第171話 さらばリオン(嘘

2月10日に『最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強』のコミックス1巻が発売となります。

何卒、ご購入の程宜しくお願いいたします!!






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「ししょおおお!!」

「ひぃぃぃ!」


 森の向こうからリオンが現われ、シトリーが続く。

 その後ろから、《危機感知》を刺激するものの正体が、すぐに姿を現わした。


 二人が引き連れて来たのは、4足歩行する巨大な魔物だった。


 大きな顎に堅そうな額。長い尾に、足のように動くヒレ。

 その体高は一般的な家屋の屋根ほどあるように見える。


「一体どこから拾ってきたんですか!?」

「海の中から沸いて出て来たんだよ」

「リ、リオンさんが挑発して魚を引き寄せようっていいましたの。それで引っかかったのがアレですのよ」


 魔物が着くまでに、二人が手早く説明を終えた。

 それほどまでに、二人と魔物との距離が離れていたのだ。


 どうやらあの魔物の足はあまり速くないようだ。

 海の中の生物なので当然といえば当然である。


 むしろ海の中の生物が、陸上でも素早かったら恐怖である。

 そんな海洋生物とは一切お知り合いになりたくない。


「またリオンさんは奇妙な魚を釣――って魚か?」


 魚というよりも、ドラゴンっぽい。


「これは、俺の勝利でいいよな!?」

「ですがあれは魚ではありませんわ!」

「ぷぷっ! 俺がアレを引き上げるまでに、1度も魚が釣れなかったシトリーさんがなんか言ってるぅ!」

「ぐぬぬ!」

「はぁ」


 アルトは額に手を当てる。

 角を突き合わせている場合ではない。


 さて、どうしよう?


「師匠! 今日はあれで飯にしようぜ!!」

「ダメです。棄ててきてください」

「なんでだよ! アレでとびきりの勇者メシ作ってくれよ!」


 結果、焼いただけでおいしい肉をもりもり食べて、ゲロゲロ嘔吐する。

 そんな未来しか見えない。


 ドラゴン系の肉、怖い。

 食べちゃダメ、絶対。


「ドラゴンを倒せば、素材だって手に入るぜ?」

「これ以上、なんの素材が必要なんですか? もう武具を十分作ったじゃないですか」

「う~」

「アルト。わたくしからもお願いしますわ。このドラゴンを倒せば、確実に実力が上がります」

「あ、もうドラゴンで確定なんだ、この魔物」

「違いますの?」

「いや……まあ、他の生き物で当てはまりそうにないですね。うん、ドラゴンでいいや、もう」


 アルトはため息を吐き出した。


「師匠の好きな熟練上げも出来るぜ! だからほら、料理にかかるぞ!!」

「じゃあモブ男さん1人でどうぞ」

「なんで一緒に戦ってくれないんだよ!? 師匠は勇者(おれ)の仲間だろ!!」


 ずいぶん引っかかる言い方だが、突っ込んでいる余裕はない。


「仲間というか、モブ男さんが勝手に僕に付いて来てるだけです」

「ちち、違うから。俺の行く先に師匠がいるんだって。……仲間だろ?」

「それはただの顔見知りの他人です」


「くっ、こうなれば奥の手だ。行くぞシトリー!」

「え? わたくしもですの!?」

「そうだよ! ほら、あいつにアンタの必殺ジャスティス砲を食らわしてやれ!」

「ジャスティス砲……なんですのそれは?」

「いいから、ほら先に攻撃しろ! 力が欲しいんだろ!?」

「わたくしは遊撃が得意ですのよ。あなたなら攻撃に耐えられるんですから、あなたが前に出るべきですわ!!」

「あんな顎に噛まれたら俺でもやばいって!!」


 大物を釣り上げた2人が、喧々ガナリ合って、ガクガク足を振るわせる。

 それを見ながら、アルトははぁ……と再びため息を吐き出した。


(この2人、ほんと緊張感がないなあ)


「し、師匠! なにぼさっとしてんだよ。殺されるぞ!」

「そそ、そうですわよ! あれは危険で危ない魔物ですわ!! 気を引き締めて討伐してくださいまし!!」


 何故アルトが戦うことが前提になっているのだろう?

 釣り上げた人がきっちりリリースしてもらいたい。


「モブ男さんが釣ったんですから、きちんと責任取りましょう」

「なんで!? 師匠は俺を見殺しにする気!?」

「いや……大丈夫だと思いますけど」

「だだ、大丈夫なわけないってば!! 助けろよ!」


 助けて欲しいのならもっと下手に出るべきである。

 泣きそうな顔をしながら命令口調で言われても、助けたい気持ちにはちっともなれない。


 かわいそうだとは思うけど。(主に頭が)


 ただ、アルトは彼を見放したわけではない。

 理由はわからないが、ドラゴンを前にしても、何故か大丈夫だろうと感じていた。


 相手から感じる気配は強烈で、顎に挟まれたらそれこそ、即死の可能性もありそうな見た目であるにも拘わらず、だ。


「ほら、貧乳が前に出ろよ!」

「貧乳じゃありませんわ! ここは脳まで筋肉が詰まっているリオンさんが行くべきですわ!」

「俺の脳は筋肉じゃねぇよ! ってか、アンタが先に行けよ! どうせ骨と皮ばっかで食べられるところがないから、突っ込んでも大丈夫だろ!」

「骨と皮だけじゃありません! そういうリオンさんこそ頭が筋肉ばかりで――」


「あの、お二人さん?」

「――なによ!?」

「――なんですの!?」


 止めに入ったアルトを呪い殺すくらい鋭く睨み付ける二人。

 恐ろしくて次の言葉が出ない。


 けれど、言わなくちゃ。

 勇気を出して、言わなきゃいけない!


「ドラゴン、もう目の前ですよ」

「……」

「……」


 リオンとシトリーの表情がガチン、と固まる。

 プルプルと震えながら首を動かす。

 すると二人の瞳に、口を大きく広げたドラゴンが映り込んだ。


「「ぎゃぁぁぁぁ!!」」


 二人はさすがに一般人ではない。

 叫びはしたものの、叫ぶとほぼ同時に戦闘行動に移っていた。

 リオンは盾を構えて腰を下ろし、シトリーは細剣を抜いてバックステップする。


 結果。


「ギュベロボブカババッ!!」


 リオンが食べられた。

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