第233話 あたらしい……なかま?
とにかく、レベルは上がった。
この状態をどうするかは、後々考えよう。
「それじゃ、レベリングに行きましょうか」
「おー!」
「ん」
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日那にある迷宮の中で戦う3人の姿を、遠くからヴェルは眺めていた。
一体彼らはなにをしているのだろう?
龍鱗系魔物を見たとき、ヴェルはあの3人が死んだと思った。それほどまでに、あの魔物はヴェルの目からはずば抜けて強い存在だった。
こんなところでレベル上げをするなんて、正気の沙汰じゃない。
おそらくヴェルとガミジン、それにオリアスと宝具を発動しているシトリーを入れて、初めて負けない状態になる。
相手が1匹だけなら、きっと簡単だ。全力攻撃のごり押しで勝利出来る。
しかし、何匹もの魔物と連続で戦うとなると話は別だ。
ユーフォニア12将が全員揃っても、地上に逃げ出すので精一杯に違いない。
そもそもレベルを上げて何になる?
結局、なにも変わらない。
現状国は安定しているし、周辺国では紛争もない。
戦うべき相手がおらず、ましてや力を示す場所さえもうない。
つまり、命を賭けてまでレベルを上げる意味などないのだ。
もしここにアルトがいなければ、ヴェルはこんな迷宮からさっさと退散していただろう。
アルトの近くにいるのは、あのとき彼が見せた瞳の意味が、一瞬の光が、煌めきが、理解出来るようになるかもしれないと思ったからだ。
しかし、暫く観察を続けているが、成果はさっぱりだ。
手を伸ばせば伸ばしただけ遠ざかってしまう幻みたいに、観察したとたんに、彼の姿が見えなくなっていく。
ならば、もう少し近づいた方が良いかも知れない。
決して彼が逃げられない場所で、誤魔化しようがないほど近くで。
そうして気配を消しながら、ヴェルはまるで散歩をしていたついでに偶々出逢ってしまったかのような偶然を装って、3人に近づいていった。
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「なんでアンタがここにいるんだ!!」
ヴェルの姿が現れた途端に、狩りそっちのけでリオンの目が真上へとつり上がった。
「ぼく、おにーちゃんといっしょがいいのー」
「師匠を殺そうとしたような奴を傍に置いとけるはずないだろ」
「だいじょぶー。ぶきはもってないよー」
そう言うとヴェルは、『ね? おにーちゃん!』と言わんばかりにはにかんだ。
少女にはにかまれれば、誰だってにへらぁとしてしまうだろう。だがアルトの顔は引きつった。
無毒を装うアサシン(幼女)が怖くないわけがない。
「なんでヴェルはここに来たの?」
「おにーちゃんに付いて来たかったからー」
「付いて来てどうするの?」
「どうもしないよー。見てるだけー」
「んん……?」
何故見ていたいのか、さっぱりだ。
だが見てるだけなら、良いのか?
本当に見てるだけなら……。
見たところ殺意はない。
ただ見たいから。それだけで、態々命を賭けてこの場所まで来るだろうか?
どう考えても、裏があるようにしか思えない。
「……死ぬかもしれないんだよ?」
「死なないよー。おにーちゃんがいるから、だいじょーぶ!」
それはアルトを信頼しているというよりも、なにかあればアルトたちを囮にしてでも逃げるから問題ないよ、という台詞に聞こえる。
「なにかあったら、すぐに外に放り出すからね?」
「んー。わかったー」
「ちょ、ちょっと師匠。なんでこいつをすぐに追い払わないんだよ?」
アルトが許可すると、やはりリオンが噛みついた。
「なら、モブ男さんが追い払ってください」
「え…………と」
「無理ですよね?」
「…………っぐ」
そう、無理なのだ。
熟練の高さを思うと、この場でヴェルを追い払える人がいない。
いや、辛うじてマギカはヴェルを捕まえられるかもしれない。
だがいまのマギカは、ダメだ。
ゆったりと尻尾を動かしながら、小さな胸を張ってすまし顔をしている。
まるで、私はお姉さん!と言うみたいに耳までシャンとしている。
どうも、マギカはヴェルに対して相通ずるものを感じてしまったらしい。
どこが通じているのかは……本人の名誉のために秘匿情報とする。
「だぁぁぁぁぁ! こんなんじゃ狩りになねぇ!!」
「リオン、ステイ」
「マギカも、いいのか!? 部外者が――それも凶悪犯がパーティに混入するんだぜ!?」
「いい。もしなにかあれば、力尽くで」
そう言って、マギカが無表情のままヴェルを眺めた。
その視線に、多少の殺気が籠もっていたのか、ヴェルは途端に真顔になる。
二人の気配をどう感じたものか、渋々といった様子でリオンが折れた。
「…………はあ、しゃーねえな。そいつのことは、マギカに任せるからな?」
「ん。任された」
ひとまず、ヴェル出現事件はこれにて一件落着。
ようやっと狩りに戻れる。
「それじゃ、魔物を呼び寄せますね」
「おっしゃ、どんと来い!」
「ん」
リオンはすべての魔物を引き寄せるかのように気合いを入れ、マギカはすべての魔物をなぎ払うと言わんばかりに頷いた。
「ヴェルは大丈夫?」
「だいじょぶー」
彼女はぴょーん、と飛び上がるように手を上げた。
……本当に大丈夫だろうか?
あまり自覚はなさそうだ。
ひとまず、気合い十分。
アルトは魔物寄せのお香を焚き、風魔術で周囲にお香を拡散させた。
「ヒエッ!」
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