第235話 湧き上がる闘志
……ん?
ここへきてシズカは妙な違和感を覚えた。
なにかが足りない?
気づいた瞬間、シズカはその場を全力で退避していた。
「――ありゃ、ダメだったか」
離脱したシズカの視線の先。
元いた場所に、アルトの短剣が突き刺さっていた。
コンマ1秒でも退避が遅れていれば、きっとシズカの体にあの短剣が突き刺さっていたことだろう。
「あんたウチを殺す気か!?」
「え? いや、殺すつもりはありませんけど」
「そない武器で攻撃されたらウチかて死ぬわ!アホー!!」
腹が立って涙が出てくる。
アルトという男の短剣は恐ろしいほどの潜在力を秘めている。
おそらく品質は神代宝具と同様かもしれない。
しかし、真に恐ろしいのは威力ではない。
そこに込められた念(おもい)だ。
強すぎる念は魔法に化ける。
いまはまだ純粋な念。それがこのあとどう変化するか。
彼はどうそれを変化させるつもりなのか。
「――ぬわっぷ!!」
突如目の前に広がった熱魔術を、全力の〈打(ちよう)擲(ちやく)〉で打ち砕く。
手応えが硬い。前回とはまるで違う魔力。籠められたマナの量。
当たればタダですまないだろう魔術を、シズカは初めて両手を使って打ち砕いた。
「……おお、怖い怖い」
軽口を叩くが体の芯が冷えてしまった。
本当に危ないところだった。余裕を見せていれば、間違いなく攻撃が当たっていただろう。それで負けはしなかっただろうが……。
しばらくは、無敵のシズカ様を演じていたい。
ボコボコにした彼らの目の前でしゃなりしゃなり格好をつけたい。
どや顔をしたい!!
だからまだダメだ。
まだ傷を負ってはいけない。
シズカはただ自分の願望のためだけに気を引き締め直した。
さてしかし、彼の魔術はなぜここまで強力になったのだろう?
前回は力を抑えていたのか?
とてもひと月で増える量ではなかったが……。
まさか人理を突破し、神の領域に足を踏み入れたシズカの魔力と拮抗するとは思いも寄らなかった。
(彼は……もうすぐか?)
アルトの中で変化を見せた“違和感”に気づき、シズカの眉が僅かに動いた。
彼は既に、己の限界を突破する方法を見つけている。
そしてその先――神に臨むことすらも……。
まだまだ時間はかかる。
だがアルトならば確実に、力の頂に到達出来るはずだ。
(はあ……。教えなくても育つ子は、可愛げがないなぁ)
出来が良すぎる子とは打って変わって、リオンとマギカの可愛いこと。
ただ、このままではいずれアルトの背中を見失うだろう。
そうなる前に、全力で指導してあげよう。
――悲願成就のそのために。
シズカはニマッと笑顔になり、鉄線を突きつける。
「二人とも、もっとしゃんとせなあかんで?」
□ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □
ひと月たっても、アルトたちは結局シズカに指一本触れることさえ出来なかった。
ただ、手応えはあった。
アルトの攻撃が、何度かシズカに触れそうになった。そこで彼女も、僅かに本気を出したように見えた。
やはりというべきか、これでもダメなんだと強く思う。
【名前】アルト 【Lv】13→99 【存在力】☆☆☆
【職業】工作員 【天賦】創造 【Pt】0
【筋力】260→1960 【体力】182→1386
【敏捷】130→990 【魔力】1040→7920
【精神力】910→6930 【知力】467→3554
レベルがカンストしていても足りない相手に、どう立ち向かえば良いのやら……。
もう一度、存在力が上げられればいいのだが、狙って出来るものではないようだ。
カンストしてから何度か同じ方法を試してみたが、☆は上がらずじまい。
個人個人に☆の上限があるのか、あるいは☆を上げるためのキーがあるのか。
いずれにせよ、一旦レベリングは終了。
ここからは熟練上げをメインに進めていく他ない。
おそらくシズカは、存在力☆5で、かつレベルも熟練も上限に近い値まで成長しているに違いない。
そんな相手に、どうやって勝てば良いのやら……。
未知の領域に怯えると同時に、アルトの中に見知った感情がこみ上げる。
ここが、スタートだ。
やっと僕は、次のスタート地点に立つことが出来たんだ。
充足と熱情が入り乱れ、アルトの背中を押す。
とはいえ、シズカにボコボコにされた直後。アルトはまだ動けない。
この体が癒えたら、すぐにでも熟練上げにとりかかろう。
シズカの修行を終えたあと、自分はなにが出来るようになるか。
いまから楽しみだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます