第252話 残念属性
「今のは誰の攻撃や!! 怒らんから言うてみぃ!! ぎったんぎったんにしたるわ!!」
「もう既に怒ってる……」
少し前から薄々感じていたけれど、シズカさんってものすごく強いのに……残念。
鞄から顔を覗かせたルゥをなで回した。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
ぷるぷる、どういたしまして。
まるで甘えるようにルゥはアルトの手に体を寄せた。
「ところで、シズカさんがなんでここにいらっしゃるんですか?」
「なんもかんもない。ウチはあんたらが死んだ思うて出張って来たんやで? なのに、何故か生きとる。なんで死んでへんねん?」
「えっ……」
「なんやその目は?」
「もしかして、この善魔を送り込んだのはシズカさんなんですか?」
「んなわけあるかいっ! 善魔なんて敵や敵!」
「じゃあどうして――」
「どうしてもこうしてもあるかっ! せっかく三人がピンチの時に、ウチがずばーんと助けて点数稼ごうと思っ取ったのに!」
そう思っていたとしても、口にしないのが吉というものだ。
「うわぁ、残念すぎる」
「そう言うリオンさんは、一度鏡で自分を見たほうがいいですよ」
あなたも十分、そちら側の人間です。
「……で、どないなっとるん? 現われた善魔は上級。ごっつい特性もあったやろ?」
「え、ええ。ありましたね」
彼女の言うごっつい特性とはおそらく、ダメージが通りにくかったことを指しているのだろう。たしかに、あれにはアルトもかなり参った。
しかし、あれが上級か。
ごっつい特性の話よりも、アルトは彼女が先に口にした上級という言葉に興味が引かれた。
上級ということは悪魔と同じように、低・中・上級と別れているのだろう。
もしそれが悪魔と同等の扱いだとするなら、本体レベルは70~90。
魔物に換算すると130~150くらいのステータスに相当する相手だったということになる。
龍鱗の迷宮の魔物は低くて70台。下層だと90台となる。
その魔物のほとんどを安全マージンから対処出来るようになったにもかかわらず、かなり追い詰められたのはだからか。
「そもそも、上級善魔相手やと威圧でほとんど動けなくなるはずやで?」
「……威圧ですか?」
「せや。威圧いうのはあくまで概念や。マギカやリオンはともかく、アルトがそれに対処するには〈格差耐性〉がなきゃあかんねんけど……」
「〈格差耐性〉なら持ってますよ」
「ほぅん。生まれ付きか」
「いえ。たぶん、10歳の時に手に入りました」
「なんでや!? ……ウチの魔法といい、あんたホンマ変態やな!!」
「ボクは変態じゃないです!」
「あーはいはい」
苦し紛れに反論するが、手をひらひらさせたシズカにてきとうにあしらわれてしまった。
認めない。
絶対に、ボクは変態なんて認めない!!
心に闘志を燃やすが、称号が出現している手前、もう手遅れである。
「普通な、魔法に抵抗なんて絶対出来へんのやで? ウチかて耐性ない魔法使われたら、防御に特化しとる神代宝具使わな抵抗なんて出来へん。それを、無抵抗の状態から耐性を手に入れるぅ言うんは人外。というか変態。ウチの想像すら超えとるわ」
「はぁ……」
結局変態にされるのか。
アルトはがくっと肩を落とした。
「あんたぁ、えらい無自覚やなぁ?」
「それがどれくらい凄いとか、よく判りませんし……」
「猫に小判やなぁ」
「スキルも道具と同じですよ。使えるならそれで十分です」
強い強くない。凄い凄くないはどうでも良い。
強くなくても、凄くなくても、発動することに意味のあるスキルもあるし、強くても凄くても、デメリットの多いスキルもある。
ようは、どこでどういうふうに使うか。
その道具をどう上手く用いるかがプレイヤースキルの見せ所なのだ。
ただし死にスキルは除く……。
「使えれば良いか。よぅ言うなぁ。一体先人達がどれほど苦労をしてそのスキルを取得しようとして、終に出来ずに死んでいったことか」
口にしているのは文句や説教などではなく、単に胸の内の吐露なのだろう。シズカはブツブツと呟きながらも、アルトたちが倒した善魔の鎧に視線が釘付けになっている。
「魔石は?」
「回収しましたが……」
排出された核――魔石はすでにルゥが回収している。
魔石は蒼と黒が混在する、アルトの拳よりかなり小さいものだった。
強敵を倒したにしては小さい魔石。中身は空っぽなようでいて、なにかが詰まっているようにも感じられる。
明らかに普通の魔石とは趣が違うものだった。
「お渡ししたほうが?」
「ええ。見たら割りそうや」
それはまずい!
魔石を砕かれると中のエネルギィが暴走して爆発を引き起こす。
爆発の大きさは、魔石のサイズに比例する。
もし善魔の魔石を砕いたのであれば、ユーフォニアに現われた善魔の自爆ほどの爆発が引き起こされるかもしれない。
彼女には絶対、あの魔石を見せないようにしよう。
そうアルトは心に硬く誓った。
「で、これが敵さん本体か」
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