第110話 善魔との戦い1

「――ッ!?」


 強大な力の波動に、アルトは生唾を飲み込む。


「悪魔……いや、これは……」


 自然発生した力を悪魔と呼ぶなら、神が産み落としたそれは善魔と呼ぶべきか。

 以前にキノトグリスで悪魔と、同等の波動を感じる。


 キノトグリスでの悪魔戦では、動けなくなった。

 だが今回は、動ける。


「行ける」


 アルトは一度すべての力を抜いて、王都中に仕掛けた《工作》を解除した。

 同時に、ガミジンがやったように《工作》に用いたマナを回収する。


 マナが、ジワジワと回復する。

 回収出来たのは、おおよそ一割程度。

 すべてを吸収出来なかったが、無いよりマシだ。


 続いてアルトは、スキルボードを出現させる。

 相手は善魔だ。備えられるだけ備えるべきだ。



【名前】アルト 【Lv】78 【存在力】☆☆

【職業】工作員 【天賦】創造    【Pt】2

【筋力】1248(+500) 【体力】874

【敏捷】624       【魔力】4992(+100)

【精神力】4368(+50) 【知力】2240


【パッシブ】

・身体操作50/100    ・体力回復50/100

・魔力操作68/100    ・魔力回復63/100

・剣術49/100      ・体術32/100

・気配遮断21/100    ・気配察知43/100

・回避51/100      ・空腹耐性56/100

・重耐性51/100     ・工作65/100

【アクティブ】

・熱魔術47/100     ・水魔術46/100

・風魔術44/100     ・土魔術45/100

・忍び足16/100     ・解体7/100

・鑑定 31/100

【天賦スキル】

・グレイブLv3       ・ハックLv2

・格差耐性



「あ、そういえば、またポイントが増えてたな」


 ガミジンを倒した直後に、【Pt】が1つ増加していた。

 このポイントが上昇する条件を、アルトは未だに解明出来ていない。


 だが薄々、どうすればポイントが増えるのかは、想像出来る。


「運命を改変したら、か……」


 これまでポイントが増えたのは、決まって前世と違う結果を出した時だった。

 それ以外で、ポイントが上昇したことは一度もない。


(つまりこれは、運命改変ポイントなんだ)


「――って、考えてる場合じゃない!」


 いまは考察している時間はない。

 アルトは頭を振って思考を切り替える。


 素早く指を動かして、天賦スキルにポイントを振り分ける。


>>【Pt】2→0

>>グレイブ3→4

>>ハック2→3


 これで準備が整った。

 スキルボードを消して、アルトは神経を研ぎ澄ます。


 目の前の光は、ゆっくりとその形を変化させていく。


(いますぐに攻撃しても、無効化されるか)


 実体がないため、攻撃が出来ない。


 光は細長く伸び、その先を斧に。

 全身が人間のような形を作る。

 背中で膨らんだ光は、翼となった。


 翼の生えた、ポールアクスを手にした重戦士。

 体が白く変化すると同時に、善魔がアルトに向けて飛び込んだ。


(――早い!!)


 アルトが相手の攻撃を避けられたのは、ほとんど勘だけだった。

 腹部の数センチ手前を、ポールアクスの刃が通り抜ける。


 アクスが回転し、直上から攻撃。

 アルトはこれを、短剣を掲げて防御。

 しかし――、


 ――ィィィイインン!!


「な――!?」


 甲高い音を立てて、龍牙の短剣が破壊された。


 ドラゴンの牙は、ミスリルを超える硬度を持つ。

 その素材で作った短剣が、まさか折れるなど予想もしていなかった。


 アルトは呆然とした。

 その大きな隙に、善魔が攻撃。


 瞬間、


 ――ドッ!!


 善魔が僅かに傾いだ。


 たった1cm程度のズレが、アルトをこの世につなぎ止めた。


 善魔を傾がせたのは、マギカだ。

 彼女は青白い顔をしながら、拳を構えて善魔を睨み付けている。


 もし彼女がいなければ、アルトは確実に死んでいた。

 それを想像すると、背筋に嫌な汗が流れる。


「ありがとう、マギカ」

「油断しないで。私でも、霞む」

「な……」


 マギカの一言に、アルトは戦慄した。

 彼女はアルトの何倍も敏捷性が高い。


(まさかマギカでさえ、相手の攻撃が霞んで見えるなんて……)


 通常、重戦士は敏捷性が低い。

 それが、素早く動けるどころか、栗鼠族で拳闘士のマギカと同等の敏捷性を持っているとは、にわかに受け入れ難い。


 明らかに異常だ。

 しかし、この善魔は神が生み出した存在だ。

 尋常ではない性能で作られていても不思議ではない。


「マギカ、いける?」

「頑張る」

「気をつけて」

「そっちも」


 お互いが頷くと同時に、動いた。

 アルトはバックステップ。

 マギカが前に出た。


 ポールアクスはその特性上、振りかぶってから攻撃が直撃するまでの動作が長い。

 そのため、マギカは善魔の攻撃を躱せている。


 対してマギカの攻撃は、予備動作の少ない鉄拳だ。

 大技を狙わなければ攻撃が当たる。


 おまけに戦闘技術は、マギカの方が上だ。

 栗鼠族としての体をフルに生かした《鉄拳術》で、相手の速度を上回る。


 マギカの攻撃はみるみる回転数を高め、善魔を周回遅れにしていく。


 彼女の戦闘を眺めながら、アルトは魔力をコントロールする。

 初めから切り札をガンガン使えば、早い段階で対応されてしまう。それはガミジンと戦った経験から学んだ。


 なるべくなら切り札は、ここぞという時のために残しておきたい。

 だがそうも言ってられない状態は、必ず来る。


 それまでに憎悪(ヘイト)を奪わないよう、相手の体力を削る。


 アルトは威力を控えめにした、極小の〈焦熱(フレア)〉を無数生み出した。

 それを空中に浮かべ、マギカたちを囲い込む。


 善魔に隙が生まれた瞬間、最も近いフレアを善魔に当てた。

 これはガミジンが防御に使った魔術の応用だ。


 戦場は常に動いている。アルトから敵の距離も一定ではない。

 素早い相手に魔術をヒットさせるのは至難の業だ。

 特に善魔の程の敏捷力ともなれば、当たらないのが道理である。


 しかし初めから設置型の魔術ならば、善魔のように素早い相手であっても高確率で当てられる。


 アルトが大量の魔術をコントロールする中、マギカが次々と善魔の隙を作っていく。

 ジャブで発動させている〈振動撃〉で発生するわずかなスタンが良い仕事をしている。

 マギカが生んだ隙に、アルトは極小フレアを見舞う。


 善魔の白が、徐々に焦げ付いていく。


(このままいけるか?)

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