第248話 たまには俺を信じろよ

 慌ててアルトは〈攻性防壁〉を中止。

 まさかここまで魔術に対しての抵抗力が高いとは……。


 ☆が増えた現在の魔術でも、ダメージが目に見えない。

 これを倒せる人間などいないのではないか?

 そう錯覚してしまう。


 だが、アルトは一度善魔を倒している。

 善魔は不死身ではない。

 絶対に倒せる。

 そう、自分に言い聞かせる。


 リオンからヘイトを奪ったマギカが、超速で攻撃を繰り出している。

 前回とは違い、タイミングや相手の反応を見計らって、攻撃の展開を右左使い分けている。

 そのおかげで無理な体勢から攻撃を仕掛けることがなくなり、攻防のバランスがより一層高まっている。


 ただ、マギカの攻撃でも鎧はびくともしない。

 中身が入っていないのか、鉄拳で打ち抜く度にカンカンと耳の奥に突き刺さる音が響き渡る。


「――ぷはぁ!! 死ぬかと思った!!」


 てっきり死んだかと思ったが。

 やはりリオン。死ななきゃ安いを地で行っている。


「マギカ! 前衛をリオンさんに変更」

「うい」

「リオンさん! 盾以外で絶対に1撃も食らわないように。無理に攻撃しようとせず、防御と挑発に徹してください」

「了解! あとは任せた!!」

「はい。任されました」


 リオンが〈挑発〉を開始。

 僅かなタイムラグがあって、善魔のターゲットが変更。

 目のない顔をリオンにすぅっと向けた。


 振り返り様に一閃。

 恐るべき速度でリオンの盾をポールアクスが打ち抜く。


 その衝撃に圧され、リオンの体が後方にずれた。

 だがそれをアルトが〈ハック〉でフォローする。


 あまり強く支えると、リオンのダメージが増加する。

 かなり際どい調整をしつつ反対側、善魔の足下を軽く滑らせて衝撃を分散させる。


 リオンを攻撃した善魔は、若干ポールアクスの刃が欠けた程度で、本体がダメージを受けたようには見えない。 

 ダメージ反射の盾を恐るべき力で殴りつけたというのに……。

 なんという堅さだ!


 1撃目でしばらく沈んだリオンだったが、アルトのフォローもあり2撃目はなんとか持ちこたえられた。

 だがその腕への衝撃までは和らげられなかったらしい。


 1発食らっただけで、腕がだらんと垂れ下がってしまった。

 折れたか、外れたか。

 あのダメージが回復するまでに、どれくらい時間がかかる!?


 ダメだ。

 次が、間に合わない!


 盾を下げたままのリオンに、善魔が〈斬り返し〉。


 危ういタイミングで、アルトは〈ハック〉でリオンの背中を押す。

 同時にマギカが〈振動撃〉を用いて善魔の体勢を崩した。


 ポールアクスの先端がリオンの頭を掠め地面を抉る。

 彼の髪の毛が数髪宙を舞った。


「……くっそ、なんて馬鹿力だ!」


 悪態をつきつつ、リオンは善魔から距離を取る。

 その間に腕が徐々に回復しているのだろう。少しずつ盾が持ち上がってきた。


 この調子だと、いつかリオンが崩れる。

 そうならないようにするには、どうすれば良い?


「師匠!」


 考えているアルトの耳に、リオンの声が飛び込んだ。


「俺に任せろ」

「……けど」

「いいから」

「……」

「たまには勇者おれを信じろよ」

「…………わかりました」


 なにか思惑があるのか、それともただの気合いか。

 リオンの考えが読めないアルトには、ただの強がりのように聞こえてしまう。


 だが、信じろと言われた手前、信じぬわけにはいかなかった。


 善魔がリオンを狙い、攻撃を繰り出す。

 その攻撃を躱せないリオンは盾で防ぎ、衝撃を逃がすように後方に離脱。


 善魔の隙にアルトが魔術を、マギカが拳を打ち込む。


 しかし、やはり少しもダメージが通らない。おまけにリオンが回復するまでの時間稼ぎにもならない。


 ステータスが異常だ。

 ……いや、ステータスなのか?


 ひとつ疑問を覚えると、次から次へと芋づる式に謎が浮かび上がってくる。


 まず、前回の善魔と形式が違うのは何故だ?

 武器は同じだが、鎧がまったく違う。前回は白一色だったのに、今回は金の彩色が施されている。


 次に、まるでダメージが入ったように見えないのは何故だ?

 善魔の格が違うとはいえ、こちらもレベルアップしている。ステータスが向上し、宝具だけでなくドラゴンの武器をも用いている。なのに、ダメージが入る気配すら感じない。


 最後に……、あの音はなんだ?

 前回は攻撃をしてもまったく音が響かなかった。


 考えているあいだにも、じわりじわりとリオンが追い詰められていく。

 リオンは攻撃に対処できず、ひたすら受けては下がり、腕が治るまで逃げるを繰り返している。


 攻撃もまったく駄目。マギカの顔には焦りと苦悶さえ浮かんでいる。

 全力で堅い鎧を殴っているからだろう。その鉄拳の隙間から血がしたたり落ちている。


 アルトは鎧の隙間を縫って内部で魔術を炸裂させる。だがそれもノーダメージ。

 前回ならば少しはダメージを与える攻撃だった。おそらく、ダメージが入ったからこそアルトはヘイトを稼いだのだ。

 だが今回はまったくヘイトを稼げない。全力で爆裂魔法を用いてもダメだ。


 つまり、この善魔は前回とは根本が違うのだ。


 なんだ?

 何が違う?

 考えろ。

 違和感から答えを導き出せ!!


 必死に思考を回転させる。

 もう少し……。

 あと1ピースあれば掴める気がする。


 だがアルトがその1欠片を手に入れる前に、

 ポールアクスがリオンの盾を直撃。

 即座に反転したアクスが亜音速で彼に迫る。


「リオンさん!!」


 思考を中断。

 すぐさまリオンをフォローする。

 だが、間に合わない。


 既にポールアクスはリオンの腹部に迫っていて、アルトの〈ハック〉ではどうすることも出来ない。


 リオンが崩れれば、おそらく事態は悪い方へと一気に転がり落ちるだろう。

 それほどまでに彼の存在はこの場において、勝敗を決するほど大きな存在だった。


 ……いや、それだけじゃない。

 アルトにとっても彼は……。


 後ろからマギカが賢明に〈振動撃〉を与えているが、もう遅い。


 リオン――!!

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