大きい子どもなら知っているだろうけど。
このステータスブレスレットを作った奴は、どうやら元日本人で、ゲーマーらしい。
しかし何故そんな大切なシステムを隠しコマンドなんかにしたのか。
ふつふつとこみ上げる苦いものをぐっと飲み下し、アルトは言われたとおりのコマンドを入力する。
すると――、
「お?」
ひょこん、と突然ステータス画面が全体的に暗くなり、右下にOKの文言。
一番上には【非表示にする項目を選択してください】と書かれている。
なるほど。ここで選択したスキルやステータスをOKで非表示に出来るのか。
試しにアルトは、現在使っていないスキルや職業、称号のほとんどにチェックを入れてOKを押す。
――が、
『以下の非表示は拒否されました。【変態紳士】、【神々が恐れる変態】』
「ぐ…………」
おい、神よ。
どれだけこの称号に思い入れがあるんだ?
よりにもよってその2つを拒否って、鬼か!!
その2つが並んでいると、神さえ手の付けられない危ない奴にしか思えなくなるじゃないか!!
特に(社会的に)ヤバイ2つだけが表示されるくらいなら――木を隠すには森。称号は全表示にしておいたほうが安全だろう。
諦めて、アルトは称号のチェックを外し、OKを押したのだった。
「もうすぐ港に着くわぞ」
「あ、はい。わかりました」
船が向かう先には巨大な大陸の影が浮かび上がっている。あと1・2時間もすれば、港に到着するだろう。
アヌトリア帝国東。
皇帝が無茶をして、アルトが無茶を言ったおかげで、通じた日那との定期便。
まさかあのときはアルトも、本当に航路が繋がるとは想いもよらなかった。
ホクトが陥落し、国庫が尽きかけた日那を救ったのが、皇帝の『和食が食いたい!!』の一言だったとは、一体誰が想像できるだろう?
とにかく、貿易の打診は日那の混乱とかみ合って、一気に話が進んだ。
★1(いまは3だが……)のアルトが仕掛人であると考えると、まさに奇跡という言葉がふさわしい。
だがもし定期便の運行開始が遅ければ、日那は貧困に喘いで暴動が頻発しただろうし、早すぎても話が聞き流されていただろう。
あの瞬間だったからこそ、和食を食べたい皇帝の思惑と、お金が欲しいシズカの思惑が、アルトという細いラインの上で結びついたのだ。
『俺は、マジで感動してるぜ……。ありがとうアルト!』
そう皇帝は声を震わせた。
しかし、〝食〟は人を狂わせる。
『俺もう、死ぬまで一生納豆だけ食うわ!!』
それでは本当に死ぬから、ちゃんと別のものも一緒に食べてほしい。
とにかく、これまで和食を求め続けて、ようやっと念願の和食が手に入った皇帝テミスの感動は一入だったようだ。
□ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □
1月ということもあり、アヌトリアはほぼ全土が深い雪に覆われている。
そのため、本来は飛ばせば東港から首都イシュトマまで3日で到着できる道のりが、1週間とかなり時間が掛かってしまった。
途中、リオンが氷付けになりかけ、マギカの尻尾が見事な雪団子になってしまったが、誰も脱落することなく首都に到着。
すぐにアルトは第2の実家に向かう。
「ただいま戻りました、リベットさん」
「……アルト? アルト!?」
部屋の中に洗濯物を干していたリベットはその手を止めて、ずんずんとアルトに歩みより、そしてその逞しい腕をアルトの背中に回した。
「あぁ……。アルト、戻ってくるなら、手紙でも寄こせばよかったのに」
ぐいぐいとリベットの力が強まっていく。
必殺背骨折り。
ぐおおおおおお!!
アルトに効果は抜群だ。
「ちゃぁんと生きてたんだねぇ」
いままさに死にそうになったんですが?
まさかレベル156のアルトですら耐えられないとは。
もしかするとこのリベットこそ、人類最強なのではないだろうか?
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「カカロットネタ」
削ろうかと思ったのですが、懐かしかったので残しました。
※本作はデビュー前に書き上げた作品
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