第98話 決戦2
体への衝撃により、アルトを束縛していたフォルテルニアの魔法がわずかに緩んだ。
その変化を、アルトは決して見逃さない。
全身にマナを巡らせる。
そのマナが、わずかな綻びを攻撃する。
体を束縛する魔法の糸を、少しずつ少しずつ、食い破る。
そして――。
「……ようやっと、目が覚めた気分だ」
アルトは四肢に力を入れ、ゆっくりと立ち上がった。
「何度立ち上がったところで、無駄ですよぉ」
「それを決めるのはあなたじゃない」
「生意気ですねぇ。……農民のガキになにが出来る!」
「――大切な人を守れる!」
>>【存在力】☆→☆☆
>>【職業】作業員→工作員
言葉を心に染みこませ、アルトは4色の魔術を発動した。
小範囲灰燼型・集中性・極火力魔術。
〈シューティング・フレア〉
中範囲零棺型・封縛性・超火力魔術。
〈アイシクル・コフィン〉
小範囲分離型・集中性・超火力魔術。
〈ストーム・ラプチャ〉
小範囲爆裂型・圧縮性・超火力魔術。
〈ハイドリック・バースト〉
街に被害が及ばぬよう、範囲を抑えた魔術に限定する。
だが火力を出し惜しみするつもりはない。
(やけに体が軽いな)
アルトは首を傾げる。
上級魔術を発動したというのに、体への負担が想像よりも少なかった。
疑問には思ったが、考えている時間はない。
相手はユーフォニア12将魔聖と謳われる、最強の名を冠する魔術の1人である。
アルトはすぐさま、思考を切り替える。
初級魔術で手の内を暴く。そんな小手先が通用する様な相手じゃない。
小手調べをしようものなら、それだけで戦闘が終わってしまうかもしれない。
だからこそアルトは、様子見などせず、全力をぶつける。
そのアルトの魔術に、ガミジンの表情が変化した。
「農民のくせに、上級魔術とはナマイキですねぇ」
そう言うと、彼は魔術の発動体たる杖から大きな火球を生み出した。
杖が体から放出されるマナを、効率的に魔術へと変換させる。
生まれ出た炎は通常のものとは違い、闇に溶け込むように黒々と燃えさかっている。
その魔術には、恐ろしいほどの力が込められていた。
(3発……いや、2発で相殺できるか)
アルトは瞬時に判断し、魔術を飛ばす。
〈シューティングフレア〉と〈ストームラプチャ〉でガミジンの魔術を破壊。
残る〈アイシクルコフィン〉と〈ハイドリックバースト〉をガミジンに向けて飛ばした。
魔術を破壊されたガミジンは、瞬時に次の魔術を発動した。
「〈灰燼の死黒(ダーティ・フレア)〉」
短く呟くと、彼の魔術が残る2つのアルトの魔術を相殺した。
魔力の総量は、おそらくアルトが上だ。
しかし、《魔力操作》は相手の方が格段に上。
それもそうだ。いくら0歳から《魔力操作》を上げてきたとはいえ、相手はアルトの倍以上も年上だ。
訓練が同程度の密度であるならば、熟練の多寡は生きた年数に左右される。
熟練は10離れると、1,5倍ほどスキルの性能が変わる。
このことから、ガミジンはアルトよりも、《魔力操作》が20は高いと予想出来る。
《魔力操作》が高いと、1つの魔術に対して籠められるマナの量が変化する。
同じ魔術を用いても、結果は全く変ってしまう。
しかしアルトは自分よりも高い、ガミジンの《魔力操作》を目の当たりにしても、まったく動揺しなかった。
アルトは初めから、最悪の状況を想定していた。
ガミジンの能力を、レベル99、熟練度が100と想定し、修行を行って来たのだ。
幸運なことに、ガミジンはアルトが想像した水準よりは低いようだ。
何故ならもし最高レベルであれば、彼の魔術1つにつき、アルトは魔術を4つ当てなければ相殺できなかったからだ。
想定を下回り、アルトは僅かにほっとする。
かといって気を抜くようなヘマはしない。
魔術を展開しながら、アルトは短剣を抜いた。
魔術をガミジンに放ち、即座に彼の背後に回り込む。
ガミジンはアルトの魔術が大規模なものでないと判断したのか、魔術を相殺せずに、体捌きのみで躱した。
(近接戦も出来るのかっ!)
想定よりも生じた隙が少ない。
歯がみしながらも、踏み込んだ足でブレーキをかける。
アルトの魔術の直撃を受けて、粉砕された石や砂が巻き上げられる。
その砂石の煙幕に乗じて気配を隠蔽する。
さすがにガミジンは、これに対処できないようだ。
己の周りに黒い炎で壁を作り出した。
それはアルトの攻撃を妨げる壁ではなく、侵入を感知する網だ。
彼の壁の中には、既に4つの黒炎球が浮かんでいる。壁に接触した時点で居場所を察知し、攻撃するつもりなのだ。
たとえアルトが最高速度で突っ込んでも、彼ならば対処出来るはずだ。
それを予想出来ていたが、アルトは炎の壁に突っ込んだ。
炎の壁を破った瞬間、ガミジンの唇が歪んだ。
「殺った」
そう思ったに違いない。
だが、ガミジンが操作した魔術は、アルトに接触する手前で僅かに方向を変えた。
――〈ハック〉。
「な――」
ガミジンの目が、驚愕に見開かれる。
アルトの致命の一撃が、ガミジンののど元に迫る。
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