第232話 まさかのレベルアップ
皇帝への定期報告を終えて、アルトはゆっくりと瞼を閉じる。
深呼吸をしながら気持ちを落ち着け、全身から一気にマナを放出した。
「――――ッ!!」
途端に広がった知覚がアルトの脳を締め付ける。
ダメか?
――いや、まだだ!!
異常なまでに体からマナが吸い取られていく。
頭の中に流れ込んでくるのは迷宮の罠。
設置した〈グレイブ〉、〈マイン〉。
アルトは龍鱗の迷宮で、いくつもの〈グレイブ〉と〈マイン〉をスタンバイさせておいた。
常駐させていたそれを発動させたのだが、あまりに負荷が強すぎた。
一体いくつ設置しただろう?
1万? 2万?
それらすべての〈罠〉が魔物に反応して、次々と発動していく。
一気に頭が過熱し、目の奥がチカチカする。
激しい脳の痛みに息を吸う事さえできない。
さらに、奥歯の神経を爪でひっかくような、耐えきれない激痛が体中を駆け抜ける。
痛い痛い痛い痛い!!
どうにかして落ち着ける場所を探すが、どこにどう体を置いても痛みは落ち着かない。
がはっ、と息を吐くと同時に口の中から粘性のなにかが漏れた。けれどそれを確認することはできない。
頭の中から外側に向かって激痛が走り、とてもじゃないが目を開けられない。
体は熱いのに、汗はとても冷たい。
体からマナが抜けているからか、それとも生命力が失われているのか。指先から心臓に向かって冷たさが浸食していく。
せめて、ステータスを……。
ブレスレットを掲げ、アルトがステータスを開くより早く、彼の意識は鈍い音を立てて千切れた。
□ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □
アルトが目を覚ましたのは、夜半も過ぎた頃だった。
目をうっすら開け、まだ残痛のある頭に顔をしかめる。
よほど酷い苦痛を味わったのだろう。綺麗に敷き詰めたはずの敷物が大きく乱れてしまっている。そこかしこに血の混じった汚物が飛び散っていた。
同伴していただろう、ルゥがテーブルの上でアルトをじっと伺っている。
眠っているのかと思ったけれど、アルトの視線を受けてルゥが少しだけ体をゆすった。
……大丈夫?
「うん。心配かけてごめんね」
そう言うと、ルゥが勢いよくこちらに飛び込んできた。まるで親の無事を喜ぶ子どものように。
自分が汚れるのも厭わず、ルゥはアルトの腹に頭をスリスリとこすりつける。
涙は出ないけれど、ルゥが安堵して泣いている。
ルゥの態度にアルトは目頭が熱くなり、奥歯を噛みしめた。
本当に、ごめんね。
ルゥを優しく抱きしめて、その背中らしき曲線をゆっくりと何度も撫でた。
ルゥが落ち着いた頃、アルトは自分のステータスを表示。
そこに書かれたレベルを確認。
「…………え?」
翌日、アルトが食堂に向かうと、すでにリオンとマギカが朝食を取っていた。
「おはよう師匠。今日は卵焼きだぜ」
「ん」
リオンは朝食のおかずを紹介しながら卵焼きの下にあるレタスを頬張り、マギカは軽く頷いて挨拶を済ませる。
その2人に会釈をしながらも、しかしアルトはどこか魂が抜けたような表情で座席に座る。
卵焼きを口に含み、ステータスをオープン。
……やはり。
昨晩見た数値と同じ値が出てくるステータスを見て、アルトはこれが己の見間違いでないことを確信した。
【名前】アルト 【Lv】63→13 【存在力】☆☆→☆☆☆
【職業】工作員 【天賦】創造 【Pt】0
【筋力】1049→260 【体力】712→182
【敏捷】521→130 【魔力】3909→1040
【精神力】2644→910 【知力】1812→467
【パッシブ】
・身体操作60/100 ・体力回復58/100
・魔力操作76→80/100 ・魔力回復70→71/100
・剣術53/100 ・体術40/100
・気配遮断27/100 ・気配察知53/100
・回避55/100 ・空腹耐性64/100
・重耐性59/100 ・工作77/100
・並列思考5/100
【アクティブ】
・熱魔術51→60/100 ・水魔術50→60/100
・風魔術49→60/100 ・土魔術49→60/100
・忍び足16/100 ・解体7/100
・鑑定 31/100
【天賦スキル】
・グレイブLv4→5 ・ハックLv4→5
・マインLv4→5 ・格差耐性
・即死耐性
レベルをカンストさせるつもりだったが、カンストを飛び越えて格が上がり、レベルが巻き戻っている。
「ちょっと意味がわからない……」
こんなこと、あり得るのか?
いや、実際に自分の身に起ったのだから、あり得るのだろう。
だが前回はどれだけレベリングをしたところで、レベル99までしか上がらなかった。
今と前との違いは、なんだ?
(一度に得られる経験値の違いかな?)
(うーん、さっぱりわからない)
「どうしたんだよ師匠」
アルトの雰囲気の変化にめざとく気づいたリオンが、じろっとアルトを睨み付ける。
どうせまたろくでもないことを考えているんでしょ? という視線だ。
ろくでもないことは、考えていない。
ろくでもないことが起こっただけだ。
とはいえそれを口にすることは憚られる。
1晩で存在力が上がってレベルが下がったなんて言ったら、どんな騒動が巻き起こるか、想像するだけでもちょっと怖い。
リオンとマギカの反応が怖いので、アルトは己のステータスをひた隠しにした。
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