第156話 憧れのオーダーメイド!

「うちのギルドが誠心誠意、最高の技術を持って立ち向かった作品だ」


 翌日ダグラがもったいぶるように前置きをして、平台に掛けられた麻布を一気に引き抜いた。


 剣・長剣・大剣・鉄拳……。

 アーメットヘルム・フルプレート・ハーフプレート・スパイク……。


 そこには、あらゆる種類の武具が並んでいた。

 そのどれもが、最高品質以上であることが見ただけでわかる。


 すべての武具が、まるでレッサードラゴンに似るかのように、ほんのり赤い色に染まっている。渡した骨にはそのような色など付いていなかったはずだ。


「武具に色が付いているのは、着色をしたからですか?」

「いいや。素材の力を引き出したんだよ。お前が成りたい姿はなんだ? どんな形が良い? 色はなんだ? 一つ一つ素材に聞き出していく。良い素材ってのは、こっちが聞けば答えてくれる。だからワシらは、その望みに叶うように打っただけだ」


 究極を目指すとオカルトになるというが、彼らはどうやらその極地に至ったようだ。


「師匠。オレは長剣で」

「…………わたくしは細剣を」

「リオンさんは、まあいいとして……」


 シトリーは、何故自分がもらえると思っているのだ?


「いや、いいけど」


 使わずルゥの腹の中にしまっておくよりも、使った方が武器も嬉しいはずだ。


「って、そういえばシトリーさん、その腰の宝具は使わないんですか?」

「……」


 彼女の宝具は、神代のものだったはずだ。

 それならば、ドラゴン武器よりも宝具の方が何倍も性能が良い。


 そう思って聞いてみたのが失敗だった。

 シトリーが、まるでお通夜のまっただ中のように沈痛な表情を浮かべている。


(なんでかは知らないけど、今はまともに使えないのか)


 華やいだ雰囲気が、一気に重苦しくなってしまった。

 そんな空気を払拭するように、アルトはテキパキと武具を割り振っていく。


 リオンには長剣と盾、それにフルプレートを、シトリーには細剣にハーフプレートをあてがった。


「おいお前!」


 リオンが使い古したミスリルプレートに手を掛けたとき、ダグラが凄まじい剣幕で詰め寄った。


「その鎧、どこで手にいれやがった!?」

「え? フィンリスだけど……」

「そ、そうか」


 ダグラの突然の異変に、アルトは眉根を寄せる。

 彼がこれほど驚くのは、ドラゴン素材を見たとき以来だ。


 リオンの防具はミスリル製だ。決して珍しい素材は用いられていない。

 何に驚いたのかがわからない。

 アルトは首をかしげた。


「どうしました?」

「いや、悪ぃ。なんでもねぇ」

「そう、ですか」


 ダグラは首を振り視線を外した。

 突然の変化は気になったが、それ以上踏み込む余地が見つからなかった。


 次にアルトは鞄のチェックに入る。

 布を縛っただけの鞄からルゥを取り出し、鞄を見せる。


「これが新しいルゥの鞄。どう思う?」


 にゅるんにゅるん! とルゥが体を大きく動かした。とても気に入ったようだ。

 さっそく肩に掛けてルゥを入れる。鞄の中から、いままで感じたことがないほどルゥが動き回っている。


 中の居心地もかなり良いようだ。

 鞄は大きく2つ口があり、片方がルゥの居場所で、もう片方が重要アイテムの収納場所となっている。


 ルゥにはインベントリがあるとはいえ、すぐにアイテムが排出出来るわけではない。そのため片方の口には傷薬や小銭などを入れておく予定だ。


 さらに鞄本体にベルトが付いている。

 腰に巻き付ければ無茶な動きをしても、鞄がバタバタ動かず、体に密着し続ける。これでもう戦闘中でもズレて邪魔になる心配はない。


 手で中をチェックするが、不満な点が見つからない。実に素晴らしい鞄だ。


 鞄を方から提げて、アルトは残る防具を眺める。

 頭防具は音や視界を遮るからあまり装備したくないし、体防具はまだ体が変化し続けているので、半端に調整してもすぐに使えなくなりそうだ。


 実質使い続けられそうなのは靴くらいだ。

 早速履いてみると、若干自分のサイズよりも大きい。まだ足のサイズが変わるかもしれないので、綿を詰めて調整する。


「あとは……」


 全体を眺めると、この場において異質な装備が見つかった。

 黒いローブ。

 これだけ他の物と色が違う。


「なんでこれだけ黒いんですか?」

「アヌトリアは寒いからな。ローブは黒って決まってんだよ」

「なるほど」


 ユーフォニアと違って冬は雪も降る。日照時間だって短い。だからローブは日の光を吸収する黒に染めるのだ。


 装備してみると、ドラゴンの物とは思えないほど皮が柔らかい。それに、暖かい。これにくるまれば、アヌトリアの春秋くらいなら耐えられそうだ。ユーフォニアなら冬でも楽に野宿できるだろう。


「おお、中二ローブだ!」

「ちゅうに……」


 意味はよくわからないが、すごく嫌な響きである。


「このローブ、他の色に変えられますか?」

「皮が傷む。我慢しろ」

「むぅ……」


 折角良い感じのローブなのに、リオンの言葉で台無しだった……。


 武器を一つ一つチェックして、使わないものはすべてルゥに取り込んでもらう。

 槍や大剣などは、たぶんこの先1回も使うことはないだろう。だからといって売ることもできない。


 なにかに使えそうではあるので、おいおい活用方法を考えることにする。

 ただ鉄拳はマギカへのプレゼント用に大切に保管しておく。

 アルトの予測が正しければ、きっととても喜んでくれるに違いない。


 次に会うのはいつになるかわからない。でもたぶん、そう遠くない未来にまた会えるはずだ。


(会ったとき、今までなにがあったかとか、どんなことをしてきたとか、そういう話をする余裕があるかはわからないけれど……)


 マギカ用に発注した皮の胴も保存しておく。

 マギカなら調整紐さえあれば問題なく装備できるはずだ。


 一通り確認を終えて、アルトは自分にとって最も大切なものがないことに気がついた。


「ダグラさん。短剣がないようですけど、どうされたんですか?」

「ああ、それなんだが――」


 ダグラが口を開いたとき、大きな音を立てて製図室の扉が開かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る