第169話 お(汚)料理
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次にリオンの〆ない活け作りであるが……、残念ながら皿に盛りつけた魚の姿がない。
目を離した隙にピチピチエスケイプ。いまごろ湖に還っているだろう。
「お二人とも、よろしいですか?」
「はひよ!?」
「はんへふほ!?」
二人は互いの頬を掴みながらも、敵愾心をアルトに全力で向けた。
その視線に若干怯え、それでも言うべき所は言わなければと、アルトは口を開いた。
「まずシトリーさんの料理ですが、味見しましたか?」
「え? ……いえ、味見はしておりませんわよ?」
まるで、当然では? というようにシトリーが首を傾げる。
アルトは皿の下に溜まった殺人水をシトリーに渡す。
「料理は必ず味見しましょう。というわけで、どうぞ」
「え? ええ…………ブボッ!?」
おそらく宮廷料理の味を想像していたのだろう。彼女はなにも疑おうとはせず、口に含んだ殺人水の半分以上を飲み込んでしまったようだ。
「お、おえぇぇぇぇぇ!!」
地面に手をつきながら、シトリーが涙を流して嗚咽する。
まさか、そのまま飲み込むとは思わなかった。
嘔吐するシトリーが不憫で、アルトはその背中をさすってあげた。
「ちょっと師匠。ソイツただ自爆しただけなのに、なんでそんな扱いが良いんだよ?」
「モブ男さんも飲めば、理由が分かりますよ?」
黒い笑みを浮かべて皿を差し出すと、リオンが一歩引いた。
「う、うん。師匠の言いたいことはわかった。……で? オレの料理の感想は?」
「アレは料理じゃありません。ただの魚です」
「はあ? アンタ、俺の料理を骨まで平らげておいて、なんだよその感想。もしかしてツンデレなのか?」
「骨までは食べられませんから。というか、お二人が争っている間に逃げましたよ?」
生えた足を上手く使って、すたこらさっさと湖に戻っていった。
「なんで黙って逃がしたんだよ!? 食えよ!」
「逃げる料理をどう食べろと?」
さすがにキビシすぎる。
シトリーが落ち着いたのを見計らい、アルトは湖に向かった。
僅かなマナを練り上げ、なるべくぎりぎり殺傷力がない程度に威力を抑える。
マナが練り上がったところで、アルトは手の平を水面にかざす。
――パンッ!!
手の平から放たれた〈雷魔術〉が湖に落下した。
「いまの威力だと、10~20mほど広がったかな」
アルトの予想通り周囲20mの湖の水面に、次々と魚が浮かび上がってくる。それを〈風魔術〉を操り、湖岸に引き寄せる。
「このような釣り方も、あるんですわね……」
「俺たちの苦労は、一体……」
僅かな海藻と食べる分だけの魚を拾い上げ、あとは湖に放置しておく。気絶しているだけなのでそのうち目を覚ますだろう。その間に鳥に食べられないことを祈る。
続いてアルトは〈土魔術〉で小さい穴を開け底を固める。
中に水を溜め魚を放流する。
海藻を鍋で煮立たせ、灰汁が出たら丁寧にすくい取る。
一度味見をして出汁の出方を確認。その出汁に合わせて塩を振る。
「他に野菜があれば塩鍋になるんだけど……」
現状これしかないので諦める。
リオンが料理を眺めながら、手にしたキャベツを一枚ずつ口に放り込んでいる。
「……」
さすがにあれを奪うのはもう辞めよう。
前回は10玉で許してくれたが、次やればどうなるか……。
100玉くらい請求されかねない。
鍋の出汁が出来ると一度火を消して、魚が泥を吐くまで待機。
日は沈んでるとはいえ、アヌトリアはユーフォニアに比べ夜は長い。現在は6時くらいなので、8時頃に食事にありつければ良いだろう。
時間をかけてスープを完成させたあと、アルトはそれまで放置していた魚を手に取った。
「……一体、なにをするんですの?」
「魚を捌くんですよ」
「さばく……き、切り刻むんですの!? なんと非道な!! さすがは罪人アルトですわね!!その魚を生きたまま捌くのでしたら、わたくしは、わたくしの正義の名の下にあなたを――イヤァァァァァ!!」
五月蠅いので穴に落ちてもらった。
シトリーならば、頑張れば脱出できる程度の穴だ。そのくらいならば怪我はしないだろう。
「わたくしが油断しきった時を狙うだなんて、罪人アルト、卑怯なり!」
「はいはい。そこで少し待っててくださいね」
アルトはさくっと鱗をはぎ取り、手早く三枚に下ろし、切り身を適切に切り分ける。
「ぜぇ……ぜぇ……。許しませんわよアルトぁぁぁぁ!」
髪の毛を振り乱しながら、穴の中からシトリーが姿を現わした。
彼女自慢の髪の毛がくしゃくしゃである。
「シトリーさん。これを見てください」
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