第242話 イベント発生?
あのボソボソとしたしゃべり方を聞いてると、まるで自分が悪口を言われてるように思えて、気分がずーんと沈んでしまうではないか。
まったく、アマノメヒトの根暗は恐ろしい。
内心怯えるシズカとは裏腹に、アルトはかなり困惑していた。
アルトはシズカのステータスが異常に高いという話をしたつもりだった。
だが、彼女はそれを聞いてもつまらないと言った。
つまりそれは、ステータスの高さ以外に別のなにかが彼女に存在するということを意味している。
まさか、アルトたちを上回る高スペックなステータスの上に、さらに秘められた力があるのか!?
それが一体なんなのか、いままでの戦闘ではまるで影すら掴めていない。
これに勝てって?
馬鹿馬鹿しい。
そう思ってしまう。
彼女の強さがあれば、神だって打倒できるのではないかとさえ思える。
その彼女が最初に口にした言葉。
『最低でもウチを倒せへんのやったら、あんたの敵さんはだぁれも倒せへんで?』
ハンナを助けるとき、最低でもシズカクラスが相手になる。
神を打倒できるレベルの……。
いや、それは間違いなのかもしれない。
神さえ倒す力がなければ、英雄の死を覆すことが出来ないのだろう。
英雄が死ぬ運命とは、それほど大きな壁なのだ。
だが、アルトは絶望しない。
膝を折らない。
足を止めない。
常に前を見続けている。
いままで散々壁にぶち当たってきて、それでもなんとか立ち上がって泥臭く這い上がってきた。
飛び越えられないハードルがあれば、下をくぐり抜けた。
登れない山があるなら、その横をすり抜けた。
周りが壁で囲まれているなら、壁を壊してきた。
あらゆる理不尽を乗り越えるために、アルトはもう一度この世界に舞い戻ってきたのだ。
人の外れた道を歩く。
そのギフトを授かって……。
面白い。
やってやろうじゃないか!
「ふふふ……」
アルトの口から自然と笑いが漏れた。
その音を聞き、シズカが肩を僅かに振るわせる。
な、なんでこいついきなり笑い出しとんねん!?
頭おかしいんとちゃうか!?
困惑したが、すぐに持ち直す。
ここで引けば、天静(アマノシズカ)の名が廃る。
ましてはいまは相手と戦っている最中である。
たとえ訳が分からない勝負であろうと、なに一つ負けるわけにはいかない!!
「くくく……」
アルトに負けじとシズカも笑い声を上げる。
「ふふふ……」
「くくく……」
店の外で一種異様な雰囲気を放出しはじめる。
通行人達は、決して2人に視線を合わせようとはせず、足早に店の前から立ち去っていく。
お茶を飲もうと店に足を向けた客も、2人を見た瞬間に表情を凍り付かせて立ち去った。
もう、帰ってくれないだろうか?
そんな2人を背後から見つめる店主が、会計台に突っ伏した。
□ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □
茶屋でシズカに会った翌日。
レベリングに行こうと皆が集ったときだった。
「おやっさん。ホクトが堕ちた!!」
突如宿に飛び込んできた東都っ子がただならぬ気配で怒鳴った。
「てやんでぇ!?」
「嘘じゃねぇや! 魔物が大量に押し寄せたって話だぜ!」
「魔物か……」
「こうしちゃいられねぇ。俺っちは他の店にも触れ回るから、逃げる準備なり戦う準備なりしといれくれよ!」
「おうよ! 済まねぇな」
「お互い様だろ? いいってことよ!」
チャキチャキの東都っ子弁でサクサク会話をし、男は素早く宿を飛び出していった。
ホクトは、日那州国の北にある州都で、もっとも人口が少ない都市だ。
日那州国は地続きではなく、島ごとに州都が別れている。
東西南北それぞれに都があり、その北がホクト、東がトウヤという具合に州都が存在している。
その北が魔物に落とされた?
迷宮はトウヤにあるのみ。
地上部の魔物はレベルが3~20と開きはあるが、武士が対処できないレベルではない。
ならば何故ホクトは堕ちたのだろうか?
「なあ師匠。これってもしかして、救国イベントじゃねえか!?」
ワクワクするようにリオンはアルトにぐっと迫る。
行こう!早く!ほら!
目を見ているだけで、そんな声が聞こえてくるようである。
前回この国でそんなイベントは起っていない。
アルトが知らないあいだに対処してしまったか。あるいは、シズカが言ってた邪神の力か……。
どうするべきか。
情報を探りたくとも、ここにアヌトリアの密偵はいない。
自分の力だけで、なんとかするしかない。
ちらりマギカを伺う。
彼女はいつもと同じ平然とした顔をしている。耳は小さな音も逃さないというふうにヒョコヒョコ動き回っているし、尻尾の揺れは緊張しているみたいにやや硬い。
なにを考えているかはわからないが、リオンと違ってイベントに乗り気ではないらしい。
「ちょっと、状況を見極めましょうか」
「えぇえ。なんでだよ?」
「日那が対処できるレベルかもしれませんから。無理に手を出すと、かえって武士の邪魔になるかもしれませんしね」
「折角勇者として名を馳せるチャンスだってのに!」
うぐぐぐ、とリオンがうなり声を上げる。
「別に邪魔にならねぇよ」
アルトたちの話し声が聞こえていたのだろう。カウンターから宿の主人が話しに割って入ってきた。
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