第97話 決戦1
ふと、過去を鮮明に思い出し、アルトは感情を高ぶらせた。
意識的に深呼吸をし、これまでのレベリングを思い出し、アルトは気持ちを落ち着かせる。
(大丈夫)
(出来る事はすべてやった)
(だから、大丈夫……)
窓の外の監視を初めてから1時間。
あの男が、ついに宮廷学校前の通りに現れた。
――瞬間、アルトは跳躍していた。
床を〈土魔術〉で補強し、全力で跳躍。
その跳躍に、〈ハック〉と〈空気砲(エアバズーカー)〉を重ねた。
まるでカタパルトで射出されたかのような速度でアルトは跳んだ。
着地すると同時に、石畳が大きく粉砕された。
「…………どちらさまですかぁ?」
男は驚愕により目を見開いた。
見た目は30代後半。黒色のローブに身を纏った小男。
フードを目深に被り、その中からぼさぼさの髪の毛が飛び出している。
かなりやせ細っているために、暗闇の中では頬骨が浮かび上がり骸骨のように見える。
手には宝石で装飾された杖が握られている。
その杖だけで、豪邸が建つに違いない。
男の瞳に射貫かれた途端、アルトの体に震えが走った。
アルトはゆっくりと、体に異変がないことを確認しながら立ち上がる。
前回は、一定の距離まで近づくと体がぴくりとも反応しなかった。
だが今回は違う。
まだ、動ける。
足も手も、アルトの意思に反応する。
「お初にお目に掛かります。僕はアルトと申します。ただのアルトです」
「はあ、ただの? はぁ……」
彼は、まるで蜘蛛の糸に引っかかったかのようにため息を吐き出した。
『こんなものに足止めをされるとは』
そんな思いがため息から感じ取れる。
「アナタはユーフォニア12将の一人、魔聖ガミジン・ソルスウェイ様とお見受けいたします」
「分かっているなら消えていただけますかぁ? 私、これでも忙しいんですよぉ」
「致しかねます。今宵、僕はアナタの愚行を止めに参りました」
「愚行ぉ?」
ガミジンの表情が僅かに歪んだ。
彼はこれから実験と称し、どうやって公爵家の人間を血祭りに上げるかを楽しみにしていたはずだ。
そんなもの、絶対にさせるわけにはいかない。
「私にはぁ、ガキに構ってる暇はないんですよぉ。特に現在は、王の勅命を預かってるんですよぉ。だから――」
ガミジンの表情が一転。威嚇だけではなく、実行力を伴った殺意がアルトを襲う。
その威圧でアルトの体が動作を手放した。
(しまった!)
アルトは内心舌打ちをした。
マギカやリオンと共にいたことで、存在力が☆4の者の前でも、自由に動けることはわかっていた。
問題は、威圧だ。
キノトグリスに現われた悪魔のように、威圧を放たれると、動けなくなる。
これをクリアする方法は、未だに判明していない。
――いや、動けるものではないのだ。
壊れた器が元通りにならないのと同じように、
死者が生き返らないのと同じように……。
こうなるように、神が魔法を作ったのだから。
(動け)
(動けこの体(ポンコツ)!)
(ここで動かなかったら、一体なんのために死に戻ったんだ!!)
精神力で動かそうとするも、やはり体はぴくりとも反応しない。
――力が欲しい。
(くそ! くそっ! くそっ!!)
(動けってば!!)
(動けよッ!!)
――世界の理不尽を、ねじ伏せられるだけの力が。
「退け、クソガキ」
動かぬ体に必死になっていたアルトは、目の前に迫るガミジンの杖にまるで気づけなかった。
「ガッ――!!」
振り抜かれた高硬度の杖が、側頭部に激突。
アルトの目の奥で火が爆ぜる。
激しい衝撃。
痛み。
目眩。
杖に殴り飛ばされて、
地面を3度転がり停止。
アルトの側頭部から、血液がしたたり落ちる。
「んんー? やけに硬いですねえ」
ガミジンが、杖を振り抜いた体勢で首を傾げた。
「まっ、良いでしょう。壊れるまで殴れば壊れますから――ねっ!!」
「カハッ!!」
ガミジンが再び杖を振り抜いた。
先端が腹部に直撃し、アルトは体をくの字に折った。
「さあ、いつ壊れますかぁ?」
「クハッ!」
「ほらほらほら」
「うぐっ!」
「このままだと仕事に支障を来しますからぁ――」
「グッ!!」
「早く壊れてくださいよぉ」
「ガッ!!」
何度も何度も、ガミジンが杖を振るう。
それを避けることが出来ず、アルトはガミジンから一方的に攻撃を食らい続けた。
「なかなか壊れませんねぇ。一体アナタは何者なんですかぁ? ……いや、そんなことはどうだって良いですねぇ」
そう言うと、ガミジンの手に黒々とした炎が出現した。
まるでコールタールのように、ドロドロとした粘性の炎が、帳が降りた街の中で、静かに揺らめいている。
まともに食らえば、アルトとて一撃で蒸発してしまう。
ガミジンが生み出した炎は、それほどのものだった。
「さっさと壊してしまいま――ん?」
ガミジンが炎を放とうとした、その時だった。
アルトの口角が、上がった。
>>格差耐性 NEW
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