第230話 魔石の処遇

 本日より新作『√悪役貴族』を連載いたします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073924334138/episodes/16818093073924434996

 どうぞ宜しくお願いいたします!




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 さきほどは、酷い目にあった。

 まさかヴェルがここに来るとは、アルトは夢にも思わなかった。


 しかも彼女には一切の殺意がなかった。

 彼女が自分に対して殺意がないのは喜ばしいことだ。

 もしお礼参りだったらまた、紙一重の戦いが待っていただろう。


 では、何故彼女はアルトの目の前に現われたのか?

 いくら考えてもアルトには判らない。


 ひとまず、このことはマギカやリオンにも報告したほうが良いだろう。

 風呂場での出逢いはなかったことにして……。




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




 大陸の市場には肉や果物、パンなどが主に取りそろえられていたが、日那州国は米や魚、根菜が主流だ。


 この国の食でアルトは特に問題ないが、どうやらルゥは合わないらしい。魚を与えてもあまりぱっとした反応を見せない。

 納豆を目の前にしたときなど、鞄の中に逃げ込んでしまった。


 以前魚を食べさせたときは喜んでいたはずだが……。

 ルゥにとって大陸の魚と日那州国の魚とで、なにか大きな違いがあるのかもしれない。

 あるいはそれはアルトの手料理と旅館の料理の違いか。


 餅や漬物、トバ、それと乾燥肉を1ヶ月分買い漁る。しめて360食分。どう鞄に詰め込んでも5つ分になってしまう。

 1つは背負うとして、残る4つは物陰でルゥに持ってもらった。

 やはり、インベントリはチート。素晴らしい能力だ。


 買い物を終えて、アルトは冒険者ギルドに向かう。

 日那州国の冒険者ギルドはかなり小さい。

 日那は東西南北にある4つの小さな島の合州国。1島あたりの面積が小さいし、冒険者家業を行う者も少ない。

 それでも最低限魔石の流通・精製はしなければいけないので、ユーフォニアの3セク方式ではなく、国の下部組織としてギルドが設置されている。


 龍鱗の迷宮で得た魔石を渡すと、受付嬢がふわぁ……と気の抜けた息を吐き出した。


「これ、全部ですか?」

「はい」

「……失礼ですが、盗品の買い取りは行っておりません」


 本当に失礼だな。


「盗品ではありませんよ。東にある龍鱗の迷宮で得たものです」

「……はぁ」


 どうも信じてもらえないらしい。


 キノトグリスでだって、初めは(受付はリオンだった)マギカが倒したと言わなければ買い取りしてもらえる雰囲気ではなかった。

 その後は、おそらくリオン騒動があったため下層の魔石を買い取ってくれたが、通常ならば子どもが大量の魔石を持ってきても、自分で採取したものだとは思わないものだ。


 折角階位が上がったのに。

 そう思うが、フォルテルニアの魔法は、想定内の偉業しか許さない。

 一般兵如きでは決して龍鱗の迷宮に太刀打ち出来ないので仕方がない。


 失敗したな。

 マギカかリオンを連れてくるんだった。


「先日、ここに来る商船が難破したとの連絡を受けております。商船には大量の魔石が積み込まれていたとか。……言いたいことがわかりますね?」


 これ以上突っ込まないから、直ちに姿を消せこの盗人。

 物腰は柔らかいがこの受付嬢、なかなかきわどいことを口にする。


 まいったなぁ……。

 アルトは難しい顔をしながら頭を指先で掻く。

 お金はまだまだあるが、折角ルゥが拾ってくれたも。なるべく魔石は販売しておきたい。

 特に今後、どれだけの魔石が得られるか判らないのだ。


 いきなり1部屋の床を埋め尽くすほど大量に持ち込んでも、ギルドは決して買い取ってくれないだろう。

 かといって魔石をずっと持っていても宝の持ち腐れである。

 それは貨幣でも言えることだが。


 魔石を流通させることは、国を潤すことに繋がる。

 特に島国である日那州国は、魔石エネルギィ問題には常に頭を悩ませているはずだ。


 だったら――。

 アルトはすべての魔石をカウンターに乗せた。


「じゃあ、これはすべて寄付という形で処理してください」

「――は?」

「それなら問題ありませんよね?」

「しかし……盗品ならば受け取りは出来かねます!」

「だったら調べれば良いんじゃないですか?」

「…………」


 アルトの斬り返しで、受付嬢が黙り込む。

 そう、彼女は魔石を無碍に扱えない。もしこれが彼女が言う『難破船からの盗品』ならば、国で流通するはずだった魔石である。

 それが『盗人アルト』が持ち去ってしまえば、本来得られたはずのエネルギィが不足してしまう可能性があるのだ。


「それじゃ、ちゃんと渡しましたからね」


 彼女が口を開く前に、アルトはその場を退散した。

 念のために後を追われないようギルドを出てすぐに〈気配遮断〉を使う。


 ちょっとした義賊のようになってしまったが、魔石を買い取ってくれないのであれば仕方が無い。お金が得られなくても当面生きて行けるだけの手持ちはあるのだ。

 自分では魔石を有効活用出来ないのであれば、たとえお金が貰えなくても手元で腐らせるより彼女達、日那州国に有効活用してもらったほうが何倍もマシである。


(まあ、魔石売却が面倒になっただけなんだけどさ……)



 買い出しを終えて宿に戻り、〈風魔術〉で入念に部屋にロックを掛ける。

 部屋の床に野宿で用いた厚手の布を入念に敷き詰める。


「ステータスオープン」


 一度ステータスを開いて、現状を確認。

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