第174話 ドラゴン?の後始末

「んで師匠、どうすんだよこれ」

「……どうしましょうか?」


 ただの魔物であれば、涙を呑んで狩る。あるいは無理矢理追い払う。

 だが相手はドラゴン。倒せば自然界のバランスが崩れ、かといって無理に追い払っても途中の国境壁や村々を破壊しながら無理矢理付いてくるかもしれない。


 鞄から姿を現わしたルゥが『一緒につれていけないの?』とふやふやする。


(ごめんよルゥ。キミの頼みでもそれは無理なんだ……)

(だって、大きいんだもん)


「仕方ない」


 アルトは心を鬼にしてドラゴンを追い払うことにした。

 しかしドラゴンも頑なで、アルトがどれほど武力を示しても、なかなか引き下がってくれない。


「……本当に、一緒にいけないんだ」

「くぅぅん」

「違うよ。別にキミの事が嫌いなわけじゃない。出来ればキミには、キミの住処の守護をお願いしたいんだ。だから、僕のお願いを聞いてもらえないかな?」

「くぅん」

「え? その変わり名前が欲しいの?

「くぅん……」


 アルトとドラゴンが話しているその後ろで、


  「あの2人――というか1人と1匹。なんか会話が成立してねぇか?」

  「そんなハズありませんわ」


 リオンとシトリーがひそひそと耳打ちをし合っていた。

 それにかまわず、アルトはドラゴンとの対話を進める。


「じゃあキミは今日から、レヴィ。海を統べる龍のレヴィアタンの名前を取って、レヴィだ」

「クンクゥン!!」

「そっか。気に入ってもらえて嬉しいよ」

  「……通じてるように見えますわね」

  「だろ?」

「じゃあ、僕のお願い、聞いてもらえる?」

「…………フゥン」


 心の中で涙を流しながら、アルトはドラゴンに頭を下げる。

 粘り強く説得するうちに、ドラゴンもアルトが自分の事を避けているわけじゃないと判ったのか。渋々、まるで自分の体の一部が切り離されるように、悲痛な声を発しながら、少しずつアルトから遠ざかっていく。


「……自分から惚れさせておいて、最低な男だな」

「最低ですわね」


 惚れたのか腫れたのかなんて、アルトにはわからない。

 だが、相手に好意を持たれたのは事実で、それを振り払った自分は確かに最低だとアルトは思う。


 とはいえ全長10mはあろうかというドラゴンを連れて旅など出来るはずがない。


「……もし近くに寄ったら、必ず会いに行くから! 絶対に!!」

「フゥゥゥゥン!!」


 アルトの声に呼応するように、ドラゴンは一際高い声を発した。

 再会を心待ちにする柔らかい温もりが、空気を伝って広がり、海や街道の風景に染み渡っていった。


 アルトは熱くなった目頭を押さえて、ドラゴンに背を向けた。

 きっとまたどこかで出合えると信じて……。




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これにて2部1章が終了です。

引き続き、底辺魔術士をどうぞ宜しくお願いいたします。

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