第136話 10倍返しだ!

 一体なにがあった……。


 アルトが目を覚ますとパーティメンバーにシトリーが増えていて、リオンとシトリーの2人は顔にひっかき傷を作って眠っていた。

 1人(?)だけ起きていたルゥがまるで、やれやれという様に体を震わせている。


「うん、なんとなく判った気がするぞ」


 呆れつつも2人を眺めていると、口の端が曲がっていく。


 凶悪なレベルアップ酔いに短期間で、それも2度も罹ったせいで、頭がふらふらだ。

 鞄から水袋を取り出し、口の中を潤す。

 水が胃の中に落ちていくと、まるで「これだけじゃ足らないよ!」と文句を言うみたいに腹の虫が喚いた。


 腹ごしらえをしようにも、手持ちの食糧は尽きている。

 だからといって、ワイバーンを食べようとは思えない。

 ワイバーンはあのレッサードラゴンと見た目が似ている。

 肉を食べるとまたあの嘔吐事件の二の轍を踏みそうなので、食べる気がちっとも起こらない。


「もきゅ?(ん? おなかへったの? お肉だしてあげるね!)」


 ルゥがアルトの顔を覗き込むが、それはイケナイ、ルゥ、辞めるんだ!


 ルゥが持っているだろう肉は最も新しいものでも、3年前に狩ったドラゴンのはず。

 3年間熟成を重ねた肉など見たくはない。


 もし熟成しきってドロドロになった肉など出てきた日には、もう二度と肉が食べられなくなるかもしれない。

 全力でお断りだ。


 しかしルゥはアルトの拒絶を意に介せず、体を膨らませてなにかを吐き出そうとする。


 いやぁぁぁ!

 やめてぇぇぇぇ!


 怯えたアルトだったが、しかし吐出されたのは肉ではなく、魔石だった。

 ポポポポポン、と次々と大きなサイズの魔石がルゥの体から排出される。


「ん、これは……ああ、ワイバーンの魔石か。びっくりしたぁ」


 びっくりした? びっくりした?

 意図的に驚かせようとしたのだろう。どこか嬉しそうに跳ね回るルゥを捕まえ、このこのーとじゃれつく。

 ついこのあいだまでは、こんな悪戯はしなかったのに。

 ルゥの成長がめざましくて、ついつい目に涙が浮かんでしまう。


「にしても、この魔石。一体何個あるんだ?」


 ルゥが吐き出したのは、100個くらいか?

 おそらく、それで全部ではないだろう。

 もっと要る? と言うようにルゥがモキュモキュしている。


 フィンリスの迷宮で名人級まで腕を上げたルゥのことだ。アルトが眠っているあいだにぬるっと罠に忍び込んで、ワイバーンすべてから魔石を抜き出したに違いない。


「魔石を拾ってくれてありがとう。でも、これはいまはルゥが持っててくれる?」


 そう言ってルゥに魔石を収納させる。さすがにここで吐き出されても全部持って帰れない。

 アルトに構ってもらえて満足したのだろう。ルゥはおとなしく吐き出した魔石をすべて飲み込んだ。


「さて。問題の空腹をどうしよう?」


 普通の探索や魔物が相手ならば、空腹状態でも問題はない。

 けれどこの先にいる気配の強さを思うと、なるべく空腹状態での戦闘は避けたい。


「…………」


 背に腹は代えられない。

 仕方が無いので、アルトはこっそりリオンの鞄からキャベツを奪った。

 あとでいくらでも買ってあげるので、許してほしい。


「……む? このキャベツ、ずいぶん新鮮だぞ?」


 一体どこで購入したのか気になる。


 歯ごたえはぱりっとしていて、噛んだ途端に中から水があふれ出す。初めは水分が喉を潤し、遅れてキャベツ本来の強烈な甘みが口の中に広がる。


「ヤバイ……キャベツをむしる手が止まらない!」


 キャベツを食べながら、アルトはスキルボードを確認する。


【名前】アルト 【Lv】14→40 【存在力】☆☆

【職業】工作員 【天賦】創造  【Pt】3

【筋力】224→640  【体力】157→448

【敏捷】112→320  【魔力】896→2560

【精神力】784→2240【知力】402→1149


【パッシブ】

・身体操作50/100    ・体力回復50/100

・魔力操作70/100    ・魔力回復63/100

・剣術49/100      ・体術32/100

・気配遮断21/100    ・気配察知43/100

・回避51/100      ・空腹耐性56/100

・重耐性51/100     ・工作65/100

【アクティブ】

・熱魔術47/100     ・水魔術46/100

・風魔術44/100     ・土魔術45/100

・忍び足16/100     ・解体7/100

・鑑定 31/100

【天賦スキル】

・グレイブLv4       ・ハックLv3

・格差耐性



「ずいぶん上がったなぁ……」


 13から3日間で一気に40。ちょっと無理をしたが、うまくいってよかった。


「あ、オレのキャベツ……」


 丁度芯を食べ終えたころ、ぱちりと目を開いたリオンが呟いた。

 ……これはまずい。


「オレの、オレのキャベツがぁぁぁぁ!!」

「まってモブ男さん落ち着いて!」


 リオンがアルトに額をぶつけるくらい詰め寄ってきたので、慌てて平手で額を押したら、


「あばばばば!」


 思いの外強い力が出てリオンの首があらぬ方向に反っくり返ってしまった。

 ……い、生きてるかな?


「――むぐん! これが落ち着けるはずないだろ!」


 あ、生きてた。


「酷い。酷すぎる!! 師匠がそんなことする人だとは思わなかった! ガッカリだ!!」


 まるで人殺しでもしたみたいな台詞である。


「本当にごめんなさい。今度ちゃんと買って返しますので……」

「10玉」

「え?」

「10玉買え。それなら許す」

「あ……はい」


 たったキャベツ10玉で機嫌を直してくれるあたり、心が広い。

 いや、アルトが食べた分量の10倍を要求するのだから、ものすごく心が狭いと言うべきか?

 単に、食い意地が張っているだけかもしれない。

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