第241話 根暗な神様
「子作りに励んどるか?」
「は!?」
なんやて!?
シズカの球がいきなりの暴投。
かなり慌てるが、すぐに冷静になる。
「一体誰と子作りするっていうんですか」
そんな奴はどこにも――。
「マギカがおるやん? 仲よぅやっとるんやろ?」
「してません!」
「ならどないしてんのん?」
「なにも。普通の仲間ですよ」
「ふぅん。おもろないなぁ」
いや、面白いとかどうとか、そういう話じゃないと思うが……。
ずんと重くなった頭を抑え、アルトはため息を吐き出した。
「最近、どないや?」
「なにもしてません」
「気配、感じとるんやろ?」
「…………」
「あれは、ウチもかかったで。えっらい、あんたらのこと無視させようとしてきてん。振り切るまでにえらい時間がかかったわぁ」
彼女が口にした“気配”という言葉。
それがアルトの記憶に直結する。
「あの気配は、一体なんなんですか? スキルで追おうとしても、すぐに消えてしまうんです」
「追おうとした時点で、解呪しとるからやな」
「解呪……」
「あんたぁ、ウチと最初に戦ったとき、〈概念耐性〉ついとったやろ? それであっさり振り払えんねん。せやけど、ウチは魔法は使えるんやけど、〈概念耐性〉がないねん。せやから呪を振り切れん」
「〈概念耐性〉っていうことは、その呪いはもしかして――」
「魔法やで。それも、とびきりのな」
アルトの体の温度がすぅっと低下していく。
つまり、いままで知らないあいだに魔法攻撃を受けていたということになる。
「でも、誰が?」
「邪神に決まっとるやろ」
「……ッ! なんで、邪神が」
突如飛び出した邪神という言葉に、アルトの全身の毛が逆立った。
「ウチとあんたらが、交わるのがえらい都合悪いんやろ。相手は魔法で悪ぅ気分にさして、ウチらが分離するんを狙っとるんよ。きっとマギカもリオンも、魔法に掛けられとったで」
「じゃあ――」
「大丈夫や。あんたの近くにおるってことは、ちゃぁんと振り払ったいうことやから、安心し」
その言葉を聞いて、アルトはほっと胸をなで下ろす。
初めてシズカに出逢ったときに、彼女がアルトたちに魔法を使ったのは、この妨害を予測していたからか。
魔法の行使で耐性が付けば、邪神の魔法に抵抗できる。
悪意を振り払う力が身につく。
「ありがとうございました」
「へ? なにがや?」
「まず手合わせする前に、わざわざ魔法を使ってくれたんですよね? 邪神の魔法への抵抗力を高めるために」
「……ん? う、うう、ウチは天皇やからな。当然やろ!」
そう軽く胸を張るシズカは、内心震えていた。
やばい! なんかアルト、勘違いしとる!!
アルトたちに魔法を使ったのは、ただの小手調べだったし、それで3人が魔法に抵抗出来なかったら相手にするつもりもなかった。
万が一魔法に抵抗されても、マギカ以外に稽古を付けはしなかっただろう。適当な理由をでっち上げて追い返したに決まっている。
だがアルトが魔法を予想外の形で回避したものだから、シズカはムキになってしまった。
生意気な小僧め! 目に物みせてやる!!
そうして感情のまま暴れまくって現在、ずるずるとその関係を引きずっている。
まるでダメな恋愛のようである。
そんなこと、口が裂けても言えへん!
言ったら、こいつアカン奴や思われるぅ!!
シズカは表情を努めて消す。
まるで、すべてお見通しだというように、ゆっくりとお茶に口を付ける。
だが良くみれば、その手が小刻みに震えているのが判っただろう。
「一つ伺ってもよろしいですか?」
アッカーン!!
裏のシズカは叫び声を上げるが、しかし表のシズカはすましたまま軽く顎を引いた。
「シズカさんの強さの秘密は、ステータスにあるんですか?」
「……さてなぁ。隠す気ぃはあらへんけど、それをウチから聞いてもつまらんやろ?」
嘘だ。
シズカは隠す気まんまんである。
むしろ、彼の言葉は半分正解しているようなものだ。
シズカの強さはギフト〈発剄〉にある
〈発剄〉はスキルの威力やキレを数段階引き上げるギフトで、神代戦争前、アマノメヒトから直接頂いたものである。
ギフト〈発剄〉は熟練を3割増強する。熟練度MAXだと+30ほど上乗せされる計算になる。非常に狡いギフトである。
いままで偉そうなことを口にしてた奴がギフトの力に頼っていたと知れれば、どう思われるか……。
「たしかに、その通りですね」
アルトは僅かに微笑を湛える。
まさか……彼はもう気づいているのではないだろうか?
アルトの笑みを見て、シズカは薄ら寒いものを感じた。
その上で、『あんたズルしとってええ気分やろな? けど、お天道様(アマノメヒト)はちゃぁんと見てんで?』と思っているかもしれない。
まずい。アマノメヒトに彼らを虐めていると勘違いされたら、非常に不味い!
自分の使徒がそんなことしてると知ったら、
『いいもんいいもん。どうせ私は使徒の人選が下手な根暗な神だもん』と言いながら、岩戸に引きこもり、中が蒸し暑いからと温泉をきゅっと締めてしまうかもしれない!!
過去、彼女が後ろ向きになったとき、いったいどれほどの時間をかけて岩戸の前で彼女を説得し続けたか。
彼女の負の雰囲気に飲まれて、何人の宮中女官が根暗になり家に引きこもってしまったか……。
温泉は止まるわ宮中女官のあらかたが休暇を取るわ、天は荒れ地は痩せ火山が活発に活動し……ついにすべての民が根暗になってしまった!!
千年以上も前の話なのに、いまだに民のヒソヒソ話の練度が高い。
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