二部 プロローグ

第115話 プロローグ

本日より連載再開です。

投稿は毎週金曜日予定です。


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 ルミネで発見された少年は言葉を話せる状態にはなかった。

 全身が焼けただれ、骨は何本も折れていた。


 一言でいえば、悲惨な状態だ。

 発見したエルフたちは、首を傾げた。

 何故こんな状態で生きていられるのか不思議で仕方がない。


 このまま見捨てることはできる。

 だが、見捨てたことが明るみに出れば、自分たちの立場が危うくなる。

 なのでエルフたちはひとまず、回復薬を飲ませることにした。


 与えた回復薬は低級のもの。


「こいつはどうせ死ぬ」


 誰もがそう思った。

 しかし大方の予測とは裏腹に、少年はみるみる回復していった。


 これにより、エルフたちはさらに頭を抱えることとなる。


 エルフは、アヌトリア帝国領内にあるルミネで暮らしている。

 ここにはドワーフ以外の人族は現れない。


 それはルミネが人里から離れているからではない。

 エルフが人間を街に近づけないようにしているからだ。


 エルフは、人間が嫌いなのだ。


『追放するべきか?』

『追放すれば、帝国に恨みを買うのではないか?』

『では帝国に報告を?』

『人間に頭を下げろと?』

『謝罪ではなく報告だ馬鹿者』

『そのまま押しつけられたらどうする?』


 侃々諤々と議論をする中、とあるドワーフが街を訪れた。

 エルフにとってそれは、救いを与える使者であった。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 ルミネを訪れたドワーフ族の男性――ダグラは、ドワーフ武具ギルドに所属するの鍛冶士だ。


 わざわざルミネにやってきたというのに、誰1人としてダグラを出迎えない。

 どうしたものかと酋長邸を覗き込むと、皆が一様に難しい顔をしているではないか。


「なに難しい顔してんだ? そんな眉間に皺を寄せてたらドワーフになっちまうぞ」


 下らない冗談を口にしたとき、エルフ達は一斉にダグラを見た。


『まさか神か!?』

『これが神か』

『おお救いの神よ!』


 そんな視線で見つめられ、ダグラは困惑した。


「……な、なんかあったのか?」

「ああ、実はな――」


 気を利かせて尋ねてみると、エルフたちは待ってましたと言わんばかりに語り出した。


 聞けば、現在ルミネに人間がいるとのこと。

 その人間は、ここを訪れた時は死にかけだった。

 現在は一命を取り留めたが、ここからどうするべきかがわからない。


 人間の世話などしたくないし、かといって追い出すわけにもいかない。

 どうしようかと頭を抱えていた時に、ちょうどダグラが現れた。


(めんどくせぇ野郎どもだな)


 自分たちが拾ったのなら、最後まで面倒を見るのが筋だと腹を括れば良いものを、いつまでもうだうだと、口ばかり動かしている。

 そんなエルフに、ダグラは内心うんざりした。


 だがドワーフにとってエルフは、神代からの盟友といっていい存在だ。

 どうしてもと言われると。情に篤いダグラは断り切れない。

 しぶしぶ、少年の様子を見に行くことにした。



 死にかけだったというから酷い状態を想像していたのだが、少年には特に異常は見られなかった。

 五体満足だし、どこかに傷が残っているようでもない。

 聞けば回復薬を与えたというので、きっとそれで治ったのだろう。


(しかしまあ、ひでぇもんだ)


 少年の体には、傷一つない。

 しかし開いた彼の目は、ダグラを捉えていなかった。

 目の前で手を振るが、反応一つない。


「こりゃダメだな」


 この少年は、生きてはいる。

 だがそれだけだ。

 心が完全に壊れてしまっている。


 少年をどうするかについては、ダグラの一存では決められない。


「ひとまず首都にあるドワーフ街ダブリルに戻って相談する」


 エルフ達にそう告げて、彼は商売のことも忘れてルミネを出たのだった。




 ダグラがルミネを出てしばらく歩くと、背後から妙な気配を感じた。


「魔物か?」


 そう思ったが、すぐに首を振る。

 殺気が感じられない。

 おそらく、魔物ではないだろう。


 さりげなく背後を伺うと、木々の間に先ほど見た少年の姿を見つけた。


「――馬鹿なッ!!」


 驚愕にダグラは目を見開いた。


 先ほどまで、少年はルミネにいた。

 とてもではないが、自分の意思で歩けるようには見えなかった。


「なんでこんな所に……」


 考えると、すぐにその理由に思い至った。


「あいつ等、人間の子どもを棄てやがったな!?」


 ダグラの頭に血が上る。

 あまりの怒りに視界の端でぱちぱち星が弾けた。


 エルフは人間が嫌いだ。

 しかしいくら嫌いだからといって、死にかけていた子どもを棄てるなど、大人のすることではない。


 ダグラは怒りのままにルミネに戻り、この少年を放り出したエルフどもをぶん殴りたかった。


 だがドワーフにとって、エルフはお得意様だ。

 特に彼らが持つ技術は生命線だ。

 下手に殴り込んでへそを曲げられれば、ギルド全体の問題になってしまう。


(どうにかして落とし前をつけてやりてぇが、まずはこの子どもをどうにかせんといかんな)


  ダグラは怒りをぐっと飲み込み、少年に歩み寄った。


「おう。追い出されちまったな。お前、なんて名前なんだ?」

「…………」


 少年は純朴そうな瞳をダグラに向ける。


「お、おいおい、そんな目で俺を見るなよ」


 ダグラは少し照れ、少し罪悪感を覚えた。

 まるで、「暴力はダメだよ?」と言われているように思えたのだ。


「……わりぃ。ついカッとなっちまって。とりあえず、ワシの街に来い。食い物はしょっぱいし、飲み物は酒しかねぇけど、この森よりか上等だろ?」


 話しかけても、少年からの返答はない。

 しかし少しだけ、目が揺れ動いた。

 ダグラの言葉に反応しているのだ。


「……しゃあねぇ。ひと肌脱ぐか!」


 言葉がしゃべれず、死にそうになりながらも生き延び、ルミネから追い出された。

 そんな少年を、このまま放置することなどダグラにはできなかった。


 少年の手を引っ張って首都イシュトマにあるドワーフ街“ダブリル”へと向かうのだった。




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拙作「最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強 自分だけのレアスキルとカスタムアビリティを駆使して他の誰より強くなる!」のコミカライズ連載開始日が決定いたしました!

詳しくは活動報告をごらんください。

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