第212話 無人島からの脱出(?)
いつも拙作をお読みくださいまして誠にありがとうございます。
このたび、『底辺ハンターが【リターン】スキルで現代最強』が、サーガフォレストより出版されました。
また、コミカライズも連載スタートしております!
https://www.123hon.com/nova/web-comic/t_hunter/
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リオンの光が消えたあと、洞窟の薄暗さに目が慣れると、剣を突き刺した態勢で固まるリオンの姿が真っ先に飛び込んできた。
アルトはリオンに、なんと声をかけて良いか判らずただ立ち尽くす。
今世でアルトは、もう18才だ。前世の年齢を合わせれば88才になる。
なのに言葉が思い浮かばない。
こんなとき、どう声をかけて良いのだろう?
なんて言葉を掛けたら、リオンは楽になれるのだろう?
考えるけれど、結局言葉が思い浮かばない。
だからアルトは彼に歩み寄った。
言葉がダメなら、態度で示せば良いんじゃないか。
そんな憶測から、アルトはリオンの頭をそっと抱きかかえた。
普段は傍若無人で人の話などあまり聞かず、勇者勇者と威勢良く口にしている彼が、いまはものすごく小さく感じる。
「くっ……うぐ……!」
これは雨が降っているときに、道行く人々が軒下を借りるようなもの。
雨が止むと、人は軒下を借りたことなんてすっかり忘れて、散り散りになるだろう。
寂しいけれど、人は、そうでなければいけないのだ。
あのゾンビ――リオンの父親が、触れれば死ぬはずの宝具を食らっていて、何故死亡しなかったのかはわからない。
もしかするとその魂が、どうしても死ねない理由を抱えていたのか。あるいは宝具による攻撃が不十分だったのか……。
中途半端に魂が残ってしまったため、ヴァンパイアとして生きる事ができず、かといってその生命力故に死ぬ事も出来なかった。
そして、ゾンビ化した。
ゾンビ化したヴァンパイアは闇属性の死霊種だ。
故に、リオンの《光魔術》の一撃を受け、一瞬にして浄化された。
(もしかして、リオンさんが光の剣で試し切りしていたのは、こうなることを予測していたから……?)
だとしたら、あの頃の彼の心構えに気づけなかった自分が恥ずかしい。
予想外の出来事が一つあった。
死の宣告を受け、ギリギリ回避したことで、アルトは〈即死耐性〉を獲得した。
(これもなにかの縁、なのかな)
きっとリオンの父親は、この耐性をアルトに授けてくれたのだ。
勇者リオンと共に歩む、不幸な隣人への餞に……。
アルトの胸元を涙と鼻水とよだれでベチョベチョにしたリオンは、すっきりした顔で両親の遺骨前に正座した。
ぐちょぐちょな胸元にげんなりしながら、アルトは《水魔術》で洗い流す。
リオンは遺骨を前にして手を合わせ頭を下げる。
アルトも同様に、遺骨に手を合わせた。
(どうか安らかにお眠りください)
祈が終わると、アルトはリオンとともに穴を掘り、骨を埋めた。
外に埋めなくて良いのかと聞いたのだが、
「親父たちが生きてるあいだはずっと、外で酷い目に遭ったからな。たぶん、この中の方が落ち着くはずだ」
そう言って、リオンは父の骨を洞窟の中に優しく埋葬するのだった。
リオンとともに海岸に戻ると、待ちくたびれたようにマギカが尻尾をピンと立ててこちらを睨み付けていた。
空はもうすっかり暗くなっていて、星がその存在を証明するように五月蠅いほどに輝いている。
「そろそろ日那州国に向かいますが、思い残しはありませんか?」
「……向かう?」
マギカが訝しげに首を傾げた。耳が「え?なにそれ?私気になります!!」と言うようにピコピコと動き回っている。
「あ、しまった!! まだこの島をちっとも開拓してねえ!! 師匠、明日から本気出すぞ!!」
「却下。じゃあやり残しはないようなので――」
「あるって言って――んぎゃぁぁぁ!!」
マギカにゲンコツを落とされてリオンが砂浜をごろんごろん転がった。
「ここに来るあいだに適当にイカダを作ったので、これに乗って旅立ちましょう」
そう言って、アルトはイカダMark2を波打ち際に置いた。
「…………適当? アルトの適当って、何?」
「言いたいことは判るぞ。うんうん」
マギカが呆れたように尻尾を垂れ下げ、リオンがどこか満足げに腕を組んで頷いた。
何故そのような反応をされなければいけないのか?
ただ普通のイカダだと破損するかもしれないから、ちょっと頑丈に作っただけなのに。
アルトはむっつりと唇を結ぶ。
アルトが組み立てたMark2は、試作型Mark1を元にして作り直した幅3m、縦8mのイカダだ。
木工技術がないので荒削りだが、切り倒した木々で臍を組み、〈工作〉で強化、変形させて船の形にしたイカダ――というかもう船である。
よく見ると荒さが目立つ作りだが、頑丈さはアルトの折り紙付。たとえどのような岩礁が現われても、ぶつかっただけでは沈まない。
船内底には取っ手と椅子を設置した、アルトにとって自信作だった。
「さすが変態」
「まったくだ」
(木工技術がないのにここまでの作品を仕立て上げたのだから、少しは褒めてもらいたいんだけど……)
「(ぷるぷる)」
(ああ……ルゥさえも……)
アルトの願いは、誰にも聞き届けて貰えそうにない。
イカダという名の船に3人が乗り込むと、アルトは一気にマナを放出する。
《ハック》で一気に船体を動かした。
「おにょぉぉぉぉぉ!?」
「う…………!?」
砲弾のように発進した勢いで、危うくリオンとマギカがその場に取り残されそうになる。
だがアルトが設置した取っ手を掴むことで、2人は船に置いてけぼりにされることを辛うじて防いだ。
うんうん。予想通り役に立って良かった。
2人の様子を見たアルトは満足げに頷いた。
まさに匠の仕事だ!
「っく……なんで取っ手があるのかと思えば!!」
「…………変態に、磨きが、かかってるッ」
だがそんな匠の仕事に一物あるらしい。2人は悔しげに顔を歪めた。
空の星を読みながら、アルトは東へと猛スピードで進んでいく。
途中、波の制御が上手く行かず船体が数秒空を舞ってしまった。
「ぎゃぁぁぁグ――ッ!!」
ガチン!! とどこかから危険な音が聞こえて、リオンの悲鳴が途絶えた。
何があったのかは定かでは無いが、プルプル震えながらも取っ手をしっかり握っているので……大丈夫だろう。
アルトはイカダを猛スピードで走らせ、途中途中、イカダごと空に舞い上がり大海原を眺め回す。
それを数度繰り返すと、ようやくアルトは海の彼方に島のような黒い塊を発見した。
「もうすぐ着きますよ」
「…………」
「…………」
アルトの朗らかな声とは裏腹に、マギカもリオンもおとなしい。
早く行けってことかな?
2人の態度を見てそう察したアルトは、《ハック》を全力で放出して島に向かうのだった。
そうして全力で飛ばした結果、アルト達は夜半ば頃に、日那州国東島へと〝着弾〟したのだった。
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